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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第三章 騎士編
116/130

113_予想外の激戦区


「タクヤ!そちらへ行ったぞ!止めろ!」


「分かってる!こんの!」


 ロディマス達は目的地に無事辿り着いた。

 しかしそこは、前情報とは異なり、現地は既に戦場と化していた。辛うじて村だったと分かる程度の木製の柵が残されているのみで、周囲は相当に荒らされていた。

 ロディマスは馬車を陣地を構築しているテントがある場所へ寄せて、すぐさま臨戦態勢を取った。


 そして現地の神官戦士たちと協力して魔物を退治しているが、やはり魔物の最大の脅威は数であると、ロディマスは痛感していた。


「ロディマス様!こっち、もう、無理よぅ!」


「ウチもきついわー」


「それ以前に、気持ち悪いです。このトロールとか言う魔物」


 ミヤコが言う通り、トロールは非常に見た目が醜悪な魔物である。出来損ないの猿のような外見に体毛が全くない酷い外見をしていた。年頃の少女たちが生理的な嫌悪感を抱くのも無理はなく、先ほど戦ったミニスタブホースがまだかわいく見えるほどであった。


「だが、逆にこれで殺しを躊躇せずには済むか!」


 彼ら異世界人、特に日本人の最大の難点は、日本が平和すぎた事である。

 普段自分たちが食べている肉でさえ、誰かにト殺されたものではあるが、だからと言って彼らがそれを直接行なう事はないし、率先してそのような行為に及ぼうなどとは考えない。それだけ死が遠いのが、日本と言う国だった。

 だがそのロディマスの懸念も、ここに来て解決した。魔物の動きを誘導など出来ないので、これ自体は偶然だろうが、ロディマスはとにかく今はそれに乗ることにした。


「あまりに事態が出来すぎていて、何者かの意図を勘繰ってしまうが、とにかく今は戦わせる!」


 そうぼやきつつ、細かに指示を出す。


 唯一の男、タクヤは積極的に味方のフォローへと入り、神官戦士達に何度となく感謝をされていた。元サッカー部でミッドフィルダーだったと言うタクヤは、まさにサポートの天才だった。トロールが容赦なくその剛腕を振り上げ神官戦士を押しつぶそうとすると、横から剣で突いて気を逸らし、次へと向かう。決して無理などせず、また、大きな動きをしないで次々と味方の窮地を救っていく。ロディマスの指示もよく聞き、戦場を縦横無尽に駆け抜けていた。


 そして残りの女子三人はひとまとめにしてロディマスが面倒を見ている。

 全員が前衛、剣士である事から連携は最小限に留め、それぞれが近場のトロールを潰す形にしている。そこにロディマスが細かく魔法を使い援護をして、トロールの群れを押しとどめていた。


「しかしラチが明かん!ここの責任者は誰だ!!」


「ケネリ戦団長は、お亡くなりになりました!!副官のゴードン騎士様もです!」


「なんだと!?」


「最初のトロールの襲撃で!いきなりだったんです!!」


 それで一気に押し込まれ、このざまなのかとロディマスは納得した。しかも自分たちが到着していなければ全滅もしていたのだろう。厄介な事態だとロディマスは歯噛みした。

 魔物との戦いは、基本的に相手が全滅するまで行われる。魔物自体が中々退かないからである。ただしそれも大きく戦力を削ぐような何かがあれば、別である。その為、ロディマスは戦いながら、少女たちのお守りをしながら作戦を考えなければならなかった。


「仕方があるまい・・・。奥の手を使うか」


 相変わらず想定外の事態に弱いロディマスは、力業で解決する結論を出した。

 少女たちへのフォローを近場にいた騎士に任せ、ロディマスは馬車から荷物を一つ、取り出した。それは改良された例の魔石砲丸である。それを呼び戻したタクヤに持たせ、特定の場所へ放り入れるように指示を出す。


「蹴ってもいいのか?」


「パスを出す程度の力であれば問題はないが、シュートするほどだと割れる危険がある」


「なら、問題なしっと!」


 ボール状の魔石砲丸を抱え走るタクヤを見送り、ロディマスは急ぎ全体に指示を出した。今回特に厄介なのは、この部隊が神官戦士と騎士との混合部隊だった事である。指示系統が二つあり、しかもそれぞれのトップが最初の襲撃で死んでいる。恐らく勇者ご一行が来るからと打ち合わせをしていたのだろうが、それが完全に仇となった。ある意味で、ロディマス達が殺したようなものであったが、そこで思い悩むほどロディマスは純粋ではなかった。

 風魔法で声を大きくして、全体に宣告した。


「今から強力な魔法を勇者が使う!合図と共にさがれ!カウント3秒で大爆発を起こす!」


「え?誰が?タクヤ?」


 異世界人の少女三人が初耳だと言って狼狽えるが、今のは方便なのでロディマスは答えなかった。本当はロディマスが用意した魔石砲丸だが、この存在を知られるのもあまり宜しくない上に、勇者より目立ちたくなかったのである。幸いにもタクヤも何を言っているのか理解してないようで、射線を通しやすい場所を探して右往左往していただけだった。



□□□



「助かりました!私、臨時のリーダーを務めることになったハルキスと申します」


「ロディマスだ。こちらがタクヤ、マコト、ミヤコ、マイカだ。こちらの四人が勇者だ」


「おお、勇者様!先ほどの一撃!あれこそまさに神の鉄槌!素晴らしかったです!」


「え?いや、俺じゃないけお!?」


「いいから黙って頷いておけ。説明は後程する」


 こっそりとタクヤに話を合わせるように言えば、ロディマスの方が上だと思っているタクヤはすんなりと従った。


「お、お役に立てて、こうへいです!」


 噛んだ、と思ったタクヤは顔を真っ赤にして俯いたが、これは好都合とロディマスは話を打ち切ることにした。


「御覧の通り、勇者たちは着いたばかりで暴れたために、少々疲れている。今日の所はこれで開放してはもらえんか?話であれば俺が後程聞こう」


「は、はい!そうでした!配慮が足りず、申し訳ございません!」


「そうだな。詫びとして、体を拭けるだけの湯を用意するといい。ヤツらはそれで満足するだろう」


「何と言う寛大な方々だ。年若いのに、素晴らしい事です!」


 大げさなヤツだと思いつつも、リーダーが信心深い神官戦士側から出た事に少しばかり安心していたロディマスは、そのまま別れを告げて四人を引き連れ馬車へと向かった。

 馬車の周囲には先ほどの戦いで助けられた神官戦士や騎士達が、勇者たちのためにテントを張っていた。

 そんな彼らに礼を言いつつ、これから打ち合わせがある事を告げ解散させた。そうでもしなければいつまでも礼を言い続けそうな空気があったからである。



「なんだか、すごい世界に来ちゃったね」


 ポツリとマコトがそう漏らせば、他の三人はため息で返事をしていた。それほど疲れたのだろう。だが、ロディマスはそれでも話をしなければならなかった。


「この後で体を拭く機会をやる。そしてその後は寝るといい。ここの見張りは他の連中が引き受ける。だから今は話を聞け」


「うん・・・」


「今日は、はっきり言えば、偶発的な事故だ。俺たちこの世界の人間でも早々起こるような事態ではない」


「あ、そうなんだ。良かったねマコちゃん」


「だが、見ての通り泊まる予定だった村は壊滅だ。そしてここの守りを固めていた連中も半分が脱落した」


 そう、辺境の小さな村で魔物の群れが散見されるようになったからと、すでに何組もの神官戦士団や騎士団が派遣されていたが、結果は御覧の有様である。楽観視は出来ず、予断を許さない状況だった。


「それって、大丈夫なのかな?逃げた方がいいんじゃないのかな」


 マコトがそう呟くが、ロディマスはそれを大きく否定をした。


「大丈夫だ。本来貴様らが本気であればあの程度は物の数ではない。『勇者』と言うのは、そう言う存在だ。俺たちなど塵あくたにも等しいほどの力を持っている。だから逃げる方が、悪手だ。守るべき場所が増えて手に負えなくなる」


「そんなに強くないよ!?」


「その力は常に安全装置が働いている。当然だろう?」


 ならばそれをどうやって外すのか。

 ロディマスは知っている。かつて、『勇者』候補から『勇者』へと飛躍した存在を目の当たりにしたのだから。しかし、ロディマスに焦るつもりはなかった。誰かの犠牲を元に、怒りで力を解放するなどロクでもないやり方である。もう一度自分が犠牲になる気などないのも大きかった。


「だが、それは言い換えれば、まだ大丈夫だというものだ。そうでなければ今頃は、安全装置など吹き飛んでいるはずだ」


「そうなんだ・・・そうだよね!神様からもらった力なんだし!」


「そうだな」


「危機に陥ったらきっと助けてくれるよ!」


 それはその通りだろう。ただしその時助かるのは彼女らであり、神官戦士や騎士の面々ばかりだろう。その中に、己が含まれていないのをロディマスは感じ取っていた。神々の悪意か、それとも他の何かの思惑か。ロディマスは常に踊らされている中で、最善手を、最悪の事態を考える。


「とにかく今は休め。ああ、今日のあの爆発物はもうない。誰かに何かを聞かれたらそう答えろ」


「あれって、何だったの?」


「貴様らの世界の兵器を再現しようとして失敗した失敗作だ。爆弾、と言うのか?」


「あれって爆弾だったのかよ!!」


 今頃タクヤが驚いているが、他の何だと思ったのかロディマスはちょっと聞きたくなった。

 すると、あれから結界が張られるようなものだと思っていたとの答えを聞き、ロディマスは考えた。


「結界、結界か。そのような都合の良いものが、果たしてこの世にあるのだろうか」


 よくあるファンタジーの魔法、結界、バリア、シールド。言われてみれば、この世界にはそれらが存在しない。辛うじて土魔法で土壁を出す程度だが、それには時間がかかる。

 だが、発想の転換として、電撃を流す柱はどうか。そう考えピンと来た。


「これは・・・、世界が一変するかもしれんな」


「え、何?どうしたの?」


「悪そうな顔してるやんー」


「マイカよ、頬を突くな」


「申し訳ありません!湯の用意が出来ましたがどちらにお運びしましょうか?」


 そう言われ、ロディマスは立ち上がってテントの外から声をかけてきた神官戦士の元へと向かい、指示を出した。

 それから女性陣と別れ、身体を拭き、着替え、それから合流して食事を取って、また別々のテントに別れた。

 すると彼らはやはり疲れていたのだろう。すぐに寝たことが確認できた。


「され、軟弱な現代っ子と違い、俺は三日程度ならば徹夜が可能だからな。これから打ち合わせと行くか」


 そして可能であれば、見張り番にも加わり、近々の情報収集を行なう。アドリブ力がないからこそ、事前に情報を収集し、あらゆる手を尽くし万全に備える。

 様々に頭を巡らせながら、夜は更けていった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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