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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第三章 騎士編
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111_異世界の勇者と苦労人


「はー、勉強、つまんね」


「そうだろうな。だが、それも今日で終わりだ」


 異世界から来た少年、タクヤの愚痴が部屋に響くが、それはいつも通りだったのでロディマスも軽く返した。そしてロディマスの言う通り、今日で勉強そのもののは最後だった。


「金貨、銀貨に銅貨。大雑把すぎるし、物々交換が多いって、ややこしいよぅ」


「マコちゃんは算数、苦手だったからね」


「算数言うな!せめて数学って言ってよミヤちゃん!!」


「ウチも苦手やわ。こう、カードでポンがええなぁ」


 ふむ、クレジットーカードシステムか、とロディマスは新たな商売を思いつきつつも、少年少女を改めてみた。

 彼らとの邂逅から一か月。このような短期間で彼らは見事に言語をマスターした。恐ろしいほどの早さだが、神々の加護を授かっているのだろうとロディマスは予測していた。


 そんな少年たちは、このような者たちだった。


 まず、本来『勇者』として呼ばれる予定だったタクヤ。身長170cmでそれなりに筋肉を持っているサッカー部の新人。頭は悪く、直情的だが上下関係についてはめっぽう厳しく考えている節がある。扱いやすい人材でロディマスもほっとしている。


 次に巻き込まれた存在の女子3人。最初はタクヤのハーレムかと思われたが、全く違うようであり、同じ学校で面識はあるものの、同学年と言う共通事項以外はないようだった。


 一人は名を呼ばれたマコト。マコちゃんの愛称で呼ばれている背の小さい少女。140㎝あるかどうかだろうその身長に、元気いっぱいの行動で暴れる事が多い。明るい性格だが、時折分別を忘れる故にこのメンバーの中では最も危険だとロディマスは思っている。


 続いては、マコトと特に仲が良いミヤコ。ミヤちゃんと呼ばれているが、ミヤッコ、ミヤミヤ等と時によて愛称が変わる。160cmと、15歳の平均身長に、ごく普通の性格をしている常識人。暴走しがちなマコトを止めてくれるので何かとロディマスは助かっているが、時折悪乗りもするので侮れなかった。


 最後に、京都弁か関西弁かを話す少女はマイカ。東京在住のハーフで、父がアメリカ人、母が日本人だと言う。方言についてはテレビやアニメでハマったそうで、本人にも良く分かっていないらしい。マイペースだが、高校生らしい活発さも持ち合わせており、ロディマスを何かと困らせている。



「はぁ、貴様ら。明日は西にある公国との境界まで移動して、それからは実地訓練だ。魔物が多く出る領域にも向かうぞ」


「ああ、分かってるさ!」


「そうね、帰れる可能性があるんだから、めげてられないよ!」


「うん。でもマコちゃんはもうちょっと算数のお勉強した方がいいよ」


「いいじゃんミヤノンー、私、これでも大丈夫なんだよ!」


「せやねー。そのナイスなバディで男のハートを仕留めればええやんねー」


 マイカが指摘した通り、マコトはかなりの巨乳である。お陰で最初は運動するのに「胸が痛い!なんでブラがないのよ!」と叫んでいたが、それはなんとかロディマスが用意した。初日に彼らの為に服一式を手配したものが、先日ようやく届いたのである。ただしその荷物と共にあったエリスからの手紙に「浮気はダメだよ」と力強い一筆がしたためられていたのは、ロディマスにとっては予想外であった。


「そうだよ。ロディマス様ぁん!私、どうかなぁ?」


「俺には婚約者がいると言ったはずだが?」


「4人もいるんだよね!なら一人くらい増えてもいいんじゃないの!?」


 四人に親身になったからなのか、あるいは外国人顔のロディマスが珍しいからか。あるいは一時的に【魔王の卵】の呪縛から逃れた為に急激に身長が伸びたからか。見た目がそこそこ悪くない今のロディマスに対して、彼女らは積極的にアピールをする。

 しかしロディマスはその行動を、異国、いや、異界の地で訳も分からぬ状況だから、手っ取り早く男に取り入ろうとする女の浅慮だとばっさり斬って捨てていた。


「そうか。機会があれば考えてやろう」


「またそんな、商人みたいな事を言って!」


「俺は商人だ!!」


 すっかり彼女らのおもちゃになっているロディマスに同情の視線を向けるタクヤに、それなら助けろと視線を返すが、タクヤはそっぽを向いていた。向こうのリアル生活が充実していただけに、異世界転移を堪能できるようなタチではないタクヤは、折角ハーレムを作れるこの状況でも、彼女らを一切相手にしなかった。それどころか自ら避けて通るほどで、ロディマスはこのパーティの不安定さを密かに嘆いていた。


「男ならそこにいるタクヤでいいだろ!同郷なのだろう?」


「いらねーよ!なんで俺に振るんだよ、ロディマス!」


「やかましいわ!貴様が連れてきたのだから、きちんと責任を取れ!」


「うるせー!俺が連れてきたんじゃねーし、そもそも俺のサッカーに女なんていらねーんだよ!!」


 そしていつも通りの口喧嘩を始めるロディマスとタクヤだが、険悪な空気など流れてはいない。二人は仲良しなのである。

 なお、ロディマスとタクヤの仲が良い理由は、ロディマスがサッカー場の新設とサッカーボールの手配、そして練習相手を即座に用意したからである。

 そして他国でもやりたい放題のロディマスに神聖国の神官は戸惑っていたものの、そのおかげでコトが丸く収まったと知り、今や見事な手の平返しをしてロディマス含む彼ら異世界の少年少女に四方八方で手を尽くしていた。


「俺が文献で知ったサッカーなるものとは似ても似つかぬ魔法球技だが、喜んではいるみたいだな」


「ああ、そりゃな。魔法が飛んでくるんだから最初はビビったけど、ありゃ、あれだ。ゲームで見たカミナリサッカー!あれを自分の体で再現できるなんて、面白すぎだろ!」


 ロディマスの前世の記憶にもある、シリーズ化された超能力サッカーゲームは、タクヤも知っていたようである。そして同時に、ロディマスはこんな疑問も抱いた。


 千年もの輪廻の修行の末に転生したのに、前世の俺が死んだ当時の流行りものを知っている彼らは何者なのか。いや、それ以前にこの時間差はどういう事なのか。


 前世、今世に数多の未来と、無数の記憶を持つロディマスは、そろそろこの時系列の謎も解明させたいと思っていた。しかし残念ながら教会から新たに開示された資料にはそれがなかった。


「私は不服ー。ケーキ、ドーナッツ!あー、食べたいー」


「私はプリン・・・」


「ウチはー、フランクフルトやー」


 それらも実はロディマスのレバノン商会が現在開発中の代物だが、何分砂糖が高価なので進捗は今一つだった。ただそれらしいものは出来たと手紙が来ていたので、何か理由を付けて彼女らを自宅へと招待したいと、ロディマスは考えている。人を(そその)かすならば餌付けがもっとも手っ取り早いと、ロディマスは知っているからである。最も、彼らとの距離の近さを考えるに、そこまでする必要があるかは疑問である。


「これからしばらくは野営だ。贅沢を言うな。だが、そうだな。これが終わったら俺の家に来れるようババァに頼んでみるか」


「ロディマスの家!?それって実家って意味だよな?まさか自分の家を持ってるんじゃないよな?」


「何を言う。俺は商会の長だ。自分の家を持っているに決まっているだろう」


「え、ええ!!ロディマスってまだ15歳か16歳だろ!?なんでだよ!」


 騒ぐタクヤに手で追い払うジェスチャーをして、それからロディマスは自分の家に思いを馳せた。


 ロディマスは準男爵となり、新たに領地を得た。親はベルナント家で、新たな領地はベルナント領の最南端の荒野。実家からも近く、今展開中のベリス工房からもほど近いその場所に、巨大な建造物が建っている。ただしロディマスは土台工事をしたところまでは確認したものの、以後は実家にすら戻れていない状態だった。エリスベリスは何度となく王都に足を運んで会っていたが、実際に自分の家がどうなっているのかは知らない。


「結婚を間近に控えているのに酷い話だ」


「やったぁ!玉の輿だよ!ミヤッチ!」


「商会長との禁断の恋!燃えるよね!」


「ウチはー、から揚げも食べたいなー」


「こ、こいつら・・・、だから貴様らとは結婚しないと言っているだろうが!!」


 話を聞かない所か妄想を強引に押し切ろうとする女子三人に、いつか見た光景をデジャブしたロディマスは頭を抱えたのだった。



□□□



「貴様らが本気でそう思っている訳ではないのは理解している。だがあそこを出た以上は、不用意な言動の数々は慎んでもらおうか!外聞が悪すぎる!」


「はーい!」


 ロディマスと異世界の勇者ご一行は現在馬車に揺られ、街道を進んでいる。神聖国の本部がある都市からさらに西へと進み、小さな国がひしめく最中にある魔物の沸く泉を目指している。建前上は異世界の勇者たちの実力を図る為となっているが、理由がそれだけではない事はロディマスもよく理解していた。


「それにしても根性腐れの神官共め。今頃俺の価値に気付いても遅いのだ」


 そうロディマスがぼやいた通り、ロディマスを国元へ帰らせないのが隠れた目的だった。勇者研究の第一人者と言う肩書に、平民に毛が生えた程度とは言え貴族。しかも大商会アボート商会の御曹司であり、自身も中堅商会を担っており資金は潤沢。そして現『勇者』レイモンドと懇意にしており、『聖女』が婚約者。折角呼んだ異世界の勇者も任せきりとなる始末。

 明らかにロディマス一人にかかる負担も、それに見合う以上の権力も戦力も集中している。一言で言えば過剰だろう。


「何何?何の価値?」


「ん?ああ。ヘタをすれば俺はこれから向かう国の一つくらい潰せるほどの力を持っていると言う話だ」


「ええ!?」


 大げさでもなく、ごく普通に真っ向勝負をしても経済的にも戦力的にも余裕だろう。ただしロディマス自身にはそのようなことをする気は全くない。儲かるならともかく、無駄に時間と労力を割くだけで、己の破滅の未来を回避できるとは到底思えなかったからだ。


「ゴチになります」


「何故そのような発想になるのだ」


 マコトが深々と頭を下げる。今の話を聞いて、その権力と財力でオゴれと言える彼女の胆力にロディマスは呆れた。ただ単にこの世界の状況を理解できていないだけかもしれないが、それでも中々出来る態度ではないとも思った。


「ただのバカなのか、それとも・・・」


「マコちゃんは、おバカさんだと思いますよ。私はそうですね、ワンちゃんとお庭が欲しいです」


「貴様も貴様で何を言っているのだ・・・」


 良識人かと思っていたミヤコにまで同じく強請(ねだ)られ、ロディマスは辟易とした。そして目が合ったタクヤには、呆れたように両手を上げて首を振られていた。


「解せぬ・・・」




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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