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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第二部 王都 学園編
107/130

104_レイモンド 対 騎士団


「敵襲!敵襲だ!!」


「数は?」


「わ、分かりません!!」


「不明瞭な報告はよせ。誰か確認が取れたものはいないか?」


 混乱する騎士団を見下ろしながら、ロディマスは作戦が始まったことを知った。

 ロディマスは今、最も大きなテントの上にいる。


「まさかここに潜んでいるとは思うまい。あとは頼むぞ、レイ」


 スザンヌも脳筋寄りでパワー解決するタイプだが、レイモンドよりは冷静だろうと遊撃の判断を任せているが、正直、助っ人を頼んだロディマスにもその動きは読めなかった。


「未来の記憶を見た限りでは、スザンヌもレイも真正面から突破を試みるだろう」


 そして、その方が都合がいいと考えながら、次なる一手についてロディマスは考えを巡らせる。


「あとはアリシアが気付いてくれるかどうかだが・・・」


 人質の中には真っ先に捕まったアリシアがいる。手かせ足かせの類は付けていないが、牢屋の中で暴れるのは禁止されている。

 だが、一歩でも外に出てしまえばそれは戦力となり、騎士の数名を吹き飛ばすだろう。


「とはいえ、アリシアの得意とするレイピアは殺傷力が高いからな。可能ならば、使わせたくはない」


 手加減無用の状況なら現状最強の駒だが、あくまで模擬戦形式を取らざるを得ないので、そこにロディマスは不安を感じていた。

 しかしなるようにしかならないとハラを括り、状況を観察した。


 すると、事態が動き、数名の騎士がテントから這い出してきた。

 その顔はやる気がみなぎっており、ひよっこ共の鼻っ柱をへし折ってやる、と言う気概にあふれていた。


「これは都合がいい。レイは逆境ほど燃えるタチだ。この調子で、『勇者』として覚醒してくれるなら一石二鳥だ」


 しかし、そうも上手くいかないのはロディマスも承知している。いつでも自分が動けるように姿勢を正しつつ、全体の動きを見た。


 まず、騎士の本体が移動した。

 おそらくレイモンドたちと接触したのだろうと、ロディマスはアタリを付けた。

 次にテントから出てきた別動隊だが、これは遊撃で自由に動き回っているスザンヌの方と接触した為だろう。


「騎士団の動きは、実に的確だ。だが、第三勢力までは想定してはいまい」


 拠点をまったくカラにはしていないだろうが、それでも付け入る隙は十分にある。

 そう判断したロディマスは、テントから降りて中へと入った。


「予想通り、この中までは見張りはいないな」


 そしてあからさまな状態で置かれているカギを取った。


「罠の可能性も考えたが、騎士である以上姑息な真似はすまい。それ以前に、ここまで辿り着く者がいるとは考えていないだろう」


 そのままロディマスはテントを抜け、隣にある牢屋に近寄った。


 見張りは一名。

 ただしあくびをしている。


 明らかに、あり得なかった。 

 精鋭と謳われた第七騎兵団が、職務中に油断するなど、あり得ない。


 そう考えたロディマスは、この態度こそが最も警戒している状態なのだと気が付いた。

 そんな緊張している見張りの騎士に対して、小石を遠くに投げると言う原始的な方法で注意を引くことにした。


 石が転がる音と共に、音の発生源に駆け出した騎士。


「やはりな!」


 すぐさまロディマスは牢屋に辿り着き、カギを開けた。


「よし、貴様ら脱出だ!!」


「何い!?しまった!」


「遅いわ!【ムーンスラッシャー】!!」


「おい、殺すなよ!?」


「殺さないわよ!!」


 細剣系のスキル【ムーンスラッシャー】で見張りについていた騎士を昏倒、させた訳ではなく、有効打と判断した騎士が気絶したフリをしてくれている中、ロディマスたちは脱出した。


「あの人、すごいわね。私の全力が全く通用しなかったわ」


「やはり殺す気で・・・」


「違うわよ!!格の違いを感じたから、挑ませてもらったの。完敗ね」


 ロディマスの中には、そうか、と思うと同時に疑問も起こる。

 現状、『勇者』に最も近いと思っているアリシアの剣が通用しない騎士。

 そんなものが、存在したと言う事実。


「いくら精鋭とは言え、そのようなことがあるのか?」


 アリシアの力は、対人だけならはっきり言えば規格外である。

 自分と同サイズの相手までなら一方的に倒せるほどの火力とスピードを併せ持つ。

 ただし大型の魔物は苦手で、フレースベルクのような空を飛ぶ大型の魔物とは相性最悪である。


「いや、待てよ・・・」


 ロディマスは何かに気付いたようにアリシアを見た。

 アリシアは困ったような顔をして、ロディマスを見つめ返していた。

 その首には、最近見慣れてきた、黒い輪が装着されていた。


「隷属の首輪か!!」


 急ぎ外そうとするが、背後から金属音が鳴り響き、ロディマスは手を止めた。


「よく頑張った。だが、失敗だ」


「教官殿・・・、隷属の首輪に、アリシアの買収。これは、やりすぎなのでは?」


「ごめんね、ロディマス」


「よく言う。俺たち騎士団は、君たちが脱出する事すらないと踏んでいたのだよ。その予想をかいくぐって仲間を逃がしているんだ。失敗したとはいえ、称賛に値する」


「死者に対する称賛ですか」


「二階級特進だな、ロディマス」


「マイヤ教官まで。となると、レイは負けたか」


「いい腕だったけど、真っすぐすぎるわ」


 未来のレイモンドの剣は、あの巨大さで縦横無尽に振るわれる。今のレイモンドには、その大胆さや計算高さが欠けているのだろう。その最もな指摘に、ロディマスも同意せざるを得なかった。


「陽動程度には役に立ったが、これでは大失敗か」


「戦力がそもそも不足してたんだよねぇ。こればかりは無茶を言ったギル坊が悪いんじゃないかねぇ」


「その状況を覆すのが、軍師や参謀の役目だ」


「無茶を言うよ。それこそ『勇者』様みたいな一騎当千の駒がないと無理だよねぇ」


 『勇者』候補の1駒に、『勇者』パーティ候補1駒を使って惨敗したロディマスは、うな垂れる他なかった。


「教えられた通りにするのも大事だが、教えられた以上にする事が生き残る秘訣だ。訓練は、より過酷な状況でこそ、意味がある」


 その王子の言葉に、その通りだとロディマスは同意した。


「ちゃんとみんな分かっているみたいで安心だ。では諸君、帰るぞ」


「なんだと!?」


 徹夜明けで厳しい状況で、さらに今から帰ると申すマイヤに全員が呆然と視線を返していた。

 ロディマスも当然その一員だが、そんな視線も気にすることなくマイヤは命令を下す。


「さぁ、命令は下ったよ!上官が行くと言えば行くんだ」


「はい」


 元気のない返事となったのは、致し方のない事であった。



□□□



 あれからしばらくして、レイモンドはマイヤに度々挑むようになっていた。


「事あるごとに、手合わせを、か。元気なのは結構だが、病的でもあるな」


「前に、ロディマスの役に立てなかったのを悔やんでいるのよ」


「お、俺が原因なのか!?」


「そうよ。知らなかったの?」


 知る訳がないとロディマスは呆然と呟いた。

 あの鬼気迫る表情からは、かつての未来の記憶の『勇者』レイモンドを彷彿とさせる。

 そう思っていただけに、その要因となったのが己だとは全く考えていなかったのである。


「そうなると、あいつが覚醒した理由が全く分からなくなるな」


 今からおよそ一年半後に起こるパンデミックで何かが起きて、その結果、レイモンドが覚醒するのだが、その兆候が今の時点であり、それがロディマスを起因としている。

 共通事項が全く見当たらなかった。


「多分、悔しい、と言う感情が切っ掛けなのだと思います」


「ミーシャ?何か知っているのか?」


「いえ、その。私もこの力の切っ掛けが、自分の無力を噛み締めたと言いますか」


「無力?貴様が無力なら俺はゴミ虫だな」


 思わず悪態を吐くロディマスだったが、ミーシャは真剣な表情のまま、ロディマスを見つめていた。


「・・・、なんだ?」


「ご主人様がゴミ虫でも、私は守ります」


「・・・、・・・?」


 どう反応すればいいのか。

 ロディマスは混乱し、腕を組み、首をかしげて、沈黙した。


「ロディマスがゴミ虫なのは今に始まった事じゃないけど、でも、その気持ちは分かるわ」


 自分で言っておいて何だが、とても悔しい。

 ロディマスは歯噛みしながら、それでもこれ以上余計なことは言うまいと口をつぐんだ。


「守りたい、脅威を排除したい、敵を追い払いたい。そう思うと、力が湧いてくるのです」


「光だって言われているけど、結構暗い感情が力になるのよね」


「暗い感情が力に・・・」


 神の属性と呼ばれている光属性に、まさかそのような切っ掛けがあったなど知らなかったロディマスは、急いで今の仮説を頭で考えた。

 そして辿り着いた、一つの可能性。


「いや、まさか、しかし」


 ロディマスの未来の記憶の中にいない人物。

 チヨ。


「そう言えば、チヨは何故、フーリェにいたのだ?」


「そこでなんでチヨが出てくるわけ!」


「怒るな!これは大事な問題なのだ」


 頭を巡らし、考える。

 ややこしくなるので、いつものように当人には聞けない。

 当人に聞けないのであれば、違う者に聞けばいいとミーシャを見れば、頷いていた。


「チヨ様は、視察と激励に参られていたそうです」


「!?そうか!!」


 魔物が活性化しつつあるフーリエ。

 しかし資金に乏しいエルモンドは、金銭的援助など出来ない。

 だからお姫様を送り込み、騎士たちの戦意向上を図った。


「そこまでは深読みしすぎか。案外、チヨが率先して動いていただけかもしれん」


 そしてそれが続き、一年半後にパンデミックに巻き込まれる。


 すべてを理解し終わった後で、ロディマスは頭を抱えた。


 妹が魔物に、悪魔に街ごと蹂躙されて殺される。


 それほどまでに劇的な要因があっての『勇者』覚醒であれば納得と同時に、今後どのようにしてそのレベルの出来事を立てるか、見当がつかなかった。


「これは難儀だ」


「あとで聞かせなさいよ?」


 そう言ったアリシアに、ロディマスは頷いて返すが精一杯だった。

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