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万の軌跡と救世主  作者: gagaga
第一部 実家編
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プロローグ1

初めまして。

もう10年ほど前になりますが、別所で別PNを用いて単話をチマチマと書いておりました『gagaga』と申します。

本作品は筆者初の長編モノとなっております。

よって、不備があったり、稚拙な文章なども御座いますが、最後までお付き合い頂けたらと思います。

ちなみにタイトルはルビなく、「まんの きせき と きゅうせいしゅ」と、そのままお読み下さい。

 目を開けると、男の眼前には見慣れない天井があった。

 いや、天井と言うのはいささか語弊があるだろう。

 目の前にあるソレは、ベッドの四つ角から伸びる支柱により支えられている天蓋(てんがい)だからだ。

 天蓋、つまりフタである。

 そこまで考え、一瞬、棺桶(かんおけ)のフタかと連想した男は身震いをした。


「いや、そんなはずはないか」


 しかし男にとっては棺桶のフタの方がまだ現実的ではあった。

 何故ならば、今まで自分の家の布団で寝ていたのに、今は天蓋付きでダブルサイズのベッドに横たわっている。

 しかも自分がここにいる理由が全く不明で、更には掛け布団を下敷きにしたままだと言うのだから、もしかしての可能性を思わず考えてしまった。


 己が好きだった仮想物の小説にあった展開である。


「まさか、どこかのご令嬢の目に留まって拉致されたか?」


 そして即座に否定をした。

 そんははずはない、己の容姿は並以下だからあり得ないと小さく笑った。


 笑い、一つ落ち着いた所で周囲の状況を改めて確認すべく起き上がる事にした。すっかり冷えた身体を抱きつつ、体が冷え切っているなと呟き、一人暮らしが長かったからか独り言が癖になっていると気付いて苦笑してから体を起こしてベッドに腰掛ける。


 しかし、今度は場所だけでなく自分の体にも違和感を覚える。


 自分の足が何故こんなにも短いのか。

 ベッドに腰掛けたのに足が床に届かなかった。

 それ以前にこのぷっくりと膨らんだ腹はどう言う事か。

 そして、そもそも何故手がこんなにも小さいのか。

 何故か頭が重く、重心を少しでもずらすと前のめりに倒れそうなのは何が頭に乗っているからなのか。


 そうやって様々な疑問が男の頭を()ぎると、その男は頭痛に襲われた。


 唐突に始まった頭の痛みに顔をしかめたが、奥歯をかみ締めることで我慢した。

 我慢するのは得意だと思っていた男だが、存外に強い痛みに思わず歯軋りをした程だった。

 そしてその痛みを、男はなんとか耐え切った。


 結果的に顔はしかめっ面のままだが、徐々に痛みに慣れてきたのか違和感がなくなっていった事に安堵しつつ、無意識に顔に当てていた手を離して一呼吸置いた。

 さっきから一体何なんだと男が考えていると、目の前が突然真っ白になり様々な光景がフラッシュバックした。


 先ほどから新たな展開と言うものが多すぎると男は戸惑い、そして脳裏に直接投影されるその光景に、拒 否権が全く無いであろう事を男は悟り、仕方なく受け入れた。


 受け入れたそれは、幼い自分が過ごした日々であり、両親や兄、使用人や従業員との日々であり、また、 自分が10歳まで生きてきた記憶だった。

 小さな手の平を見れば、短い足を見れば、確かに成人とは程遠い10歳の子供だとは知れていたが、それでも男には現実感が足りず未だに夢を見ているものだと思い込んでいた。

 しかし、それでも湧き上がるこの確信は一体なんなのかと、思わず(うめ)いた。


「10歳・・・。10歳だと!?」


 自分はもう直ぐ40手前のおっさんリーマンだと言う認識が、確かにある。独身貴族の優雅で自堕落な生活により、最近腹周りが怪しくなってきたのでフィットネスジムに通うようになったのは、記憶に新しい。

 そこで年齢確認を行なっているので、10歳である事はありえない。


 ありえないが、何故かそれをすんなりと受け入れてしまった自分がいる事に男は心底驚いた。

 そして男、いや少年は同時に思い出す。


「俺は、ロディマス=アボート。アボート大商会の次男」


 もはや誰なんだ?と思う事もない。

 自然と口から出た自分のプロフィールに、理由もなく馴染んだと言う感覚だけが残った。


 俺は確かに日本人の【阿部和也】だが、同時にロディマス=アボートであるという自覚がある。


 これは一体どう言う事なのだろうか。

 少年はそう自問するが、いくら考えても答えは出なかった。

 しかしその時、突然辺りがまばゆく光り、そしてロディマスの脳内に声が届いた。


”こんばんは、【阿部和也】さん”


「誰だ!?」


 不意打ちを喰らった上に自分より先に口を開かれた為、自尊心の強いロディマスは厳しく糾弾(きゅうだん)した。


「貴様は一体誰だ!?」


 普段ならこんなにも高圧的な対応などしない【阿部和也】は、己の代わってしまった性分に戸惑った。

 馴染んだと思ったのがつい先ほどで、また分離してしまったかのような違和感が纏わり付き、その不快な感覚に思わず顔をしかめた。


 そしてその驚きは、どうやら先ほどの声の主にまで届いていたようだった。


”驚かせてしまい、申し訳ありません。私は、あなたがたの言う所の、神と呼ばれる存在です”


「神だと・・・?」


 あまりにも胡散臭いと【阿部和也】は思うが、ロディマスとしての本能はこの自称神が確かに存在し、そして己の敵であると認識しているようだった。


 ロディマスと言う潜在意識と【阿部和也】と言う主人格との間にある認識の齟齬(そご)に戸惑いを隠せないその男は、しばらく事の成り行きを見守ることにした。

 何かを判断するには、あまりにも情報が足りなすぎたからだ。

 そしてその対応を見て、自称神は満足げな雰囲気を放ちながら、言葉を続けた。


”戸惑うのも無理はありません。あなたは地球の日本にいましたが、急死されました。そこで、輪廻転生に基づき、あなたの魂に1000年の修行を課して、それから魂を浄化してこの地、アースガルドに転生させたのです”


 そして話を聞けば、どうやら日本での自分である【阿部和也】は既に亡くなっており、【阿部和也】も知る輪廻転生の概念により魂を真っ白の状態にしたうえで、ロディマス=アボートへと転生したようだった。


 【阿部和也】は、本を読むのが好きだった。堅苦しい文学賞受賞作品から軽いノベル、和洋問わずそれなりに読み込んだ。だから今回の話も、よくある異世界転生物だなと、軽く考えようとしていた。

 しかし、その直後に己の考え違いに気付いた。


「魂を浄化したのなら記憶はリセットされているはず。なら、今の俺は何だ?」


 そう、本来であれば前世の記憶など全く無いロディマスとしての生を受けたはずである。


 事実として、【阿部和也】の中にはロディマスとして生きた10年近い記憶がある。それは【阿部和也】とは人格が異なる一個の人間の人生だった。


 それが何故、今は【阿部和也】の人格が出ており、しかも判断基準が【阿部和也】寄りなのか。

 更には感情面においては現世のロディマスが主体となっているし、身体はロディマスのものだった。

 容姿も己が過去に鏡を見た記憶から考えるに、西洋風の顔立ちに茶髪青眼とおおよそ前世の黒髪黒目の日本人とは真逆であろう。


 ロディマスは、どうしてこうなっているのか、全く訳が分からなかった。

 しかし度重なる衝撃に、女に生まれ変わっていないだけマシなのかと、ロディマスは益体も無い事を考え始めてしまった。

 つまり、現実逃避である。

 記憶と感情の違いにより、ロディマスこと【阿部和也】は心身を喪失しようとしていた。


”率直に申します。ロディマス=アボートは死にました。死因は脳内で魔力を暴走させた事による脳の焼死です”


 現実逃避をする最中に、さらりと、自称神が恐ろしいことを言ったので、ロディマスは思わず我に返った。


 ロディマスは、この世界に魔法がある事を知っていた。

 だから当然のように【阿部和也】も認識していた。


 幸いな事に、【阿部和也】としての認識を持ちながら、一般常識の類はロディマスのものを流用できるようで、この世界に対しての違和感はさほどない。

 最も、傲慢不遜を絵に描いたようなチンピラまがいの悪童であるロディマスの常識がこの世界の一般的な常識だと、【阿部和也】はそこまで楽観的には考えてはいない。


 しかし、今聞いた事はロディマス内での常識の範疇(はんちゅう)で対応が出来る内容だった。



 死んだ人間は生き返らない。



 これは、世界の常識であり、また、それが故に神々は自殺を許容しない。

 それなのに神を自称する目の前の存在は、己が死んだと告げている。

 自殺だったと、告げている。



 つまり、ロディマス的にも、【阿部和也】的にも、異常事態だった。



書き上げた時点で1万字を超えていたプロローグですが、長すぎてもよくないと考えて、思い切って分割してみました。

細かく上げるのがいいか、それともまとめたほうがいいのか。

ごらんになった方の中でよい案をお持ちであれば、どうごお気軽にご意見を下さい。

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