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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈expiry point 4〉 Truth Traces
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二話

 それからフレイアと一緒に部屋に戻った。


 前回同様、登校前に優帆と双葉が部屋に来た。具合が悪い、頭が痛いと嘘をついて、二人が出ていくまで息を潜めた。


 聞き耳を立てていると、家の外から喋り声が聞こえてきた。その声が遠くなっていくのを確認してから、フレイアを押入れから出した。


「それじゃあこれからのプランを聞こうかな」


 押入れの中で着替えたのか、俺が買ってきたワンピースを着ていた。うん、素晴らしいな。


 俺は勉強机のイスに、フレイアはベッドに腰掛けた。


「プランってほどじゃない。俺に考えがあるからついてきて欲しい」

「言わないつもり? それじゃあいざって時に助けられないじゃない」

「そういうことにはならないと、思う」

「そんな曖昧な」

「頼むから見ててくれ。外で見てて、危なくなったら助けてもらいたい。けど、これから行く場所には俺一人じゃないと意味がない」


 フレイアは難しそうな顔をしていた。眉間にシワを寄せて、目を瞑って唸っている。


 しかし、やがてため息をついて「わかった」とだけ言った。納得はしてなさそうだけどこれでなんとかなる。


「それじゃあ行こうか」


 茶色のチノパン、水色のパーカーという姿で家を出た。


 ひと目を避けて、けれど極力急いで、とある場所に向かう。その間、フレイアは一言も言葉を発しなかった。会話など一切なく、まるで俺の考えを読もうとしているようにも見えた。


 そして、目的地へと到着した。なんてことない、普通の一軒家だ。


「ここって……」

「フレイアは外で待っててくれ。俺が中に入ったら庭で待機してくれればいい。魔法を使って会話くらいは聞けるだろ?」

「まあできるけど。ここ、誰の家?」

「宮川清志。俺の家を襲撃したやつの家だ」


 そう、前回と同じ場所だ。前よりも早い時間なのでスーツの男たちはまだ来ないはずだ。


「前回来たんでしょ? それで必要な情報は得られた。なのになぜまたここに来たの?」

「俺たちは宮川の嫁さんに殺された。それを防がない限り、同じような状況に追い込まれるはずだ。例え嫁さんを倒せたとしても、優帆が巻き込まれるという事実を回避するのは難しいだろうさ」


 回避することはできるだろうが、そのためには双葉と綿密なやり取りをして、優帆を上手く誘導しなきゃならない。今その時間はなく、あの状況を摘み取るには根っこからなんとかしなきゃいけない。


「私たちを殺した相手と、一対一で対峙しようって言うわけ? 無謀にもほどがある」

「なんとかするさ。んじゃ、あとはよろしくな。俺が家に入るまでは隠れててくれ」


 有無を言わさず駆け出した。玄関口の前まで走り、勢いのままにチャイムを押した。背を向けているのでわからないが、フレイアがため息をついているのはよくわかった。


「はい、早かったんですね――」


 と、宮川の嫁さん、愛美が出てきた。


 目が合った瞬間、愛美はハッとしながらも平静を装っていた。この時点で、彼女が俺を知っていることは明白だった。


「少し、話しがあるんです。入れてもらえませんか」


 右手で胸の辺りを押さえ、左手ではスカートを強く掴んでいた。


「わかり、ました」


 彼女は家に入り「どうぞ」と俺を招き入れた。


 俺をスーツの男たちと勘違いしたんだろう。だから確認もせずにドアを開けた。つまりスーツの男たちと愛美の間にはやりとりがあったのだ。


 リビングに通された。「お茶を入れますので座ってお待ちください」と言われたので、「結構ですから、座ってください」と返した。


 愛美は渋々、ソファーの向かい側に腰を下ろした。恐れているのか、手が震えているようだった。


「俺が一体何者なのか、アナタは知っていますよね。俺の顔を見た時驚いてましたもんね」

「ええ、存じております」

「俺がここに来た理由もわかりますか?」

「それは、わかりません」

「そう、ですか。でも安心してください、俺はアナタに危害を加えるために来たわけじゃありません」

「それを信用しろと? アナタは私の夫を、殺したではありませんか」

 苦しそうな顔で、絞り出すように言った。

「それは間違いありません。でも、旦那さんがどうやって死んだかは聞きましたか?」

「アナタの家に行き殺されたとしか聞いていません」

「どうしてそれを信用したのですか? 証拠もないじゃないですか。死体がどうなったのか、死んだことが事実であると、知っているというよりもわかっているんじゃないんですか?」


 これが俺の答えだ。


 清志も愛美もモンスターのような姿になって襲いかかってきた。おそらくは愛美もミカドのやり方を知っているんだ。


「アナタはミカド製薬がなにを作っているのか、そしてなにをしようとしているのか。製造している薬にどういう効果があって、最終的にどうなってしまうのか。アナタは、知っているんじゃないですか」


 下を向いた愛美。その手には、一粒二粒と雫が落ちていった。


「知って、います。主人の死体が出てこないのも薬の効果によるもの。人でなくなってしまったことも知っています。それでも私は、アナタを許すことができないのです」

「知っていて、なんでミカド製薬の言うことを聞くんですか。信じるんですか。本当にいけないのはミカド製薬だって、アナタだってわかっているでしょう」

「嫌だと言っても意味がない。私も主人も、こうするしかないんです」

「それはどういうことですか? 聞かせてはもらえませんか?」


 彼女は俯いたまま、首を立てに振った。こんなに簡単に話してもらえるとは思わなかったが、危機回避のための細い糸は手繰り寄せることができた。


「私の家は貧しく、それは大人になっても変わりませんでした。両親の会社が倒産したのがすべての原因でしたが、私ではどうすることもできません。大きく膨れ上がった借金を返せるようなあてもなかった。そんな私でも人並みに恋をして、主人と出会いました。主人にはすべてを話し、彼にすべてを委ねたのです。でも彼は私を助けると言って聞きませんでした」

「借金ってどれくらいですか?」

「およそ一億。一般家庭が返せる額ではありませんでした。倒産によって父は仕事を失っているので、一般家庭よりも経済事情は申告でしたが」

「今もその一億は残ってるんですか?」


 そう言いながら家の中を見渡す。そんな借金があって一軒家を建てるというのは不可能だ。それこそ宝くじでも当てない限り。

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