十四話
ガチャっと、ドアが開いた。
「初戦は勝ったわね。おめでとう」
入ってきたのはフレイアとメリルだった。
「かっこよかったですよ、イツキさん」
なんだろう。メリルに褒められると、フレイアに褒められた時とは違う方向性で「がんばろう」っていう気になれる。
「大したことはしてない。フレイアに言われた通りやっただけだ」
「こんなに上手くいくとは思わなかったけどね。成功してよかった」
「想像以上の成果だったな。でも、次はこうも簡単にはいかないはずだ。どうすっかな……」
試合まで何時間、というのはわからない。早く終われば次の出番も早くなる。あまり悠長にしているわけにもいかない。
「あの、イツキさん」
「どうしたメリル」
「第一試合を見ていて思ったのですが、お相手のルージュさん、戦い方としては私にとても似ているかと思いまして」
「言われてみると確かにそうかもしれないな」
小柄で素早い。一発一発が的確。攻撃の主体がカウンター。この三つだけとっても、メリルの戦い方によく似ている。違いがあるとすれば、メリルは距離を離し気味で、尚且攻撃を避ける動作が大きい。あとちょっと逃げ腰だ。対してルージュは距離を取らず、すべての攻撃をギリギリで避ける。常に前のめりで「こちらはいつでも攻撃できるんだぞ」というのを誇示しているイメージだ。「いつでも攻撃できるぞ」という印象を植え付けることで手を出させやすくしているのだろう。
メリルの場合、メリルを追い詰めようとして駆け寄ってくる相手を捌くという戦い方。
ルージュの場合は、ルージュの闘気に当てられて攻撃をしてきた相手を潰すという戦い方。
違いはあれど、基本的には同じだと思っていいだろう。
カウンター狙いで回避を重点的に行うスタンス。これを捕まえるには、メリルと戦った時にやった戦法を使うしかなさそうだ。一応メリル自身からも対処法を教わっているのでなんとかなる。と思いたい。
係員の女性からのヒーリングが終わった。「試合前に、また参ります」と言って出ていった。代わりにフレイアとメリルがヒーリングを行ってくれるようだ。当然と言うかの如く、右半身の治療が中心になった。
モニター越しで、試合がどんどんと進んでいく。実際にはどんどん、というほどの軽快さはない。ただ、そう感じるということは、ヒーリングでの治療が進んでいないことが原因であることはわかっていた。
温かさはある。けれど、右目や右耳にある痛みや不快感はまったくと言っていいほど和らいだ様子がない。
治療の最中にも、本を読んでみたり話をしてみたり。そうしているうちに、ルイの試合がやってきた。
ルイはカメラ目線でニヤリと笑った。
「力、抜いて」とフレイアに言われてしまった。
ルイの戦い方は、なんというか不思議な感じだった。力量差があるのが原因かもしれないが、のらりくらりとやり過ごし、相手が焦れたところで、遠距離から急接近して強烈な一撃を叩き込む。魔法なんてほとんど使ってはいないだろう。
しかし、一撃一撃は重いように見えても、その実相手を倒すまでに三回攻撃している。つまり一撃で倒すような攻撃力がないということだろう。倒すまでに時間がかかるイコール、相手に試行回数を与えるのと一緒だ。ここ以外に活路を見出す場所はないが、いいヒントにはなった。
「少し表情が柔らかくなったかな?」
突然、フレイアが顔を覗き込んできた。
「いきなりなんだよ」
「なんか対処法でも思いついたのかなーと」
「一応、な」
「どんな感じの対処法?」
「どんなって言われても困るけど、ルイは攻撃力が低いってことがわかった。これだけでもいいヒントだ。ルイはまだ本気で戦ってないけど、それでも格下が相手なのに一発で倒せてない。アイツが数回攻撃してくる間に、俺が一回で倒せばいい」
「それもなんだか、難しそうではあるけど……」
「やってやれないことはなさそうだ。ただ、アイツの本気がどの程度かにもよる。今以上の速度でこられたらヤバイ。間違いなく俺の方が先に倒れるからな」
「戦うとすれば決勝戦でしょ? その間に、速度に慣れる訓練はしておいた方がいいかもね」
「その時はよろしく頼むよ」
「あ、あの」
そこで、メリルも顔を出してきた。
「お、おう。どうしたんだ」
顔が近いんですよ。
フレイアはまあ、なんとかギリギリ慣れた。でもメリルという少女は最近知り合ったばかりなので、いきなり眼前に現れるとさすがにビビる。ビビるくらい美少女なのでこっちの心臓がもたない。
「わ、私もお手伝いを、と思いまして」
顔が紅潮していくのが見て取れた。ここはスマートに、空気を読んで行動しなくては。
「ああ、その時はメリルもよろしくな」
手を上げてメリルの頭を撫でた。
目を細めるメリルは、恥ずかしそうではあるが嫌がってはいない。これで拒否されたらどうしようかとも思ったが、まんざらでもなさそうなので正解だったらしい。
控室のドアがノックされ、返事をすると係員の女性が入ってきた。
「この試合が終わったらイツキさんの試合になります。こちらへどうぞ」
座ったまま二度ほど深呼吸し、ゆっくりと立ち上がった。
「はい、わかりました」
係員の女性の背中を追って控室を出た。
「イツキ!」
「イツキさん!」
二人の女の子が背中を押してくれる。
「いってきます」
俺がそう言うと、二人は微笑んでくれた。気合充分。下手さえしなきゃ、きっと負けない。そう思っていれば気は楽になるもんだ。
会場入口で準備運動をしていると、負けた選手が担架で運ばれてきた。結構派手は試合だったみたいだ。
「イツキさん、準備はよろしいですね?」
「ええ、いつでもどうぞ」
「それでは会場の中央へとお進みください。ご検討を、お祈りしております」
係員の女性がお辞儀をした。こういうところ、ちゃんと教育されてるよなと思う。
ぴょんぴょんと跳ねてから、自分の頬を強くひっぱたく。そして、会場の中へと足を踏み入れた。




