十三話
『さあさあ第二試合! 右からはイツキ選手、左からはギート選手です!』
会場へと足を踏み入れ、そのまま中央へと歩みを進めた。
口はなんとか動くようになった。けれど右耳は聞こえないし、右目も頭ごと包帯でぐるぐる巻きだ。
「おいおいどうしたんだその頭! 連れのネーチャンにでもやられたかよ!」
「勝負の前に怪我してどうすんだよ!」
みたいな野次がめちゃくちゃ飛んでくる。この大きな会場でも聞こえるって相当な声量だな。と思ったけど出てきた場所の真上の人だったわ。
「落ち着け、相手の方がレベルは低いんだ」
中央でギートと対面する。その距離五メートル。審判に「そこで止まれ」と手で促された。
『それでは第二試合! よーい……始め!』
そう、第一試合もこんな感じだった。相手と話す暇なんてない。挑発している時間もないが、逆に挑発されないと考えれば儲けものなのかもしれない。
試合前にフレイアに教えてもらったことを脳内で反芻しつつ、とりあえずバックステップで距離を取る。
「逃がすかよ!」
ギートが臆することなく距離を詰めてきた。大柄なくせにやけに素早い。歩幅が俺よりも広いため、同じように行動すれば当然詰め寄られる。
「怪我してちゃ、思ったように動けねーだろ!」
「さて、どうかね」
レベルは俺の方が高いが、筋力だけ見ればこいつの方が上だと思う。こういうのも才能ってやつなのかもしれない。筋力があるってことは力が強かったり走るのが速かったりするわけだ。自分よりも高レベルのやつよりも、だ。
俺は身長も平均だし別段筋肉質ってわけでもない。スポーツをずっと続けてたわけでもないので瞬発力に優れるとかそういうのもない。
ただ、一つだけ俺にあってコイツにないものが、ここに、明確に存在する。
俺が着地した頃、ギートとの距離は開幕距離よりもずっと近かった。
ギートは直進せず、俺の右側に回り込んできた。それも当たり前。俺は今右目が見えないんだから。
目だけじゃない。コイツが地面を蹴っても、拳を振るっても、その音が右耳から入ってくることはない。完全なる死角であり、俺をただのサンドバッグにする、そういう立ち位置でもあった。
「知ってたよ」
俺にあってコイツにないもの、それはこの傷だ。
試合前にフレイアに言われた通り、正面を向いたまま体を屈める。一拍置いてから、思い切り拳を振り上げるだけ。
拳に衝撃があった。
すぐさま右側を向くと、エドガーの体が宙に浮いている最中だった。貧弱な俺だが、それでもコイツよりレベルが高いことには変わりない。見た目以上に力がある、ということだ。
「もうちょっと考えた方がいいんじゃねーか?」
自分が不利な状況だとわかっているのなら、戦い方の選択肢は二つに絞られる。
一つ目は「不利を庇う、もしくは不利な部分を補う」こと。
そしてもう一つは「不利を逆手にとって隙を作る」ことだ。
相手より体格に劣る俺は、前者を選ぶよりも後者を選択した方が有利だと考えた。それをフレイアに相談した時、この作戦を教えてもらったのだ。
素早く右へと移動し、左拳を腹部に目一杯叩きつけた。予想以上に硬い腹筋だな。こんなん何発打ち込めばいいのかわからない。
右足で踏ん張って、今度は左へと瞬時に移動。また移動と同時に拳を振る。今度は右足を攻撃。腹筋よりは柔らかい。これで移動速度を鈍化させることはできたはずだ。
ここで一度距離を取る。これでようやく俺がまともにやりあえる距離にできた。
ギートは頭に手を当て、何度か首を横に振っていた。
「クソ……ガキ……!」
「普通に考えればわかるだろ。右に入って来られたくないんだったら、体を右に傾けるなりなんなり対策するに決まってんだろ」
そう言ったあとで再度接近。回復させてやるような猶予は与えない。変な間を与えてひっくり返されるなんてごめんだ。
「思い知らせてやるよ!」
俺を待ち受けていたのか、強引に攻撃を仕掛けてきた。だがあまりにも単調だった。それに俺とギートには慎重さがある。雑に攻撃した場合、俺はその下をくぐることができる。
もう一度潜ってからのアッパー。顎にクリーンヒット。ギートの体がよろける。
上向きになった腹に左手を当てる。
「吹っ飛べ」
手のひらの温度が少しだけ上がった。次の瞬間、俺の手のひらから爆炎が発せられた。
ギートの体が盛大に吹き飛び、地面に三度ほどバウンドして動きをとめた。
下級魔術ではあるが、どうやら接近戦で使った場合、フレイアの魔術よりも攻撃力が高いらしい。至近距離でしか使えないが威力は高め、ということらしい。
顔をあげようとするギートだったが、上手く体が動かせない様子だった。
『ギート選手ダウン! イツキ選手の勝利です! それでは次の試合があるまで控室でお休みください』
すぐに案内係の女性がやってきて、控室につれていってくれた。
「大丈夫ですか? 控室で三十分間のヒーリングを受けられますからね」
と、手を握られた。正直やめて欲しい。だってドキドキしちゃうから。
個室の控室に到着してイスに座った。案内係の女性が全身にヒーリングをかけてくれる。これで少しでも耳と目が良くなればいいのだが。
次の相手は第一試合の勝者だ。名前はルージュとか言ったか。小柄で華奢に見えるが、動きが素早く、前の試合も数分と経たずに相手を倒していた。攻撃が的確で、なにかを試しながら戦うとかそういうのが一切ない。一撃一撃が必殺のような、そんなふうに見えた。
理由は簡単。一撃が当たる度に当てが悶絶していたからだ。金的とかそういう攻撃じゃなかったはずなのに。
一発でも喰らえばどうなるかわからないな。
一応モニター越しに試合を見ているが、なんというか泥仕合みたいな感じになってる。ボッ立ちの状態でムサイ男二人が殴り合ってる図は、見ていてもあまり面白いものではない。いや、これを会場で見ていればアツい展開なのかもしれないが、途中からこんなもの見せられても「ウオー! かっこいいー!」とはならない。過程って大事だな。
今回は相手が相手だったから良かったが、ルージュは簡単にやらせてはくれないだろう。なんか対処法を考えないといけないな。




