十一話
全員で一つの部屋に集まり、氷漬けの双葉をベッドに寝かせた。
「まさかルイがな」
と、ゲーニッツが言った。ゲーニッツだけでなく、他の面々も同じことを考えているのだろう。
「Aスキルとなると私でも解除できないと思うわ。特性を詳しく分析しても、解除するために新しい魔法を開発しなければいけない。そこにかかる年月もどれだけ必要なのかもわからない」
「だからこそ、Aスキルの解除をするような魔法がないんだ。つまり、イツキは自力でルイに勝たなければいけないということになるね」
そう言った後で、ナディアとグランツがため息をついた。
ルイのレベルは100に近く、俺のレベルは80ちょうど。レベルが20近く違う相手とどうやって戦い、どうやって勝てばいいのだろう。
「仲間を使って強制的に解除させるようなこともやめろと言われた。解除するのも壊すのも自分次第だって」
「イツキ……」
フレイアが俺の手を握ってくれた。それだけでも、少しだけ落ち着いたような気がした。
「ルイが何者なのかもわからない。それでいて俺たちは手を出せない。俺たちができることとなれば、ルイの正体を掴むことくらいだな。アイツを倒してフタバを元に戻せるのはお前だけだ。わかってるよな?」
ゲーニッツに見つめられ、生唾を飲み込んだ。迫力のある眼力。身体からにじみ出る気迫。全身から汗が吹き出るようだった。
「とにかく落ち着ける時間をくれないか。ルイに対しての対抗策も考えたい」
「だろうな。わかった、俺とナディアとグランツでルイの動向を観察しよう。フレイア、あとは頼んだぞ」
「わかった。気を付けて」
そして、部屋の中には俺、フレイア、メリルの三人が残された。
イスに腰掛け、床を見た。これからどうすればいいか、考えるだけの気力さえない。回避しようと思えばできたはずだ。にも関わらず、俺が警戒を怠ったばっかりに双葉をこんな目に遭わせてしまった。
「私、お茶淹れてきますね」
いたたまれなくなったのか、メリルが席を外した。が、これでフレイアと話ができる。
「もうわかってると思うけど、頼めるか」
「時間を戻すんだね」
「それしか方法がない。今の俺がルイと戦ったって勝ち目はない。双葉を氷漬けにされた時も、俺はアイツの動きが見えなかった。それに、勝ったところで本当に元に戻す保証がないんだ。ただの口約束だ。活路なんて、見いだせるわけがない」
「イツキのレベルが上がってるから、前よりも痛いかもしれないよ? それでもいい?」
「レベル上昇で耐性がついてるかも、ってことな。多少はまあ、仕方ない」
「……本当に、いいんだね?」
「ああ。メリルが眠った後にでもやってくれ。ゲーニッツたちは夜もルイを見張ってくれるだろうしな」
「それじゃあ、心の準備をしておいてね」
「ああ、わかった」
そして、フレイアも部屋を出ていった。
毎回毎回彼女頼み。情けないし、申し訳ない。甘えさせてくれるから、フレイアの優しさにいつまでも甘えてしまう。成長できない自分にも腹立たしく、未熟さ故に招いた出来事ということもまた不甲斐なさで押しつぶされそうになっていた。
風呂に入り、食事をとった。ゲーニッツたちは外で済ませてくるということで、三人での食事になった。
時刻が十時を回った頃、メリルが「おやすみなさい」と言いにきた。俺は「ああ、おやすみ」とだけ返した。心配してくれているのだろう、ドアを閉める前の彼女の顔は曇っていた。
メリルが出ていって数分後、ノックが聞こえた。「はい」と応えるとフレイアが入ってきた。
「準備はいい?」
「ああ、大丈夫だ」
深く、イスに座り直した。
深く、二度三度と深呼吸を繰り返す。
「やってくれ」
目を閉じると、衣擦れ音がした。
どんどんと温かくなっていく。前回と似たような感じだ。コイツに任せれば安心できる。確実に殺してくれる。もう一度、俺は今日をやり直せるんだ。
そして、顔が熱くなってきた。今日が終わるんだと直感した。
「な、なにしてるんですか!」
その時、ドアが開け放たれる音がした。咄嗟に目を見開くと、メリルがフレイアに抱きつくところが目に入った。同時に、熱いなにかが顔面にぶち当たった。
熱いなにかが顔面を包み、身体がぐらりと揺れた。イスから崩れ落ち、頭から床に倒れ込んだ。
強烈な熱さと痛みが顔面の右半分を蝕んでいる。両目を開けているはずなのに、左目からの情報しか入って来ない。
身体に力が入らず、頭部の痛みだけが強くなっていった。
その激痛に、今すぐに叫びたい衝動にかられる。でも声は出なかった。
右耳はキーンと耳鳴りのよう。右目はなにも景色を映さない。伸び切ったゴムのように、開けたままの口は動かない。
「フレイアさん! なんでこんなこと!」
「落ち着いてメリル! これにはわけがあるの!」
「イツキさんの顔が……顔があ……!」
フレイアの腕を掴み、泣きながら俺を見るメリル。それを宥めようとするフレイア。だが、俺はそれをずっと見ていることができなかった。
目蓋が落ちてくる。耳鳴りと、熱さと、痛みの中で、俺は自我を失っていく。考えるだけの気力は残っていなかった。
思考も理性もなにもない。そんな中で、俺はゆっくりと目を閉じた。




