九話
中央には審判らしき男性。急いで中央へと歩くと、審判の男性に「そこで止まれ」と手で促された。
「それでは第六試合、始め!」
「これもいきなりかよ」
なんだろう、予選だからなのか結構テキトーな部分が目立つ。
と、そんなことを考えている場合ではない。
「おいおい、なんでなんだよ?」
急いで身構えたが、誰一人として俺の方にやってこない。他の九人は普通に殴り合っているというのに。
「もしかして俺、バカにされてる?」
確かにこの十人の中じゃ最年少だし、筋肉とかもないし、一次予選は楽しちゃったし、誰かにマークされるようなこともしてないけど、それにしてもこれはひどくないだろうか。
一人、また一人と倒れていく。審判がアウトと判断したら、気絶していなくてもダメらしい。背中が地面についたらダメみたいな感じに見える。柔道かよ。
「これはこれで?」
しかし、敵が減っていくということは、当然のうように俺も戦わなきゃいけなくなるわけで。
残った三人の男の動きが止まった。そして、俺の方へと視線を向ける。そう思えばこちらにダッシュしてくるではないか。無理矢理巻き込んで、更に乱戦に持ち込もうって魂胆なんだろう。
「うし、やってやるぜ」
自分からは動き出さない。極力体力を温存したいからだ。相手が近付いてきてくれるっていうんならその限りではない。
三人が飛びかかってきた。最初の一人を右手で受け流し、二人目の前に差し出す。一人目と二人目がもつれている間に、三人目と一対一を作り出した。
俺みたいなガキがここまで戦い慣れしていることに驚いたのか、その目は大きく見開かれていた。
左手の甲で相手の顎を叩く。目の焦点が定まらないのを確認して一歩退く。右手で顔面を掴み、魔術を発動させた。
「吹き飛べ!」
相手を爆炎で吹き飛ばし、その勢いで更に後退。背後から迫っていた男のみぞおちに肘鉄をかます。これで残りは一人となった。
あれからいろいろ試したが、やはり俺の魔法は飛ばないらしい。魔術でも法術でも同じで、炎も雷も飛ばないし、遠くにいる味方を回復することもできない。だから完全に諦めた。
だが落胆したわけではない。こうやって密着でしか使えない魔法であっても、ちゃんと決めればダメージになるし、なによりもとてつもなくカッコイイ。これが大事だ。
最後の一人も俺の戦闘力が予想外だったのか、胸の前で拳を構えたまま動かなくなってしまった。
「来ないのかよ」
「思った以上にやるんでな。慎重にいかせてもらうぜ」
「慎重にいかせてやるなんて言ってないけどな」
「は?」
ここで風属性と雷属性を全身に付与。これは昨日、フレイアに教えてもらった。
フレイアは〈雷霆〉の二つ名を持つ冒険者である。彼女が〈雷霆〉と呼ばれているのは、雷を纏った突撃が強力であるからだ。そんな彼女から教えてもらったのは、属性付与による局所的な突進力の強化だった。
一瞬で相手の背後に回り込む。相手の顔がこちらに向く前に、拳を下から打ち上げた。
「リバーブロー!」
脇腹への一撃が入る。だがまだ意識はあり、大きな身体が地面に落ちることはない。さすがに体勢は崩れているので、背中に手を当てて爆炎をくれてやった。
男は吹き飛び、地面を滑っていった。
「終了! 勝者、イツキ!」
余裕を持って予選は突破できた。運が良かったと言えばそれまでだが、運も実力の内と言うしな
勝ったヤツは控室に戻らず、観客席に行くか帰るかどちらからしい。
フレイアに連絡を入れて合流、みんなで予選を観戦することになった。
観客席にはグランツだけいなかった。用事という名の女遊びでは、とメディアは言っていた。
食べ物も飲み物も用意されているし、俺が観客席に上がることを想定していたかのような用意の良さだった。
「そういやフレイアはなんでエレベーターのこと知ってたんだよ」
「ん? そりゃ出たことあるからね」
「どこまで行ったんだ?」
「当然優勝。ちなみにゲーニッツも優勝経験者」
「なぜそれを早く言わなかった……」
「別に必要ないかなーと思って。そうそう、言い忘れてたけど、この大会で優勝すると二つ名が与えられるから。優勝賞品の一つなんだよね」
「あー、だからゲーニッツとフレイアには二つ名があるのね」
「そそ、この大会でどういう戦い方をしたのかによって二つ名が変わるってわけ。二つ名って言っても、その後で冒険者として目立った活動でもしないと、冒険者の間で広まることはないけどね」
「うーん、でもそういうのあればカッコイイよなぁ」
「あってもなくてもあんまり変わらないけどね。強くなるわけじゃないし」
「は? カッコイイだろ? なんだよ〈雷霆〉って、厨ニかよ」
「チュウニってなに?」
「いや、忘れてくれ」
これ以上は変な知識をつけさせてしまいそうだ。
これから戦うヤツの情報を少しでも集めようと、闘技場の方へと視線を移した。
「ねー、チュウニってなにー」
「あとで教えてやるから腕を掴むんじゃない」
ドキドキするからやめてくれ。
闘技場にはルイが現れた。ルイのことを知っているヤツが多いのか、他の九人の視線が集まっているようだった。
「それでは第八試合、始め!」
他の九人がルイへと突進していく。文字通り、捻りがないただの突進だった。
しかしルイは待っている。避けようとするでもなければ、防御するふうでもない。かと思えば自分から向かっていくではないか。更に驚いたのは身のこなしの軽さ、そして攻撃の的確さだった。
一人、また一人となぎ倒していく。身長二メートルを超えるであろう巨体から、自分よりも小さく早そうな人物さえも簡単に捉えていた。
時に打撃を、時に投げを。そうやって、あっという間に倒してしまった。
「勝者! ルイ!」
開いたままの口を押さえた。コイツと戦うことになるのか、と考えるだけで不安が押し寄せてくるようだ。
ルイがこちらを見てニコリと笑う。
「余裕じゃねーか」
「まあイツキじゃ無理じゃないかなー」
と、フレイアがあっけらかんと言い放つ。
「いや、わかってはいるけど、簡単にやられたら悔しいじゃん。なんか対策でも考えないとな」
「じゃあ帰って作戦でも練ろうか」
「そうだな。でも、とりあえず全部の試合は見ておきたい」
「ん、いい心がけだ」
ルイの試合から十六試合を観戦した。が、おそらくは最大の敵がルイであることは明白だった。それでもルイへの対処だけでは足をすくわれる。またフレイア先生の出番かもしれない。




