八話
朝起きて準備運動を済ませ、コロシアムに向かった。なぜか他の連中もついてくるのだが、保護者に同伴されてる気分だ。
コロシアムの前にはたくさんの人。これが全員となると、開始早々ぐちゃぐちゃになりそうだ。
「そうだ、イツキに助言を与えておこうかな」
「なんだ、他人を出し抜く方法とか知ってるのか」
「助言というかほぼ正解なんだけど、始まってすぐに走り出すような集団にはついていかないこと」
「でも早く行かないと枠に入れないだろ?」
「詳しくは言わないけど、その場で五分から十分程度待ってて。で、そこに残った人についていくといいよ。そっちの方が確実だから」
「いや、理由を言って欲しいんだけど」
「たぶん言わない方が面白いからそのままにしておくね」
「イジワルかよ」
「たまにはいいでしょ?」
フレイアが歯を見せて笑った。楽しそうな笑顔だった。
ここで係員から号令がかかった。参加者のみコロシアムの中へと誘導する。つまり、他の連中とはここで一旦お別れた。
「お兄ちゃんがんばってね」
「応援してますよ、イツキさん」
「おう、期待して待ってろ」
フレイアは親指を立てるだけだったが、それだけで充分心強かった。
係員の誘導でコロシアムの中へ。一時間以内に地下五階にあるクリスタルを採取してこいとのことだ。地下にはモンスターがおらず、五階にあるクリスタルには印がしてあるようだ。
広い廊下を抜けて、大きく開け放たれた闘技場へとやってきた。そして闘技場から奥へと進み、大きな階段を下って地下一階へ。そこもまた異様なほどに広かった。
ひしめき合う冒険者たち。筋肉ムキムキのヤツらも多いが、脱いだらすごいんです的な痩せ型の人も多い。
タキシードを着た人が、壁際の高い位置に現れた。あの段差はそういうふうに使うものなんだな。
口元にマイクを持っていくと、大きく手を上げた。
「それでは一次予選を開始します! よーい、スタート!」
「とんでもなくいきなりだな」
独りごちったのもつかの間、冒険者たちが一斉に動き出す。が、俺はフレイアに言われた通りにその場に留まることにした。後ろから横からタックルされるため、ダメージを受ける前に壁際へ。
五分と経たずに広間は空っぽ。残ったのは俺を含めて約二十人程度の冒険者のみになった。
俺以外の冒険者たちを一人ずつ見ていく。容姿も性別も様々だが、どいつも手練なんだということがよくわかる。涼しい顔で、ただ時間が過ぎていくのを待っているような感じだ。
中にはルイもいた。目が合うと、こちらに向かって手を振ってきた。一応知り合いだし、といった感じで俺も手を振り返した。
そこで、冒険者たちが動き出した。もと来た方向へと戻っていくではないか。
『そこに残った人についていくといいよ。そっちの方が確実だから』
というフレイアの言葉を思い出す。あのフレイアが、俺が不利になるようなことを言うとも思えない。おとなしくこの人たちについていこう。
二十人近い冒険者たちが入り口付近まで戻る。だが上階に上がるわけではない。入り口の横、不自然なでっぱりの前に集まっていた。でっぱった岩肌は手のひらサイズ。冒険者の男がくぼみを押し込むと、その横の壁が下にスライドした。
「おお、エレベーター」
なるほど、これで五階まで一気に行くってことなのか。
エレベーターのドアが開く。中はかなり広く、俺たち全員が乗っても余るほどだった。
全員が乗り込むと、先程エレベーターを出現させた冒険者がドアを閉めた。ゆっくりと動き出し、ふわっとした感覚に包まれる。数十秒後、再度浮遊感がやってきて、チンっという音と共にドアが開いた。
「それでは堅実な冒険者の方々。クリスタルをお手に取り、もう一度乗り込んでください」
一礼する冒険者を気にせず、他の冒険者が次々と降りていく。クリスタルはそのへんに散らばっているので、テキトーに持って帰ればそれで終わりだ。
「アンタは行かないのか?」
「私は冒険者のフリをしているだけなので必要ないのです」
「あー、なるほどな、そういうことか」
「アナタは私が運営だと知らなかったようですが、参加は初めてなのですか?」
「まあ、そういうことだな。同じギルドのやつが教えてくれたんだ」
「そういうことでしたか。それならば、アンタはその方に信頼されているのですね」
「そういうもんなのか? 知ってたから教えただけなんじゃ?」
「いいえ。エレベーターの存在を知っているのは限られた方だけなので。何回も参加されているか、もしくは優勝者くらいなのです。それにライバルを増やすようなことを誰もしたがらないので」
「言われてみればそうか。おっけー、サンキューな」
俺もエレベーターを出てクリスタルを持ち帰る。これで一次予選は突破だ。
その後はあれよあれよという間に進行し、一次予選を突破した冒険者だけが控室に案内された。
一次予選が終わり、控室に案内されてすぐに運営側からの説明があった。
控室は十個あり、各控室に二十四人が収容される。そこから一人ずつ出て、コロシアムでバトルロイヤルが行われる。勝ち残った一人が本戦に行かれるという形式らしい。単純計算で二十四回の戦闘があるわけだ。本戦が明日からなのだが、二十四回の戦闘とか六時までに終わるのだろうか……。
「同じ控室になりましたね、イツキくん」
「ああ、ルイか。そうだな、お互いに勝ち残れば、戦うには本戦ってことになるだろうな」
「勝ち残ればって、イツキくんは自信ないんですか?」
「ないわけじゃないけど、どんなやつが出てくるかわからないしな」
「そういうふうに考えられるのって大事ですね。お互いにがんばりましょう」
「ああ、本戦で戦えるといいな」
ニコリと笑ってからルイは去っていった。
試合が始まる前から物凄い歓声が聞こえてくる。同じ施設内だから当然といえば当然だ。だが、これだけ大きな歓声だ、観客の人数も相当なものだろう。
十人で行われるバトルロイヤル。一戦一戦が長引くかと思ったが、想像以上に早く終っていく。気づけば自分の番がやってきた。
「イツキさん、闘技場の方へお願いします」
「はい」
運営の後について歩く。闘技場の前へと到着し、大きく深呼吸をした。そして、広場へと進んでいく。
日差しが眩しく、思わず手で遮った。大きな歓声が場内を満たしている。俺以外の冒険者が中央へと歩きだしていた。




