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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈actuality point 1〉 Hello World
8/252

七話

「起きなさいイツキ」

「ん、おお」


 馬車に乗り込んですぐ、俺は眠ってしまったらしい。

 

 頬が痛い。なるほど、殴られたか。


「おはよう」

「おはよう。ずっと起きてたのか?」

「そんなわけないでしょう? 早く起きるのが習慣になってるだけよ」


 しれっと挨拶したが、今度からビンタで起こすのはやめてもらおう。


 目をこすりながら、言われるがままに馬車を降りた。行商人の馬車に乗せてもらったので、馬車とはここでお別れだ。


 大きな門が俺たちを見下ろしていた。道と町の間には川があり、大きな橋がかかっていた。吊り上げて仕舞うこともできるらしい。たくさんの馬車や牛車が行き交っていて、外から見ていても活発であることがわかる。


「スゲーな、アルハントは町って感じだったけど、ここは都市って感じだな」

「大きさだけなら都市ね。でも町よ。しかも、アルハントよりもずっと小規模の利益しか出せない」


 なに言ってんだ、と思った。


 歩いて門を潜った瞬間、フレイアが言っていたことの意味を知ることになる。


 町自体は大きいけれど、町の中に活気はなかった。ここから見える家はどれもこれも崩れ落ちそうだ。壁はボロボロで屋根の一部が剥がれ落ちる。今だって屋根の一部が地面に落ちた。


 地面は干からびて割れている。家の壁に寄りかかってうなだれる人や、地面に突っ伏している人が目立った。その人たちは痩せこけており「餓死」や「飢渇」なんて言葉が頭の中に浮かんできた。


「なあ、馬車や牛車は町の中を素通りするだけっぽいけどなんでだ?」

「このメイクールはカラナ森林に囲まれてしまっているの。カラナ森林はダンジョンじゃないけど、別の町に行こうと思った場合、メイクールを直進するのが早くて安全なの」

「これだけの人を尻目にして食べ物なんかを運ぶのか。なんつーか、難儀な世の中だな」

「こういう町はね、実はここだけじゃないんだよ。近年はどこでも作物が育たなくなってきている。育たないだけじゃない、種そのものが病気に侵され、二度とその種を繁栄させられない。そんな状況にあるの。年を重ねるごとに病にかかる作物は多くなってきてる。実際作物だけじゃなく動物も数を減らしているの」

「その病気は治らないのか」

「昔ならばまだしも、今の技術では難しい。人に感染しないことだけが救い、と言ったところ」

「感染症か。その言い方だと別の植物同士なのに感染するのか」

「うん、科学や生物学、医学の各分野で分析はしているらしいけどね。同じウィルスだってことくらいしかわかってないみたい」

「つまりこのままだと食える物がなくなるのか」

「将来的にそうなる可能性は高いね。食物だけじゃなく、動物にも別種のウィルスが萬栄し始めてるから」


 異世界ってのも大変なんだな、って感想しか出てこない。俺が本来いた世界とのギャップが酷すぎてイメージさえも湧いてこないからだ。


「俺たちもここを通過点にするのか」

「そうなる。メイクールの周囲はカラナ森林に囲まれてるけど、出口だけは森林にちょっとかかってるくらいだから。この町さえ出てしまえば、少し森を歩くだけでいい。それでも数百メートルはあるけどね」

「ダンジョンじゃないつっても凶暴な動物とかはいるだろ? それはどうするんだ?」

「軍備警察の人たちがついて歩くから大丈夫」

「この馬車や牛車の数を相手にすんの? 相当な人数が必要になりそうなもんだが……」

「軍警も営業所と同じでお役所仕事。国からかなりの人数が派遣されてるの」

「メイクールがこんな状態なのに?」

「メイクールの状況と軍警の状況は関係ない。軍警は国、ないし世界からお金が出てるし、食事だって配給される。この町の食物がどうとかというのは関係ない。食事だって国が支給してくれる」

「待て待て、そんなことができるならこの町の人間にも食事を供給することくらいできるんじゃねーのかよ」

「それは私にはわからないさ。政府が決めることだからね」


 そうか、俺たちはただの冒険者(キャスター)。国に口出すことなんてできないし、声を届ける手段もない。政府的に考えれば、一つの町を相手にしている時間はないってことなのかもしれない。理解できないこともない。が、こうやって行商人が通る場所なんだから整備くらいすべきだとは思う。


「で、これからどうするんだ? 町を出てからまた別の町に行くんだろ? 食事とかは?」

「この町に食事をするような場所はない。あることはあるけどなにが入ってるかもわからないしかなり怖い思いをすると思う。こういう場所だからね、窃盗や恐喝なんかも少なくないんだよ」

「冒険者にとってはあんまり関係なんだよな? この辺のダンジョンってレベル高いんだろ? だったら冒険者のレベルも高いはずだし」

「ダンジョンのレベルが高いから問題なの。ライセンスを取得、レベルを上げて窃盗を働く。行商人は当然として、冒険者も標的になりうる」

「お前も野盗相手には苦戦するのか?」

「それは大丈夫だな、たぶん。今まで戦った野盗は全員レベル100未満だったし、野盗になるような人たちは冒険者を半分引退してるような人たちばかりだから。戦闘というのは少しでも離れれば勘が鈍る」

「じゃあお前よりレベルが高い野盗が現れたら? 前線を退いた、って言ってもだな、野盗として戦ってるわけだし」

「正直、レベルが高い野盗が現れると負けると思う。けれど冒険者のレベルは目安でしかないからレベル差がそれほどなければなんとかなる」

「レベル差一つ二つなら許容範囲か」

「ニ十差くらいまでなら、なんとか」

「結構広いじゃねーか」


 逆に、格下に負ける可能性も低くないということでもある。フレイアよりもレベルが高い人物が二人以上いたら間違いなく詰みなんだろうな。俺がもうちょっと戦えればいいんだけど。


 大通りを直進し続けて町の端にある門を目指していた。その最中、目端に黒いなにかが通りすぎていった。立ち止まり、家と家の隙間の向こう側、細い路地へと目を向けた。


「どうしたの?」

「いや、なんかが横切ったような気がするんだけど……」

「猫とか犬じゃなくて?」

「いや、もっと大きな、最低でも子供くらいはありそうだったけど」


 歩いている人も多いし、気にすることもなさそうだなと俺も思う。気にする必要がないのに気になっているこの状況に違和感はあるけど。


 まあ、横切ったヤツがヤバイヤツなら俺よりもまずフレイアが反応してもおかしくないか。

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