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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈expiry point3〉 Who's Guardian
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十話

 家に入るとカレーのいい匂いがした。リビング、というかキッチンの方から双葉と優帆の楽しそうな声がした。さすが我が妹、無事に優帆を懐柔したか。


 いよいよ問題は俺の方、というところまできてしまった。いや最初から俺だけの問題か。


 自室に戻ったが、フレイアはまだ帰ってきていないようだ。


 スウェットを手に取って風呂場へ。俺が帰ってきていることは双葉も気付いてるだろうし、風呂くらいは許されるだろう。


 さっと風呂に入って、リビングのドアの前に立った。二度、三度と深く深呼吸をした。


 ノブを捻ってドアを押し込んだ。


「ただいま」

「おかえり、お兄ちゃん」


 そう言ったのは双葉だったが、俺の前に立っているのは優帆だった。


 一瞬だけビビってしまったがここで逃げるわけにもいかない。双葉が仲立ちをしたという時点で割りとお察しだ。


「よ、よお」

「お、おかえり」

「た、ただいま」


 お互いに目をそらしてしまう。


「お前も手伝ったのか」

「カレー? うん、そうだけど」

「そうか、そりゃ、楽しみだな」

「なによそれ、別に誰が作ったって一緒よ。それに双葉が一人で作った方が、たぶん、美味しいわ」

「でも二人で作ったんだから、実際はどうか別にしても美味しく感じるだろ」

「アンタは、ホントに……」


 眉間にシワを寄せたかと思ったら、今度は背を向けられてしまった。


「あの、さ。昨日のことなんだけど、悪かったと思ってる」

「別に謝ってもらわなくてもいいわよ」

「それでも、なんていうか、言い方が悪かったなって。ごめん」

「……私も、ごめん」

「なんでお前も謝ってんだよ」

「なんていうかさ、こう、サッと水に流せなかったなって。もっと大人にならなきゃなって、そう思ったの。幼なじみだけど家族じゃないし、恋人でもないし」

「そこまで気にしなくてもいいんだけど……」

「一葵がそういうなら気にはしないけど」

「そうしてくれると助かる」


 優帆が顔を横に向け、横目で俺を見た。その口元は笑っていて、一応仲直りはできたと思っていいだろう。


「イチャイチャしてないで運んでもらってもいいかな?」


 と、双葉が割り込んできた。


「いや、別にイチャイチャはしてねーから」


 口に出して言われるとちょっと恥ずかしくなって来るじゃねーか、やめてくれよホント。


 仲直りも済んだということで、そこからはいつも通りの日常に戻っていった。優帆とも普通に会話できるようになったし、もうちょっと周りに気を遣おうという気にもなった。 胸の中でできたモヤモヤが解消され、これで気持ちよく眠れそうだ。


 夕食が終わり、三人でゲームをして、テレビを見て、十一時を過ぎたあたりで寝ることにした。今日もまた優帆は泊まっていくらしい。だが、パジャマ姿の優帆が家にいることには慣れない。


 自室のドアを開けるとカレーの匂いがした。優帆が風呂に入っている時に俺が持ってきたものだ。


 一応テーブルの上に置いておいたのだが、結局手付かずのまま放置されていた。


 ラップをかけてあるので、そのまま皿をキッチンへと持っていった。帰ってきたら温め直してやるか。


 十二時過ぎまで待ってみたが、結局フレイアは帰って来なかった。


 読みかけの文庫本に栞を挟み、机の上にそっと置いた。


 窓の鍵は開けっ放しだ。帰って来ても勝手に上がって、勝手に風呂に入って、カレーを食べて寝るだろう。


 ライセンスを見ても連絡は入っていない。無事であるならそれでいいが、連絡くらいは欲しいなと本気で思った。


 基本的にフレイアとは一緒だった。だから離れている時間が長いと不安になる。これも慣れが必要だ。


 たよりがないのは良い知らせ、と自分に言い聞かせることにした。


 布団を被って目を閉じた。次に目を開けた時、彼女が目の前にいてくれればそれでいい。ただそれだけを望んで眠りについた。

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