表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈expiry point3〉 Who's Guardian
69/252

六話

「いやなんでもない」

「内緒の話? 私だけ除け者……」

「今日の夕食の話だよ。コロッケが食べたいなって」

「あ、私も双葉のコロッケ食べたい! 今日もお邪魔していい?」

「それはダメだ」


 あっと思った時にはもう遅かった。


 双葉はどこか遠くを見つめるような目をして俺を見上げていた。


 口が滑ったとはいえ、こういう拒絶の仕方はよくない。そんなの俺だってわかっていたはずだ。


「あー、ちょっと今日は外食にしようかって話もあったからさ、まだわかんないなーっていう――」

「いいよ、気にしてないから」


 そう言いながら、優帆が俺の腕を離した。


「明日! 明日ならいいから!」

「うん、じゃあ明日、お邪魔させてもらおうかな」

「おい、お前どこいくんだよ」


 腕を離して、そのまま帰り道とは違う方向へと歩いて行こうとする。


「ちょっと買い物したいなって思って。今日は、二人で帰ってね」


 その歩調が速くなり、優帆は街の方へと走り去ってしまった。


「お兄ちゃん……なんでお兄ちゃんはそんなにダメなの?」

「ダメって言うな。ダメって言わないで。自分でも、ある程度は理解してるんだ。追い打ちはやめてくれ」


 頭を抱える。そんな俺を置いていくように、双葉が一人で歩いていってしまう。


「おー! お前にまで置いて行かれたら俺はどうすればいいんだ!」

「お仕置き」

「お仕置きやめて! 優しくしてよー!」


 追いすがる俺に冷たい視線を向けてくる。


「ちゃんと謝りなよ?」

「謝る! 謝るからお前だけは優しくしてくれ!」

「……もう、しょうがないんだから」


 眉尻を下げながら、双葉は柔和に微笑んだ。


 さすが我が妹。お前は最高の妹だよ。


 妹の存在に感謝しながら帰路を歩いた。こういう青春も悪くない。


 家に帰り、自室のドアノブに触れた。その時、部屋の中から気配を感じた。同時に俺は思い出す。まだ、フレイアに連絡を入れていなかったことに。


 ドアノブにかけたこの手を離したい気持ちが九割。しかしこのまま逃げるとさらにあとが怖すぎる。


 ツバを飲み込み、一、ニ、三でドアを開け放った。


 ベッドの上にはアグラをかくフレイアがいた。タンクトップと短パンという姿は非常に眼福だが、目があまりにも怖すぎた。


 眼と眼が合う。この眼光で、きっと並の人間なら数人は殺せるんじゃないだろうか。


「あ、あの、フレイアさん?」

「なに?」


 ああ、やっぱり怒ってらっしゃる。


「言い訳を、させてもらえないだろうか」

「その言い訳によっては三日は立てない身体にするが?」


 もう言い訳はダメだ。どんな言い訳をしても三日は立てない身体になる。


 俺は大きく深呼吸をした。


 そして、僅かにジャンプしてから空中で土下座の体勢を取って床に着地。


「すいませんでしたああああああああああああああああ!」


 後頭部に視線が刺さる。フレイアの顔は見えないが威圧感と緊張感がピリピリと痛む。


「イツキにどんな事情があるかはわからない。でもね、ちゃんと連絡してくれないとこっちも困るの」

「はい、次からは必ず……!」


 ベッドからフレイアが降りた。つま先が若干見える。


 一歩、二歩とこちらに歩き、そしてしゃがみ見込んだ。


「もしかしたらやられちゃったんじゃないかって、心配しちゃったじゃない」


 その声に怒気は含まれていなかった。むしろ優しく、本気でこちらを心配しているようだった。先程の殺気は、いつの間にか消えていた。


 素早く顔を上げると、そこにはフレイアの笑顔があった。


「よかった。生きていてくれて」


 フレイアが近付いてきて、そのまま抱きしめられた。ふわりと香る花の匂い。胸に当たる柔らかな感触。なによりも抱きしめている腕が優しかった。


「本当に、ごめん」


 そう言いながら抱き返す。背中に回した手に少しだけ力を込めた。


「大丈夫なら大丈夫って言って欲しいんだよ。じゃないと、心配で集中できないし」

「うん、今度からちゃんとするから」

「よしよし」と、俺の頭を撫でてくれた。


 ここで、この状況がいかに恥ずかしいのかを理解してしまった。


 急いでフレイアから身体を離す。彼女は「どうしたの?」と言わんばかりの顔をしていた。異性と抱き合っても恥ずかしくないのかこの子は。


「と、とりあえず下に行こうか。俺も風呂に入りたいし、双葉が夕飯作ってくれてるからさ」

「そうだね、フタバにも話を訊かなきゃいけないしね」


 抱き合っている時に双葉が来なくてよかった。あんな姿を見られたら、なにを言われるかわかったもんじゃない。


「先に行っててくれ。俺は着替えてから行く」

「うん、わかった」


 フレイアを先に行かせてスウェットに着替えた。


「よかった、本当に」


 フレイアが生きていたことに関してじゃない。フレイアが俺を許してくれたことに関してだ。


 フレイアが負けるのは、きっと俺がいるからだ。俺みたいな弱いやつが近くにいるから、フレイアは力を出せないのだ。


 だが、俺はそれをバネにしなきゃいけないんだ。悔やんで立ち止まっていてもなにも得られない。早くアイツの隣に並んで、背中を任せてもらえるようになるんだ。そうすれば、もうフレイアが死ぬことも、俺が死ぬこともなくなるんだから。


 そうだ、やはり誰かに許してもらえると安心する。今の俺の中には、もう一つシコリがある。それを解消しないと、これからの生活にも支障が出そうだ。


「明日、ちゃんと優帆にも謝らなきゃな」


 と、言いながら部屋を出た。


 一度は話をしなくなった仲だが、それでも幼なじみであることに変わりはないのだから。早く謝って、優帆ともまた今まで通りお喋りしたい。


 優帆には、今まで通りに側にいてもらいたいから。


 一階に降りて、まずは風呂に入った。風呂は若干湿っていて、フレイアが先に入ったんだというのがわかった。


「フレイアが入った後……?」


 いや、邪なことを考えてはならん。この気持ちを引きずっていると、どこかで口に出してしまいそうだ。そんなことになってはフレイアにも双葉にも蔑まれてしまう。


 全身をガシガシ洗ってから風呂を出た。そう、無駄ではないが不埒なことは考えてはいけない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ