一話
物凄い勢いで跳ね起きた。
頭に手を当てて目を閉じる。さっきの光景が蘇るようだ。双葉とフレイアが真っ赤になっていて、それでもなにもできなかった。
なによりもグランツ、ゲーニッツ、メディアがどうなったのかが気になる。気にはなるが、現実世界に戻ってきてしまった以上はどうすることもできない。
それに今ここでやらなきゃいけないことがある。
「お兄ちゃん!」
双葉が大声を上げながら思い切りドアを開け放った。ボロボロのローブを羽織っている。
「おう、おはよう」
「あの、今、ここ、あれ?」
「具体的には言わん。察してくれ。ほら、フレイアも起きろ」
隣ですやすやと眠るフレイアを揺すった。あんなことがあったのに、どうしてこうも安心したような寝顔を晒せるのか。
「ん……ああ、おはようイツキ」
「はいおはよう。さっさと着替えて下いくぞ。双葉、朝食作ってくれ」
「う、うんいいけど」
「スマフォの日時は確認したか?」
「まだ、だけど?」
俺は自分のスマフォを双葉に放り投げた。
「うそ、これって……」
「言うな、察しろ。これから起きることも、お前は理解してるよな?」
「じゃあお兄ちゃんにも記憶が?」
「俺だけじゃない、フレイアもだ。優帆はどうしてる?」
「まだ寝てるかな。そーっと出てきたから」
そうか、一緒のベッドで寝てるんだったな。
「じゃあとりあえず優帆を起こさず着替えてくれ。そのローブはタンスの奥にでも押し込んで、優帆とは何事もないように接してくれ。これから、アイツらと戦わなきゃならないしな」
「変な銃を持った人たち?」
「そう。でも戦うのは俺とフレイアだけ」
「ちょっと待って! 私だって――」
「お前には重要な任務がある。わかるよな、言わなくても」
双葉は眉をハの字にし、ゆっくりと一度だけ頷いた。
「ゆうちゃん、だよね」
「そういうことだ。お前はなにか理由をつけて優帆と二人で学校にいけ。俺とフレイアでアイツらを迎え撃つ」
「それなんだけどさイツキ。今回は私と双葉ちゃんでなんとかするわ」
「ちょ、なに言ってんの? それじゃあ、いざって時にどうすりゃいいんだよ」
「上手くやるわ。相手の行動はもうわかってるんだし、あの状況を打破するには今すぐにでも動かなきゃいけないの。わかる? あの時間に行っても迎撃できないのよ」
わかるよ。わかるけど、俺がお前たちと離れたら死に戻りできなくなる。それもわかってて言ってるに違いない。だから、フレイアの思考がまったくわからなくなった。
「いい? 双葉ちゃんと優帆ちゃんの二人だと、その二人がもし襲われても対応できないの。でもイツキがいればなんとかなる。双葉ちゃんと私なら前衛と後衛でしっかり対応できるから」
「いや、でも、いやいや」
「納得して。そうでなきゃ前に進めない」
考える。考えた。どうする、どうしたらいい。
でも、そんなものはまったく意味がない。フレイアが言うことを理解してしまったからだ。
「わかった。じゃあ、フレイアと双葉はすぐに着替えて、簡単になにか食べてからすぐに家を出てくれ。俺は怪しまれない程度に優帆と早めに家を出る」
「おっけー、それでいきましょう。双葉ちゃんも大丈夫?」
「わかりました」
「詳しい話は私が話してあげるからさ」
双葉は頷いてから部屋を出ていった。
フレイアもささっと着替えを済ませて部屋を出た。俺も制服を来てから階下に降りた。
二人はバナナとコーヒーとクッキーだけを食べて玄関に向かう。
「無茶すんなよ」
「無茶しないでなにするのよ。大丈夫、大丈夫だから。ね、双葉ちゃん」
「うん、なんとかするよ」
「なら、全部任せる」
「行ってきます、お兄ちゃん」
「ああ、いってらっしゃい」
二人を見送ってから家の中に戻る。すると、ちょうど優帆が降りてくるところだった。すでに制服に着替えていた。
「あれ? 双葉は?」
「用事があるって、さっき出て行ったよ」
「ふーん、友達でも迎えに来たの?」
「え、なんでそう思うの?」
「話し声が。双葉とは違う女の人の声」
「まあ、そんなとこだな。双葉がトーストと目玉焼き作っておいてくれたから、それ食ったら俺たちも行くか」
「まだちょっと早くない?」
「コンビニに寄って行きたいんだよ」
「コンビニぃ? 遠回りになるじゃない」
「いいからいいから」
優帆の背中を押してダイニングへ。さり気なくイスを引き、彼女を座らせた。
「コンビニでなに買うの?」
「あー、いやー、実は靴下がなくなっちゃってさ。今日履いてくのがもうないんだわ」
「なんで直前になって気付くかなー」
「まあまあ、そういう日もあるって。食ったか?」
「早いっての。もうちょっと待ってよ」
それから五分後、優帆が食べ終わったのを確認してから家を出ることにした。
「そんなに急いで出ることないと思うんだけど」
ドアに鍵をかけていると、優帆が不満そうな顔でそう言った。
「遠回りになる上に、俺が靴下を履き替える時間が必要だ。コンビニまで行くんだし、昼食もそこで買おうと思っててな」
「なんだかなー。なんか隠してない?」
「いや、ホント、全然そんなことないんで」
「胡散臭いなぁ」
「ささ、可愛いお嬢さん、ボクと早朝デートしましょっか」
「アンタとデートなんてしたくないわよ。勘弁してよ」
なんて言いながら先に行ってしまった。心底嫌そうな顔しやがって。
家から出て左に曲がると前回と一緒。でもコンビニは右方向なので問題ない。




