十三話
朝起きてすぐに準備をした。グランツとゲーニッツはもうすでに出かけたらしい。
女部屋に顔を出してメディアとフレイアに挨拶をする。と言ってもフレイアは意識がなかった。
部屋を出る時にメディアの分身を渡された。渡されたというかなんというか、どう表現していいかわからない。
俺、双葉、メディアの分身の順番で宿の中を歩いていく。
「なんか、あれだな。こうしてると、あれだわ」
「うん、なんか、そうだね。夫婦みたいだね」
若干赤らんだ顔の双葉が言った。
そう、メディアの分身はまどうことなきロリなのだ。俺でもヒョイっと抱きかかえられるくらいに小さい。
「えっと、メディアさん、なんですよね?」
「私はメディアでありメディアではない。自立用の意識を持たされている。私の視点をメディアも共有しているが、発言や行動理念などは彼女とは少し違う」
「魔法って、すごいんだな」
「あんまり考えない方がいいかもね。それじゃあ行こうか、メディアちゃん……だとちょっと呼びづらいかな。ディアちゃんにしておこうか?」
双葉が手を差し出すと、ディアがその手を握った。ディアという名前も気に入ったようだ。
宿を出てすぐに防寒着を買った。男性用、女性用、子供用の三つだ。それから非常食やらなんやらを買い込むと結構な量になってしまった。俺が持つしかないので量を抑えるべきだったかなと思ってしまう。
そして、俺たちはベンネヴィス山岳地帯へと向かうことになった。
町を出る時、入り口に誰かが立っているのが見えた。小さな少女。見たことがある。
「あ、イツキさん!」
メリルだった。ぴょんぴょんと小さくジャンプして俺たちを迎え入れる。どうやら待っていたようだ。
「どうしたんだよこんなところで」
「ここで待っていればいつか来るかな、と思って」
「いつかってなんだよ」
「ほら、町から出るっていうことはダンジョンに行くのかなーと思いまして」
「まあ、正解だけど」
「それならちょうどいいです。私もお供しますよ。どこに行くんですか?」
「ベンネヴィス山岳地帯だけど。まあ俺よりもレベルが高いお前がいてくれると助かるか。俺たちはティアマトの血液が必要なんだが、なんとかなるか?」
「たぶん大丈夫だと思います。ティアマトは攻撃力は高いですが戦い方が単調なので」
「詳しいんだな。戦ったことあるのか?」
「えっと、ええ、はい。そうなります」
煮え切らない返事だな。そう思いながらも、ついてきてくれるならばその限りではないという考えの方が上回った。
「んじゃ行くか。メンバーは俺、双葉、ディア、メリルだ」
「はい、私、頑張ります」
こうして、戦力が増えた俺たちはベンネヴィス山岳地帯へと向かうことになった。
「そういえばメリルのメインジョブとサブジョブを聞いてなかったな。俺は拳闘士、魔術師、法術師なんだけど」
「私は銃筒士、呪術師、法術師ですね。これを使います」
マントの中から二丁の銃を取り出した。この世界には少し場違いなんじゃ、と思うような近代的なデザインだ。ブローバックとかこの世界にもあるんだな。こういう世界だとリボルバーが中心だと思っていたが。
「つまり近距離戦闘は俺だけか。うーん、ちょっと心配だな」
「大丈夫ですよ。イツキさんが目の前の戦闘に集中できるように援護しますから」
ニコリとメリルが微笑む。実年齢よりも若く見えるのは相変わらずだ。下手したら双葉よりも年下に見える。
「お兄ちゃん?」
「なんでお前は怖い顔してるんだよ。なんで怒られてるんだよ俺は」
「デレデレしないの。だらしないんだから」
「してねーから」
「いいえ、メリルと目が合った瞬間、イツキの心拍数が上がりました。デレてます」
「お兄ちゃん!」
「ディアはなんで余計なこと言うの?! 俺たちの仲を壊したいの?!」
ディアは「なんで怒られたの?」と首を傾げていた。思考とかそういうのも身長に合わせて後退しているみたいだ。
メリルとイチャイチャして、双葉に怒られて、ディアに突っ込まれて、そんなことをしているうちにベンネヴィス山岳地帯へと到着してしまった。まだ山に登っていないというのにこんなにも寒いのか。
メリルも自分の防寒着を持ってきているらしく、全員で厚く着込んでから山の中へと入っていった。
山道は緩やかで、登るだけならばそこまで苦労しないだろう。このモンスターたちがいなければ、の話だけど。
推奨レベルが80というだけあってかなりキツイ。最初は一体一体相手にしていたのだが、このままではこっちの体力が尽きてしまう。
ここでディアからの発案で、彼女の魔法を使ってもらうことにした。
法術の一つ、隠蔽法術と呼ばれるものらしい。モンスターたちに気付かれないようにする法術。実際、モンスターよりもレベルが高いメリルがいなければ有用に扱えない法術のようだ。
モンスターを見つけては足音を立てないようにすり抜け、戦闘を避け続けた。その間にも気温は下がり続け、防寒着を着ていても体温が奪われていくようだ。
次第に雪も舞ってきた。
「珍しいですね」
「どういうことだよディア」
「ここは寒いだけで、雪が降ってくることはあまりないのです。運がありませんね」
「これから強敵と戦うっつーのに運がないとか言うなっつーの」
「それは失敬。運が悪いですね」
「余計ダメだわ」
「それは失敬。運が――」
「もういい、それ以上言わなくていいから」
こんな会話をしてはいるが、俺の左手はディアの右手と繋がっていた。どうやら手を繋いでいないと不安らしい。
ディアの反対の手は双葉が握っている。本当に夫婦みたいに見えるじゃないか。さすがに実の妹と夫婦に見えると言われてもアレだが。
「お二人とも、仲がいいんですね」
と、後ろからメリルが言う。
「仲はいいと思うぞ。俺は双葉のこと好きだからな」
「そういうことは言わなくてもいいの!」
「お前……お兄ちゃんのこと嫌いなのかい……?」
「なんでそういう目で見るのー!」
メリルが「ふふふっ」と小さく笑っていた。
彼女の瞳はどこか寂しそうで、どこか遠くを見ているように感じた。それがどうしてなのか違和感のようなものに見えて仕方がなかった。
途中休憩を挟みながら、俺たちは山道を登り続けた。雪も舞っている程度なので特に気にはならなかった。




