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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈actuality point 3〉 Kindness Piece
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四話

 双葉一人を残すことは不安だ。特にグランツは嘘を見抜く。しかし双葉は俺よりも頭がいいし、頭の回転も早い。なんとかしてくれることを信じている。なによりも嘘をつくための材料が双葉にはない。この世界にいきなりやってきて、真実も告げられないままこの世界で生きることを強いられた。大丈夫だと思いたい。


「どうしたの、深刻な顔しちゃって。さっさと行くわよ」


 フレイアが俺の手を握って歩き出した。こういうことをさらっとやってのけるのが、こちらとしても心が落ち着かない部分でもある。


「フレイアは卑怯だ」

「なんか言った?」

「なんでもない」

「私は卑怯者になった覚えはないんだがなー」

「聞こえてんじゃねーか!」


 はははっと彼女が笑った。


 俺のことを心配してくれているのがよくわかった。だから、俺も笑うことにした。


「ねえ、アナタたちってなんでそんなに仲がいいの?」


 アルが不思議そうにそう言った。怪訝そうに眉を潜めている。それも当然だろう。フレイアは高レベル、それに〈蒼天の暁〉のメンバーだ。俺はといえば、サブジョブすらも今日設定したばかり、今まで所属してきたギルドもなし。戦闘のいろはも知らないような平凡なイケメン。


 イケメン、だったらいいのにな。


「まあ、いろいろあったからね。でもそれは私がイツキの命を助けたからであって、彼にとっては私にしか依存する場所がないからよ。両親もいない、フタバとイツキが二人だけで、この低レベルでやってきた。やっぱり? 偽善者としては? 助けてあげないといけないっていうか?」


 自慢そうに語るフレイアだが、これも俺に遠慮しているから出る言葉だ。


「確かにフレイアは偽善者っぽいところがあるわね」

「アルはハッキリ言うね」

「リアもハッキリ言うわよ。でもハッキリ言うのは、ちゃんと言えば伝わるってわかっているから。それはアナタも同じでしょう?」

「そうね。言えば伝わる人間とそうでない人間は確かにいる。そしてそれを見極め、接していくのは人間関係を構築する上では重要ね」

「そういうこと。つまり、アナタがそれだけ言わせるってことは、イツキはそれだけの人間ということなんでしょうね」

「わかってるじゃない。イツキはちゃんとしてるし、私が保証してあげる。だからあのことを話しても大丈夫よ」


 あのこととは、きっと双子が警察になった理由か。


 アルの顔が曇った。が、それを払拭したのはリアだった。


「フレイアが言うなら大丈夫。フレイアの保証がなくても、きっとイツキになら問題なく話せるはず。この人は他人に言いふらすような人じゃないと思う」

「なんでそう思うのよ」

「そんな度胸なさそう」

「ああ、なるほど」

「俺の顔を見て納得すんなよ。姉妹でビビリ呼ばわりすんな、失礼な」

「でも悪い気がしてるって顔じゃないなー、ちょっと嬉しい感じの顔だなー」

「顔を覗き込むなって。やめて、本当にやめてください」


 両手で顔を覆うが、フレイアがしつこいくらいに顔を覗き込んでくる。しまいには無理矢理剥がそうとしてくる。力でフレイアに勝てるわけがないというのに。


 そして、アルとリアの口から今までの経緯を聞いた。二回目になるが、これは何度聞いても胸糞が悪くなる話だ。


 けれど二人は暗い顔などしていない。前を向き、自分の道を進んでいた。俺がかける言葉なんてなくて、なにかあるとすれば彼女たちの背中を見ていることくらいだ。


「強いんだな」と俺が言うと、アルは「バカね、女は強かな生き物なのよ」と分かったような口をきく。俺と年齢もそう変わらないだろうに。


 話は前回と変わらぬまま、合流までにも特にこれといった出来事もなかった。


 合流したあとは、適度に雑談をしながら歩き続けた。


 フレイアが双葉にアーツとアビリティの説明をし始めてしまったので、俺は話す相手がいなくなってしまった。特に、目的がブラックラバーだとわかっているのでモンスターに気をつける必要もない。


「アナタ、フレイアのこと好きなの?」

「なんだと?! べべべつにそういうわけじゃねーけどぉ?!」

「あからさま過ぎるのよアナタ。今でもずーっとフレイアのこと見ててさ。もうなにやってんだろって感じよ」

「なにやってるって、見てるだけだが」

「さっさと告白でもして玉砕してしまえばいいのに」

「けしかけといて玉砕する方に期待すんなよ。それに、俺はフレイアのことは別に好きじゃない」


 そう言って、ちょっとだけ違和感があった。正直なところを言えば、好きなのか好きじゃないのかがわからないのだ。


「ジッと見てたのに?」

「それは単純に双葉とフレイアのやり取りが気になっただけだ。フレイアにはいろいろ世話になってるからな、なにか手伝えないかなとか、いろいろ考えるわけよ」

「ふーん、アナタって以外に殊勝なのね。少しだけ見直したわ」


 アンは手を出して、人差し指と親指の間を一センチほど開けた。


「え? もしかして少しってその程度なわけ?」

「これでも十分すぎるくらいよ。弱いし軟弱だし惰弱だし情弱だし弱いし。そんなアナタを見直すのはこちらとしても勇気がいるわ」

「弱いって二回言ったとか全部に弱いが入っているとかそういうのは置いても、下げに下げるのはさすがに俺も心が痛い」

「本当のことでしょう? まあ、底辺に位置しているってことはそこからは上がる要素しかないってことじゃない」

「物は言いようだな、ホント」

「大丈夫。実は結構イツキのことが好き」


 と、いきなりリアがぶっこんできた。


「あー! 今まで黙ってたくせになに言い始めてんのよー!」

「本当のこと。このままだとイツキに誤解されたまま。誤解されたままアルが嫌われるような事態だけは避けたい」

「ぐぬぬ……なにも言い返せない……」


 人が「ぐぬぬ」って言ってるとこ初めて聞いた。少々口は悪いがこの子はなかなか面白いな。


 アンの辛辣さで俺がアンのことを嫌いになるかもしれない。そういう可能性を考えた上で割って入っていきた。が、もうちょっと上手くやった方がいいと思うが。


 アンとリアの姉妹ゲンカを見ている内に、ブラックラバーが鎮座する場所へとやってきた。前回よりも時間が遅いせいか、前回とは少しだけ遭遇する方法が変わっているみたいだ。

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