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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈expiry point 2〉Disaster Again
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十三話

 朝起きた瞬間、全身に電気が走った。この痛みは間違いない。間違いなく筋肉痛だ。


 起き上がるのも一苦労、歩くだけでも身体が痛い。それに頭も痛いし若干吐き気もする。たぶん寝不足が原因だろう。


「大丈夫?」


 押入れからフレイアが顔を出してきた。


「大丈夫じゃないけど大丈夫って言っておかないとかっこ悪いから大丈夫」

「もうダメじゃん、それ」


 あくびをしながら押し入れの中に戻っていった。二度寝できるって羨ましいな。


 リビングに行くと、双葉と優帆が朝食をとっていた。トーストに目玉焼きにコーヒー。寝不足も相俟ってあまり食欲がないのでこれくらい軽くていい。


「おはようお兄ちゃん。トーストは何枚?」

「一枚でいいよ。目玉焼きも」

「珍しいね。いつもはもっと食べるのに」

「そういう気分じゃねーんだ。むしろ具合いがあまりよくない」


 イスに座ると、朝食の前にコップが出てきた。中身はオレンジジュースだ。これは双葉なりの気遣いだ。


「確かに顔色はよくないわね。どれどれ」


 向かいに座っていた優帆が身を乗り出してきた。右手で俺の額に触れ、左手で自分の額を触った。胸元を開けているせいか、ブラウスの襟元から下着が見える。胸は大きい方なので目の保養にはちょうどいい。フレイアには勝てないが。


 今日は水色か。健全でよろしい。


「ちょっと熱っぽいわね。今日は休んだら?」

「いや大丈夫だ。行くよ」

「アンタってそんなに学校好きだったっけ?」

「俺にもいろいろあんのよ。学校で秘密の物資とかを仕入れたりしなきゃならん」

「秘密の……あー、はいはいそーですか。勝手にしなさいよもう」


 不機嫌になって離れていく優帆。これくらいの距離感で丁度いい。俺の考えを悟られても困る。


 先日、ヤツらは俺の家に現れた。それはつまり、俺たちが注射器を持っていることを知っていて、なおかつこの家に住んでることを調べたからだ。この状況で双葉を学校に行かせるのは怖い。けれど説明することもできない。それなら一緒に学校に行くしかない。今のところ、人気がない場所でしか襲われてないから、学校にさえ着いてしまえばなんとかなる。


 と、思いたい。


 どんどん頭が重くなっていく。が、休むわけにもいかない。学校についたらすぐ保健室だな。


 左から俺、双葉、優帆の順で並んで歩く。女子二人は非常に楽しそうにお喋りをしているが、俺の方はどんどん具合いが悪くなっていく一方だった。普段風邪なんかひかないはずなんだが、ここ最近いろいろあったから無理がたたったのかもしれない。


 住宅街はやけに静かだった。いや違うな。俺の耳がちょっと遠くなってるんだ。元々このへんに住んでいる学生は多くないのもある。基本的におじいちゃんおばあちゃんばっかりだ。社会人もたくさんいるが、もっと早く出るみたいだ。


「少し、お時間大丈夫ですか?」


 大通りに出るよりもずっと前。スーツ姿の男性に声をかけられた。七三分けのテカテカの髪の毛。長身に面長、糸目にメガネ。営業マン、という言葉がしっくりきそうな見た目だった。


 笑っている。けれど肌を舐めるような感じは一体なんだ。この圧迫感と妙な焦燥感は普通じゃない。


「悪いけど、俺たち急いでるんだ」


 たとえばミカド製薬と関係があろうがなかろうが、ここはスルー安定だ。双葉と優帆が反応しても、具合いが悪いって言えばなんとかなるだろう。


「ちょっと冷たくない?」


 俺が歩き出したのと、優帆がそう言ったのはほぼ同時だった。


「どうしたんですか? 道にでも迷いました?」

「いえ、道はわかるんですが、行こうとしている家の住人が出てきてしまったものでして」


 男は懐から銃を取り出した。バレルは短く、全体的に小柄だ。けれど普通の銃とは形状が少し違う。


「えっ?」


 プシュッという音がして弾が発射された。それは優帆の腹部にめり込む。


 彼女は腹を抱えていた。血は出ていない。


「おいてめぇ!」


 すぐさま胸ぐらを掴もうとするがヒラリと躱されてしまった。いくら具合いが悪いと言っても、そこそこレベルが上った俺の動きを見切った。舐めてかかったら絶対に負ける。


「お兄ちゃん! ゆうちゃんが……!」

「双葉は優帆を頼む。俺はコイツをなんとかする」

「そうじゃないの! ゆうちゃんの身体が、おかしいの……」


 二人の方へと振り返った。腹を抑えて仰向けの優帆、そしてその優帆に膝枕をする双葉。


 なにがおかしいのか、それは誰の目にも一目瞭然だろう。撃たれた部分が制服を巻き込んで変形し始めていた。肌が紫色に変色しているが、もう肌なのか服なのかもわからない。進行速度が異様なほどに早く、メリメリという音をさせながら腕や足も紫色になっていく。太いミミズ腫れのようなものが模様のように広がっていた。


「お前、その銃……!」

「もう気付いていますよね? そうです、キミが持っているものと一緒です。でもこっちは直接注射する必要がない。今日はその試験運用をしにきたんです。いやあ、優秀ですねこれは」

「なに楽しそうに語ってんだよ。今すぐ戻せ」

「無理です。私たちは元に戻すような手段は身につけていない」

「無理でもやるんだよ! 今すぐだ!」

「作ろうとは思ったんですけどね、作れなかったんですよ。それよりもいいんですか? キミの妹さん、大変なことになっていますが?」


 もう一度振り返る。紫色に変色した優帆が、双葉の首を掴み上げていた。


 どうしてこうなった。こうならないために、俺は学校に行こうと思ったんだ。


 いや違う。俺が学校に行かなければ、この男は俺の家まで来ていたんじゃないのか。それならなにが原因だ。


「俺か? また俺なのか?」


 十数年という年月を、俺は優帆と過ごしてきた。ずっとお隣さんで、ずっと幼馴染みで。当たり前の存在だった。そう、過去になってしまった。


 それがなによりも許せなかった。


「クソがよおおおおおおおおおおお!」


 優帆のことはなんとかしたい。でも今は、生きている双葉を助けるのが先だ。


 一歩で懐に入り、優帆の二の腕を殴りつける。皮膚は硬く、一撃で手がしびれてしまった。しかし双葉の身は確保した。


 双葉を抱きかかえて道の隅へ。


「大丈夫か?」


 息が弱い。頬を何度か叩くけれど反応がない。首の骨でも折れてしまったのか。そうなると手の施しようがない。

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