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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈expiry point 2〉Disaster Again
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五話

「いろいろと持ってるわね」


 服の中から見つけた物を床に広げるフレイア。財布、社員証、タバコにライター、そして黒いケースと使い終わった注射器。


「このケースと注射器、見たことあるな」

「家に入る前に自分で注射したんでしょうね。ほら、中身もワーウルフの時と一緒。仲間と考えるのが自然ね」

「これは社員証か。えっとなになに『株式会社ミカド製薬試験課係長・宮川清志』か。ミカド製薬ってあのミカド製薬かよ」

「なに、そのミカド製薬って」

「ああ、前回服買いに行ったろ? あの近くにめちゃくちゃでかい会社があるんだけどそれがミカド製薬。日本でも屈指の資本金を有し、世界でも知らない人がいないレベルの企業だ。ミカドで作られた薬は一般家庭だけじゃなく、医療部門や戦争地域でも使われることが多いらしい。世界規模の製薬会社ってことだ」


 ワーウルフに変身したヤツは、あの黒いケース以外に持ち物がなかった。だからこの宮川ってやつとの接点はわからない。でももしも同じ会社の同僚だったとしたら、ミカド製薬が絡んでるということになる。


「でもそんなに凄い人がなんでこんなことに……」

「ミカド製薬が関係してるとなれば、この注射器が新しい薬とかそういう可能性もあるな。でもこんな危ないモノ作ってなにしようってんだか」

「まだミカド製薬が関与してると決まったわけではないわね。もう少し様子を見ないと」

「様子を見るって、その結果がこれだぞ? これ以上様子なんか見てたら、いつか取り返しがつかないことになるんじゃないか?」

「じゃあミカド製薬に乗り込む? そっちの方がリスクが高いけど? ミカド製薬が実際は関与していなくて、ただの暴漢に間違われて、留置所行きになって、自殺も出来なくて、結局戻れないまま何日も経過した。だなんてことになったら、それこそ後戻りはできないわ」

「くっそ正論過ぎて返す言葉がない。お前が言いたいのは「ハローワールドを最大限に活かせ」ってことなんだろうけど、俺だってできれば死にたくないんだよなこれが」


 俺がそう言うと、彼女は俺の目を一直線に見つめてきた。


「私ね、思うんだ。たぶんだけど、アンタは数多く経験するであろう死からは逃げられないんじゃないかって。運命みたいなしがらみがまとわりついてるような、そんな気がするのよ」

「んだよそれ、死ぬことが前提みたいない言い方しなくてもいいじゃん」

「アンタがこっちに来る前、どうやって死んだか覚えてる?」

「お、おう。車に轢かれて死んだ。けどそれがなにか?」

「そこがターニングポイントだったのよ。アナタは車に轢かれて死に、私の世界に来て死に、元の世界に戻って死を回避してしまった。この世界において、アンタは死ぬ運命だった。でも死を回避してしまったことで「別の死の可能性」が、アンタの生を上書きしようとしてる。そんな気がするの」

「つまり、俺は死からは逃げられない」

「逃げられないからこそ、ハローワールドを使って回避する。堂々巡りだけど、アンタがそうやってしか生きられないじゃないかって、私はそう思い始めてる」

「こうやって言われると、そんなような気もするな。納得はできないけど」

「私だってアンタを殺したいわけじゃない。だから死なないようには協力するけど、できるだけ自分でも足掻いて欲しい。万が一の場合、私が殺さなくてもいいように」


 俺はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。フレイアならば理解してくれる、だから俺を殺してくれるだろうと思っていた。でも、きっとそれは大間違いだ。わかっているからこそ「自分でなんとかして欲しい、自殺を考える状況を回避して欲しい」と思っているんだと、その時始めてわかった。裏を返せば「死ぬ時はどうしようも無い時にしてくれ」ということなんだろう。ある種の優しさのようで、ある種の厳しさを目の前で見せつけられた気分だ。


「おーけー、そのためには俺がレベルを上げなきゃならないな。コイツみたいなヤツはこれからも現れるだろうし」

「そういうこと。強敵に殺されるのは仕方ない。所詮この世は弱肉強食、私だって諦める。でも、なんとかできる策があるのに、それを使わないとか、なんにもしないっていうのはちょっと違うから。がんばろう、二人で」

「おう、ちょっと元気出たわ。さんきゅっ」

「おう、任せろ」


 彼女は歯を見せて笑った。元々美人なだけあって、彼女が笑うとなんだか恥ずかしくなってくる。いや、恥ずかしいわけじゃない。俺はただ、彼女のことを見ていられないだけなんだ。美しくも温かく人間味にあふれる彼女が眩しく、好意を抱いているからだ。


「それにしても疲れちゃったな。広範囲にプロテクトバリアを張ったものだからメンタルポイントが空っぽよ。最後の一撃が決まらなきゃ危なかったかも」

「今回使った結界がプロテクトバリアっていう魔法なのか」

「ええ、物質の表面に膜を張る法術ね。自分の身体を強化する法術をエンハンス、自分以外のなにかの表面に膜を張る法術をプロテクトバリア。物質の表面じゃなく、攻撃を受け止めるために空気中に障壁を張る法術がプロテクトシールド。覚え方は割りと簡単だと思うわ」

「じゃあ俺が使ってるのもエンハンスってこと?」

「それはちょっと違うかな。イツキは法術を使えないから、単純に魔法力を放出してるだけにすぎない。だからすごく燃費が悪い」

「じゃあ向こうに戻ったらすぐに営業所だな。サブジョブを設定しなきゃ」

「そうね。で、これからどうする??」

「どう、しようかな。とりあえず双葉を迎えにいかなくちゃ」

「若干家具壊れちゃったけどね」


 ソファーもテーブルもテレビもグッチャグチャ。傷にはならなかっただろうけど、室内の荒れっぷりはかなりのものだ。


 フレイアと一緒に二階に上がり、彼女を俺の部屋に押し込んだ。宮川が着ていたコートや帽子も一緒に。


 双葉の部屋の前に立ち「双葉、出てきていいぞ」と声をかけた。すると、ゆっくりとドアが開かれていく。


「終わったの……?」

「もう大丈夫だ。まあ、リビングはヒドイもんだけど」

「ヒドイって?」

「見てもらえばわかるかな……一緒に片付けてくれるとありがたい」


 怪訝そうに俺の顔を見る双葉。どういう顔をしていいのかわからないが、上手く目を合わせられず、首を傾げて廊下の向こう側を見た。


 双葉が小さくため息をついた。


「もう、仕方ないなぁ。時間が経ったら、ちゃんと話してくれるんでしょ?」

「そのつもりではいる。いつになるかはわからないけど」

「じゃあそれでいいよ」


 と、一人で階段を降りていってしまった。


 昔から双葉は聞き分けがよかった。自分の意思はあるけれど、なによりも相手の意思を尊重するのだ。本当に双葉には頭が上がらない。


 俺も一階に降りて、双葉と二人で部屋の片付けをした。「お兄ちゃんそっち持って」や「こっちはもっと右に寄せて」なんていう指示に従いながら家具を移動させていった。


 片付けが終わったあと、双葉は夕食の買い物に出かけてしまった。


「一緒に行こうか?」と言ったのだが「お兄ちゃんは余計なもの欲しがるからダメ」と返されてしまった。さすが我が妹、よくわかってらっしゃる。


 スーパーまでは自転車で十分、食材の購入に一時間、帰りに十分。つまり一時間以上帰って来ないと予想した。

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