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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈expiry point 2〉Disaster Again
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四話

 メンタルポイントの使い方は少しずつわかってきた。ゲームとかやってると、固定の魔法でしかMPを消費しない。だがMPと同様の役割を果たすメンタルポイントは、持ち主が自在に操れるようだ。ちゃんとした魔法を覚えないと火を出したり風を起こしたりはできないが、メンタルポイントを消費して、身体を覆う膜みたいなものを作れる。もちろんその魔法力を飛ばして、飛び道具みたいな使い方も可能。試した感じ、俺は才能がないのか使い物にはならなそうだった。このメンタルポイントを消費し、メンタルポイントを具現化して外に出すと魔法力というものになるらしい。つまり「魔法力で身体を強化する」という言い方ができるわけだ。


 身体を強化して、玄関へと歩みをすすめる。フレイアは俺の後方で待機。俺がドアを開けて、フレイアがソイツを捕らえるという感じだ。


 ドアノブに手をかける。ここからでもわかる。俺よりもずっと強いのだと。垂れ流されているのは魔法とかそういうのではない。純粋な殺意、ただそれだけ。


 心の中で「さん、に、いち」と唱え、ドアを思い切り開いた。俺はドアの影に身を隠す。けれど、ソイツは飛び込んでこなかった。


 ツバを飲み込む。どうしたらいい。顔を出してはいけないような気がする。けれど、見えないと恐怖が胃からせり上がってくる。


 そっーっと、身体を乗り出した。少しだけ、少しだけなら覗いても大丈夫だろう。


「やめなさい!」


 フレイアの声が空気を切り裂いた。次の瞬間、入り口から黒い何かが家の中に飛び込んでくる。そのなにかを受け止めたのはフレイアで、黒いコートの男と一緒にキッチンの方へと行ってしまった。


「あ、危なかった……じゃねぇ!」


 急いで追いかける。キッチンに飛び込んだ時、フレイアはもうそこにはいなかった。


 リビングの方で物音がする。今度はリビングに向かった。開け放たれたドアから、コートの男とフレイアが戦ってる姿が目に入った。


 コートの男は顔だけ見れば普通の人間。帽子はすでに取れているが、黒いコートは健在だ。そしてその黒いコートから覗く手にか鎌のような物。しかしそれは握られているわけではない。手が鎌に変形しているのだ。


 両手の鎌を振るってフレイアに斬りかかる。だがフレイアは武器がない。あったとしても、彼女の長い槍は室内戦では邪魔になるだけ。ここは俺の出番だろう。


 急いで彼女の前に滑り込む。魔法力はすでに溜めてある。


「ダッキング!」


 瞬歩と同時にダッキング。黒いヤツが鎌を振るうが、俺の頭上を通過した。一瞬で懐に潜り込む。


 俺はアーツの起動キーをそのアーツの名前にした。こうした方がわかりやすい。もしも強そうな技を身に着けたらその時考えよう。


「リバーショック!」


 腰の回転を利用して、コートの上からリバーブローを食らわす。魔術とかは使えないけど、魔法力を拳に溜めて殴ることならばできる。身体強化もできるようになった。レベルが多少低かろうと、これは確実にクリーンヒットだろう。これで相手の身体を浮かしてから〈連転脚〉という最高の流れを作れるはずだ。


「どうだ!」

「なにが、どうなんだ?」


 身じろぎもせず、ヤツはそう言った。面長な顔に鷲鼻。身長は高いが痩せ型だ。それでも、俺の一撃なんてまるでなかったかのように涼しい顔をしていた。


 と、襟を思い切り引っ張られた。俺の眼前を鎌が通った。空を切り、俺の前髪を少しだけ切り落とした。


 フレイアが前に出る。鎌での攻撃を手の甲で受け止めるが、赤い液体が腕を伝って地面に落ちる。フレイアが身体強化や肌の硬化をしていても、コイツの鎌は容易に傷をつけてくる。間違いなく、俺よりもフレイアに近いレベル帯なのだ。


「はああああああああああ!」


 彼女が強く床を踏みしめた。大気と共に、地面が揺れるような感覚があった。


 気合、という言葉が一番しっくりくる。その気合に、一瞬だけだがコートの男が動きを止めた。


 この好機を見逃すはずもない。


 フレイアは鋭いアッパーを鳩尾にぶち込む。ヤツが腹崩れを起こし、俺はそれを見てヤツの足元に滑り込む。左足を両手でつかみ、思いっきり引っ張った。


 コートの男が体勢を崩し、顔面から床に落ちる。


 後ろを振り返った。が、フレイアの姿はない。首を左右に振ってもいない。となると、もう上しかない。


 天井のギリギリのところでグルグルと前転を繰り返し、そして落下してきた。


「槍術、一ノ天、跳芯槍! 脚型!」


 重力と遠心力を利用した強烈なカカト落としが、コートの男を直撃した。見た目は派手ではないが、確実に背骨が折れたであろう音が聞こえた。


 男はのけぞり、そのあとでビクビクと痙攣した。俺もフレイアもその場から飛び退く。俺はソファー、フレイアは机の影に隠れた。


「や、やったか?」

「わかんないけど、たぶん。レベルは私とどっこいだけど、今の一撃はかなりきいたはず」


 バサッと、コートをなびかせて男が立ち上がる。当然、俺もフレイアも身構える。しかし、その必要がないのだとすぐにわかった。


「その力、どうやっ……て……」


 立ち上がったはいいもの、自分の身体を支えられなかったらしい。そのまま顔面から床に倒れた。ドサリと、こんなにキレイに人が倒れる姿なんて始めて見た。


「大丈夫そうかな……」

「たぶんね。なんというか、覇気が感じられない。それに見て、手が元に戻ってく」


 鎌から人間の手に戻っていく。同時に、身体がグズグズと崩れて灰になってしまった。 なんとか脅威は乗り切った。が、そのおかげか妙に冷静だった。これが殺人にあたるのかどうかと考えられるくらいには、通常通りの思考を保てたと思う。


 周囲に脅威がないと判断したのだろう、家に張られた障壁が解かれた。なぜ気がついたかと言えば、妙な圧迫感が消えたからだ。最初は気付かなかったが、障壁が消えて始めて気がつく。もしかしたらコイツとの戦闘でレベルが上がり、魔法力に対しての感度が上がったからかもしれない。


 コートを含めた洋服のみがその場に残された。フレイアが近付き、丁寧に洋服を調べ始めた。


「そういやお前さ、魔術師のジョブは取ってるって言ったけど、法術師のジョブのことは言ってなかったよな。障壁ってそんなに簡単に張れるもんなのか?」

「ジョブっていうのはね、メイン一つ、サブを二つまで設定できるの。で、今は魔術師と投具士がサブなだけ。前は法術師をサブにしてたことがあったから、その時覚えた法術はサブジョブから外れても使えるのよ」

「なるほど、俺もそろそろサブジョブ設定した方がいいかもしれないな」

「設定なら迷宮管理営業所に行かないとできないから、向こうに戻った時になるわね」

「改めて言われると物騒だな。また死ななきゃならないだなんて……」

「わかってると思うけど、今回死んだのだって、元々は『アルとリアを救いたい』っていうのが理由でしょ? それなら、自殺でもなんでも、いつかは死んで戻るつもりでいたんじゃない?」

「よくわかってらっしゃる。その時はまた、頼むわ」

「ためらい傷なんて作られても厄介だして、その時は私が殺すわ」


 彼女はサラッと「殺す」と言った。慣れているのか、重く受け止めていないのか。そこまではわからない。

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