十話
内心ちょっとワクワクしている。三つ目の町にして本格的にRPGって感じになってきた。こういう小出し感がやたらとゲームっ子の心を刺激するじゃないか。
そうも言っていられるような状況ではないが……。
休憩が終わり、俺たちはまた歩き出した。
この洞窟はほぼ一本道と言われていたのだが「ほぼ」なだけであって一応分かれ道はあるようだ。その証拠に今目の前に二股の分かれ道があるのだ。
「ちょうど六人だから三人と三人で別れようか」
と、グランツが言う。そこでジャンケンをすることになった。
「ごめん、ちょっと待っててくれる?」
そう言ったフレイアが、俺の手を引っ張って四人から遠ざかる。
「なんだよ、どうしたってんだ。もしかしてジャンケンか? ジャンケンなら知ってるぞ?」
「そ、そうなの? それならいいけど……よし、ジャンケンほっと」
急にジャンケンが始まった。十数年ジャンケンに慣れ親しんだ俺も反射的に手を出してしまう。俺がグー、フレイアがパーだ。
「俺の負けだな」
「え……? 私が負けなんだけど?」
「グーは石、パーは紙。パーの勝ちだろ?」
「違う違う。グーは杖を持った魔法使いの手を模してあるの。パーは盾、チョキは剣」
一個一個手の形をとって見せてくれるが、パーもチョキも指の間に隙間がない。つまり指がぴったりとくっついている状態だ。
「剣は盾に防御される、つまりチョキはパーに負ける。いくら盾を持っていても魔法は防げない、だからパーはグーに負ける。魔法がどれだけ強くても接近されたらやられてしまう、だからグーはチョキに負ける。わかった?」
「俺が知ってるジャンケンとは真逆だけどよくわかった。つまり真逆でいいんだな」
「わかってくれたのならよかった」
四人の元に駆け寄り話し合いを再開。といってもジャンケンメインだけど。
グーとパーだけを出し、グーを出したグループとパーを出したグループで分かれた。俺、ヒュンタイク姉妹の三人。フレイア、グランツ、メディアの三人で進行することになった。明らかにレベルのバランスが悪いんだが、本当にこれでいいんだろうか。
そんなことを口にできないまま、分かれ道を左に進んでいく。アルとリアが歩いていってしまったのでついていくしかない。
小走りで追いつくと、不機嫌そうなアルに睨まれた。
「睨むなよ……」
「そういう目付きなんだから仕方ないでしょ」
「それはすまんかった。つかこれ大丈夫なのか? ヤバイモンスターとかがいるかもしれないから来てるんだろ? それなのにパーティバランス悪すぎだろ」
「この分かれ道はすぐに合流するからいいのよ。一応念のため、くらいの気持ちで見てるだけ。二本の分かれ道が近いから、なにかあった場合は叫べば飛んできてくれるわ」
「なるほど、詳しいんだな」
「当たり前でしょう? ホープヴァリー洞窟はこのイスカール地区の管轄。イスカールの警察署に勤めてる私たちがこの洞窟のことを知らなくてどうするの」
「俺たちがいた村はナレットだろ?」
「イスカールっていうのは四つの町村からなる地域のこと。村であるナレット、ハルハ、ジャグリー、町であるシャノスの四つからなる。四つの町村は近い位置に存在し、その真中にイスカール警察署が建っているの。警察もまた国家統合政府によって造られているから迷宮管理営業所ももちろん入ってる」
「本当に警察官なのか……」
「私たちのことをなんだと思ってるのよ!」
「だって! 俺と変わらない年齢で警察なんて言われても信じられないんだもん!」
「ちょっと可愛く言ってもダメよ! ったく、なんでこの男と一緒に歩かなきゃならないんだか」
「いや、なんかすまんな……」
「ホントはまんざらでもないから、イツキはあまり気にしなくてもいい」
今まで静かにしていたリアが、彼女らしい静かな物言いで突っ込んできた。
「ちょ、ちょっと何言ってるのよ!」
「でもホントのこと。アルは嫌いな相手とは口も利かない。極力避ける。だからイツキのことが本気で嫌いなら、ジャンケンの時点で拒否してる」
「そそそそういうことは言わないの!」
「なんだ、じゃあ別に俺は謝らなくてもいいのか」
「うん、気にしない気にしない」
俺の方に振り返り、自然な感じで微笑んだ。無表情が張り付いたみたいな顔してる割には結構自然に笑えるじゃないか。
この二人は、たぶんずっとこうやってバランスを保ってきたんだろう。アルは思っていること、思ってもいないことを言ってしまう。恥ずかしいからとか、話す話題がないからとか、まあそんなところだろう。無言なのが嫌いなのかもしれない。無言は嫌いだけど話す内容が定まらないから、と考えてもまああまりいい傾向ではいが。
逆にリアは普段静観しているけれど、アルのこともそれ以外のこともよく見ている。アルがキツく当たった場合にフォローして、アルの注意を自分が引き受けているんだ。リアがアルの注意を引けば、それ以上別の誰かが罵倒されることもない。それにアルの性格が悪いから他人にキツくなっているわけではないというのもわかる。
なんだかいい姉妹じゃないか。アルはもうちょっと口の利き方を覚えるべきなんじゃないかとは思っているけれども。
「なあ、お前らはなんで警察官になろうと思ったんだ?」
ふと、思ったことを口にした。俺じゃなくてもそう思うんじゃないだろうか。
お世辞にも発育が良いとは言えない。それは体つきが子供っぽいとかそういうことじゃない。腕や足が細く、これで戦闘ができるのかどうかというのが問題だ。
例えば、昔から体格が良くて運動神経バツグンならば納得もできただろう。けれどこの年で警察官なんて、相当物好きであり、相当な苦労をしてきたに違いない。いくら頭が良かったとしても体格だけは覆せない。魔法がたくさん使えればいいような気もするが、その魔法が使えない状況で動けないようでは警察としてはダメなんじゃないかとも思う。




