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七話

 スキルを使用することで死亡するクローンはお母さんだけではなかった。他のクローンもスキルを一度使用するだけで死んでしまうのだ。死に方に違いはあるが、どうしても絶命してしまう。


 それから様々な実験を行うことで問題点が明るみに出た。本体よりも劣化する部分が多いのだ。劣っている点として、簡単だがいくつも見つかった。



・能力を使用すると死亡する

・テロメアの短縮が早いため寿命が短い

・髪の毛や肌の色が変色する

・基本的に体が弱く、ちょっとした風邪でも死亡する

・エピゲノムが変化しないため抗体を得ることができない



 などである。つまり現段階においてクローンは消耗品でしかないということだ。


 このままでは「兄のクローン」によって願いを叶えることはできなくなった。お兄ちゃんのクローンを作ったところでそれは似て非なるものだと、今までの実験が私に教えてくれたからだ。


 残ったのは「過去からの転移」である。しかしながら、ゆうちゃんが死んでしまった今となっては過去と未来を行き来できるスキル所有者が見つからない。ゆうちゃんのクローンでは過去に行く、もしくは戻ってくるだけで死んでしまう。


 それでもなにか可能性があるかもしれないと、お兄ちゃんとゆうちゃんのクローンを一体だけ作ってみた。


 そして能力鑑定の結果、お兄ちゃんの能力が「死んでも眠った場所からループする」という能力だということがわかった。つまりお兄ちゃんのスキルがあれば何度でもリスタートできるということだ。例えば過去の世界でお兄ちゃんのスキルを開放できれば、お兄ちゃんは何度でも「死なないルート」を自分で導き出すことが可能となる。


 ここで私は少しばかり思い違いをしていることに気がついた。


 私はお兄ちゃんに会いたいという一心で、ありとあらゆる物を捨て、身を削ってきたのだとばかり思っていた。けれど違うのだ。私は最初、別の思考で動いていたはずだ。


「お兄ちゃんの未来……」


 そうだ、お兄ちゃんに生きて欲しい。ちゃんとした、人間らしい、幸せな未来を歩んでほしかったのだ。おかしな事故で死んでしまったり、歪んだ世界で這いつくばって生きるなんて人生じゃない。普通の、なんの変哲もない一人の男として生きてほしいのだ。


 つまり、過去の世界でお兄ちゃんのスキルを覚醒させることさえできれば何度でもリスタートしてやり直させることが可能なのだ。そしてお兄ちゃんが死ぬ原因となったウイルスの破壊やミカド製薬に対しての粛清を促す。それらを完璧にこなせば、少なくとも世界の急変は避けられるしお兄ちゃんだって普通の人生を歩むことができる。


 問題はそこまでの過程をどうやって作るかだった。お母さんの能力がそうであるように、未来視の能力はどれも断片的で、それでいて狙った未来をみることがかなり難しいようだった。


 そうなると、とりあえず未来視の能力で断片的な未来を拾い上げることが必要になる。そのうえで過去に対してのアプローチを考えなければいけない。


 過去へと戻ってお兄ちゃんを覚醒させ、ミカド製薬をなんとかしてもらわなければいけない。ただしミカド製薬が研究の過程でモンスターを作っているのであればお兄ちゃんを強化しなければならず、それはきっと過去では困難なことだろう。するとお兄ちゃんを未来に運んでこなければならないが、それをどうやって実現するかが、おそらく最も難しい点となるはずだ。


 この部分において、私は可能になるだろう理論は立ててあった。誰しもが思いつくだろう「ループ能力と時空間移動能力の併用」である。しかし後者の能力が不安定であるため、なにかで代用することが必要不可欠だった。


 そんな頃、私の妊娠が発覚した。驚きはしなかった。生きていればこんなこともあるだろう、その程度に考えていた。


 ゲーニッツにその旨を伝えた時、彼はひどく喜んでいた。


「嬉しく、ないよな、そりゃ」


 なんてしょぼくれるものだから、


「嬉しいよ。誰かの母親になるだなんて夢にも思ってなかったし」


 と返した。


 ゲーニッツはやけに嬉しそうにしていた。そんな彼を見て悪い気もしなかったし、きっと私はゲーニッツに惹かれているんだな、なんてことも考えた。


 けれど私達は愛し合っている、というほど深い関係でもなく、それでいて何度か体を重ねた。二人目の子供もできた。でもやはりドライな関係は続いて、私もそれでいいと思っていた。お互いに子どもたちへの愛情はあったし、少しいびつだがこういう関係もありだと考えたからだ。だから私達は結婚もしなかった。


 子どもたちの成長や魔女派の拡大を目の当たりにしながら、デミウルゴスの肥大化や過去のやり直しについて頭を悩ませていた。


 子どもたちはいつの間にか大きくなって、息子も娘も年齢を誤魔化すすべを身に着けた。さすがに両親に適正があったせいか、二人共まったく年を取らなくなった。


 子どもたちには悪いと思いながらも魔女派の中核を担う立場を任せた。最初は面倒くさがっていたが、なにかと責任感が強い子達だ、しばらくすると忙しさや仕事に馴染んでいった。


 あれからいくつもの季節が過ぎて、私はある結論に行き着いた。私の願いを叶えながら、過去も未来も救うであろう、そんな結論だった。

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