五話
そして私と同じく年齢の進行を遅らせている者がいた。前山翔太だった。
その日、政府の書類を整理した後でバーに行った。そこで翔太が一人で飲んでいるところに遭遇した。
「アンタ、もしかして双葉ちゃんか?」
なんて声を掛けられたところが始まりだった。
「よく私だってわかったね」
彼の見た目は昔と変わっていた。元々鼻が高く目は二重だったが、ちょっと彫りが深くなっているように感じた。年のせいもあるのかもしれない。見た感じだと三十歳から四十歳くらいだ。体は筋肉隆々で、あの頃の面影はほとんどない。
そうやって、二人の会話は深夜まで続いた。酒を飲みながらこれまでのことを話して、結局兄の話になった。正確には兄やゆうちゃんの話だった。
「でもどうして年齢を誤魔化してるの? 私はまあ、女だしいろいろあるんだけど」
「俺の知り合いが未来視の能力を持ってるんだ。そいつが言うには、俺は一億年近く生きなきゃいけないんだと。よくわからないけど信用できるやつだ。そいつが嘘を言うとは思わない」
「一億年……大変だとは思わない?」
「そりゃ大変だろうな。でもな、あんな顔で必要だって言われちまったら「じゃあやるか」って気にもなるわけよ」
それがどんな顔かはわからない。けれどそれほどまでに信頼していた人からの言葉だったのだろう。
「だからちょっとだけ顔も変えた」
「やっぱり?」
「変えろって言われたんだもん」
そうやって拗ねる姿があの頃とあまり変わらなくて、なんだかちょっとだけ嬉しくなった。
「そういえば双葉ちゃんはなんで年を維持してんだ?」
さてどうしたものか。こういった質問が来ることは必然だ。
そうして、結局私は私の計画をすべて話すことにした。どうしてだろう、お兄ちゃんの友達だったからなのか、酒が回っていたからなのかはわからない。
「そういうことなら俺も手伝うぞ」
「でも友達が見た未来は……」
「生きてればいいって言ってたから別に大丈夫だろ。なんか魔力で年齢を引き伸ばすっていうのも、使えるやつと使えないやつがいるみたいだし。アイツ的には「それができるんだからとりあえず長く生きてみろ」って意味かもしれないし」
前山翔太は鼻で笑って酒を煽った。
見たところ戦闘は得意そうだ。魔法もそこそこ使えそうだから、引き入れることができれば間違いなく戦力になる。
しかし……。
「私はクローンを作って未来を実現するつもりなの。それが非人道的な行為だってわかってる。翔太くんはそれでも私を支援する?」
「訊く必要あるか? 大丈夫だって、全部わかった上で手伝うから」
あの頃と変わらない笑顔、に見えた。
「わかった。もう訊かない」
私は手を出した。
「よろしくね、翔太くん」
数少ない、私の正体を知る人物。
「おう、こっちこそ」
翔太くんは私の手をぎゅっと握った。
「あと言ってなかったんだけどな、前山翔太って言う名前は捨てたんだ」
「捨てた?」
「この世界じゃ、あの名前は生きづらい。見た目も変わっちまったし、新しい自分になろうかなって思ったわけよ。双葉ちゃんは名前とか変えないわけ? 戸籍もクソもなくなったんだし好き放題できるでしょ」
「特に考えたことなかったな」
「じゃあ名前変えることはおすすめだよ。気分も変わるし、やる気もちょっとだけ湧いてくる」
「じゃあ本部に戻ってから考えてみようかな」
「そうしろそうしろ」
「で、翔太くんの新しい名前は?」
「俺か、かっこいいぜ」
ニカっと、歯を見せて笑った。
「俺の名前はゲーニッツ。ゲーニッツ=アンドーラだ」
そうして彼は言ったのだ。
それから翔太くん、いやゲーニッツが魔女派に加入した。




