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四話

 もしもお兄ちゃんがなんらかの形で未来に現れる「可能性」があるとして、いったいどうやってその状況になるのかを考える。こんな世界になる前はそんな「可能性」を模索することなどなかっただろう。考えたとしても夢物語で終わるからだ。だがこの世界ではなにが起きても不思議ではない。

 

①時空間移動

②クローン体


 基本的に考えられるのはこの二つ。お母さんが能力である予知夢と普通の夢を混同している可能性も否定はできない。


 正直なところ、私が目指したいのは①だ。②では意味がない。それは兄であって兄でないからだ。


 現時点で必要なもので明確なものがいくつか存在する。お母さんのような未来予知の能力を持っている人、そして時空間移動の能力者の二つだ。


 だがここで計画をしても実行できるかどうかは別の話だ。今の私では、そもそもそれらの能力者を用意することができない。今はお母さんが予知能力者の枠を埋めてくれているけれど、時空間移動ができる能力者を用意するまでの間にお母さんが死んでしまったら意味がない。


 そうなれば一番重要なものが見えてくる。


「クローン技術、か……」


 おそらくそれは禁忌の領域。人が足を踏み入れてはいけない、一線を越える行為であることは間違いない。


 それでも私は「可能性」を模索し続けたい。誰がなんと言おうとも、私は私を救ってくれたヒーローを、初めての恋心を、理想の兄を、どうやっても取り戻したいのだ。


 例えばそれが神の頬を叩くような行為でも、龍の逆鱗を剥ぐような行為でも、全人類を敵に回すような行為でも、どうしても、どうしても叶えたいのだ。


 だから私はこの壮大な計画を立てた。立て続けた。時間が経過するにつれて必要なものが増えていく。その中で一番重要視したのが人脈だった。人脈さえあれば、誰かがなにかしらの情報や技術を運んできてくれるからだ。同時に様々な人間の髪の毛や爪、皮膚片や血液などのサンプルを取った。どんな人間でもいい。現状、能力をコントロールできない人間ならばなおさらよかった。能力を鑑定できる能力者を見つけ出せば、クローン体が完成した際にどんな能力なのかを鑑定できるからだ。


 そんな時、ゆうちゃんの訃報があった。運がいいのか悪いのか、同時期に能力を鑑定できる能力者を見つけた。そしてその能力者が言ったのだ。


「この人こそが時空転移の能力者だ」と。


 頭を抱えた。こんなにも近くに一番重要な能力者がいたというのに気づくことができなかった。


 それでも私は前に進み続けた。


 気がつけば私は三十歳を超えていた。


 その頃、デミウルゴスと名乗る反政府組織がいたるところに現れ始めた。自分たちを「救済の使者」と言う彼らは、滅びゆくこの世界が正常であるのだと定義する者たちだった。


 この世界は今の姿になって、地球の体積であったり質量であったりといろいろと前とは違うらしい。そのせいで何百年、何千年後かには滅びる運命にあるのだと言う。そしてそれこそが救済なのだ、と。


 だから私は小さなコミュニティを作り、コミュニティメンバーと共に旅をしていた。能力者探しの旅でもあり、活動拠点探しでもあった。


 私が作ったコミュニティはデミウルゴスに反するもので、この世界でもなんとか生きていこうというものだった。賛同してくれる人は結構な数で、その中で何人かの人間がついてきてくれたのだ。


 旅をしながら様々な能力者にであった。どんな文字でも書き換える能力者もそこで出会った。だが旅に同行することはできないと言われたので、こそりとDNAだけを採取させてもらった。


 私が四十歳を超えた頃に両親が死んだ。両親はシェルターに置いてきたが、知り合いが能力で教えてくれた。魔物に襲われていた子供を助けて死んだのだ。ちなみに両親も私と一緒に旅をしていたのだが、メンバーが言うにはすでに誰かもわからないくらい無惨な姿になったらしい。


 クローン技術さえ実現すればなんとかなると思った。技術そのものはこの手にある。あとは実行できるだけの科学力の確立とそれらに必要な施設だ。


 私はコミュニティメンバーを増やしながら拠点を築いた。クローン技術を使えるようにして、政府と話をして、自らのことを「魔女派」と名乗った。その頃、私は百歳をゆうに超えていた。


 自らを「魔女」と名乗るのは不思議なことではない。百歳以上生きた上で年齢は三十歳程度を維持し続けている。その噂をメンバーに広めてもらえば魔女が偶像としても広がっていく。


 魔女と呼ばれるようになったが、私の戦闘能力は基本的には低いままだった。年齢の進行を遅らせることと、地下の貯蔵庫に魔力を貯めておくだけで他のことまで手が回らないからだ。

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