三話
大事な話だというのは、改めて訊く必要がないくらいわかりきっていることだった。だから、私はパイプ椅子を引き寄せてベッドの脇に腰をおろした。
お母さんは少しの間涙を流し、私の手をすりすりと擦っていた。
呼吸が落ち着いてきて、そこでようやく話を始めた。
「こんな世界になって、特別な力が芽生えたことは知ってるわね」
「知らない人の方が少ないと思うけどね」
人はそれを魔法や異能力と名前をつけて呼んでいた。世界的にもそれが浸透していることも事実だった。
「私は未来を見ることができるの」
驚かなかった、と言えば嘘だ。しかし私はお母さんから「能力を使えない」と言われていた。その時はこんな世界になっても能力を使えない人がいるのも不思議ではなく、お母さんも類にもれないと思っていた。
けれど、お父さんとお母さんの様子がおかしいことにも気づいていた。驚きはしたが、飛び上がるほどではなかったのだ。
「その未来でなにがあったの?」
「あの子が、いいたの」
お母さんは震えてうつむいた。
「あの子?」
「一葵よ」
一葵。私の、お兄ちゃん。
「そんなことあるわけないじゃない。お兄ちゃんは何年も前に死んだんだよ」
「それでも見たのよ。あの子が化け物たちと戦っている姿を、私は夢で見たのよ」
「モンスターと?」
「そう。火を手から出してた。そこにはアナタもいたわ」
「そんなバカなこと……」
「間違いない。何年か前の、まだ子供だった頃のアナタがそばにいたのよ」
お母さんが顔を上げた。その頬に一筋の涙が流れた。
「子供ってどれくらいの?」
「たぶん中学後半から高校前半くらいだと思うわ」
「ちょうどお兄ちゃんが死んだか死なないかくらいの頃……」
この世界はめちゃくちゃだ。それは私だけではないく、他の誰もが感じていることだろう。平然と魔法を使う者もいればまったく使えない者もいる。そして異能力を使える者もいれば使えない者もいる。そう、それも含めてめちゃくちゃなのだ。お母さんのように未来を見通す力もあれば、草をそよそよと揺らすくらいしかできない力もある。
だからこそわからない。『もしかすれば時空を超える力があるかもしれない』という可能性が存在しているかすら、わからない。
「お母さん、他に見たものがあったら教えて」
私はお母さんの両腕を握りしめた。お兄ちゃんが死んだあとから徐々に小さくなっていった体。細くなったその腕。壊れないように、けれど強くつかんだ。
私は今ここに一筋の光を見出した。それはこの世界でしかできないことだ。異能力や魔法があるからこそできることがたくさんある。それらをつなぎ合わせていけば、きっとお母さんが見たであろう未来にたどり着く。
そうして、私はお母さんが今までに見た夢をメモし始めた。
お母さんの予知夢にはいくつかの注意点があった。
まずひとつ目、未来は変わるということ。変わるというよりも、いくつかある可能性の中の一つを見ることができるのだとお母さんは言った。つまり、お母さんが見たお兄ちゃんはとんでもなく少ない可能性の中で未来に立たされているかもしれないということ。といよりも一度死んだ人間だ、そうやって考えるのが普通だろう。
お母さんがどうしてそのことに気がついたかというと、予知夢に出てきたカレンダーや時刻から、ほぼ同じ時間帯、ほぼ同じ人物でありながらも状況が違う光景を何度か見たからだという。ただしどうして同じような視線で物を見ているのかまではわからないという。誰の視点で見ている未来なのかがわからない時もあると言っていた。
ふたつ目に能力のコントロールができないということ。毎日見ることもあれば一週間や二週間まったく予知夢を見ないこともあるらしい。つまるところ長期戦を覚悟しなければいけないということだ。
それを理解した上で計画しなければいけない。私ができること、私にしかできないこと、私以外にしかできないこと。それらを精査して行動に移さなければならない。
そうやって、私は新しい未来へと道を踏み出していった。




