二話
シェルターに新しい人が入ってきた。兄と妹の兄妹だった。まるでお兄ちゃんと私のようだな、なんて考えてしまった。きっとお兄ちゃんが生きていたら、私もお兄ちゃんと一緒に行動していたはずだから。
「あれ? 双葉?」
前よりも大人びてはいるが、見間違えることはない。隣の家に住んでいたゆうちゃんだ。
「ゆうちゃん? 生きてたの?」
「まあ、なんとか」
ボロ布を着ているし疲れた顔をしているがあの頃と変わらず美人だった。ゆうちゃんを見ていると、どうしてもお兄ちゃんを思い出してしまう。
私は心のどこかで二人は付き合うのだろうと思っていた。喧嘩をして、別れて、付き合って、そんなことを繰り返しながらそのうちに結婚なんかして、子供も作って、二人で年を取っていくんだろうって。
そう、思っていた。高校生の恋人が結婚するなんてごく一部の人間だけだ。そしてお兄ちゃんとゆうちゃんはそうなるのかも、なんて思っていたのだ。
「ちょっと話でもしない?」
ゆうちゃんは笑いながらそう言った。
「うん、積もる話もあるしね」
私たちは飲み物を買って、人が少ない公園のベンチに座った。シェルター内でも特に人気がない公園だ。遊具もないので子供も寄り付かない。シェルターの端付近にあるので鬱蒼としているというのも一因だろう。
ベンチに座って、私たちはここに至るまでの話をした。
ゆうちゃんも私と同じで大学に通っていた。お兄ちゃんのことがあってから沈み込んでいたが、私と同様に少しずつ生活に戻っていた。それなのにこんなことが起きて、世界が混乱の渦へと落ちて行った。
ゆうちゃんもモンスターからの攻撃を受けながら、なんとかここまでたどり着いたのだと言う。戦える人たちが地上で戦闘を続け、民間人を守り続けている。そのおかげで自分は助かったのだ、と。
「大変だったね、お互い」
「そうね、まさかこんなことになるなんて思わなかったわ」
ゆうちゃんはペットボトルを手の中でベコッと凹ませていた。
「もしも」
そして、続けた。
「もしもアイツが生きてたら「ファンタジーだ!」とか言って喜んでたのかな? さすがにないか、不謹慎だし」
そう言うゆうちゃんは微笑みを浮かべていた。昔を懐かしんでいるのだと、たぶん私じゃなくてもわかるような顔だった。
「そういうのはちゃんとしてる人だから、楽しむ気持ちよりも正義感とか責任感の方が勝つんじゃないかな」
「そういうとこあったからね、アイツ」
お兄ちゃんはいわゆるオタクというやつだった。それは間違いない。正確にはちょっと違っていて、アニメとか漫画とかゲームが趣味だった。だから、こんな世界を見たらちょっとだけテンションが上って、それでも目の前の現実をすぐに受け入れて前に進むんじゃないだろうか。
私たちは近況を報告しあったり、お兄ちゃんの話をしたり、家族の話なんかをした。
そしてシェルター内にある自宅に戻った。戻る時に配給をもらってきたので、それをテーブルに置いた。僅かな野菜と乾パン、飲料水なんかだ。
シェルターに来た人には、ひと家族につき一軒の簡易的な家が支給される。大きなプレハブみたいなもので、家庭によってまちまちだが、仕切りによって四部屋、五部屋に区切られる。基本的にリビング・ダイニング・キッチンと寝室、トイレとシャワールームだ。余計なものがついていないのはどの家庭も同じようだった。
寝室で横になっているお母さんのもとに向かった。最近は体調が悪くなる一方で、正直どうすえればいいのかわからなかった。とりあえず清潔にして、食事をちゃんととってもらうくらいしかできない。
「今日はどう?」
「悪くないわ。本も読めるし、トイレにもいかれる」
「シャワーは?」
「先にもらったわ」
「お父さんは?」
「今日は残業みたい。今まで肉体労働なんて無縁だったから大変なんだと思うわ」
ここで住んでいる人の半分以上はシェルター拡大や農業なんかを強いられている。普通の商社勤めだったお父さんにはなかなかキツイみたいだ。
それでも仕事をすれば対価として食事や日用品がもらえる。やってもらわないと困るのは事実だった。
「わかった。ご飯、用意するね」
そう言って立ち上がろうとした時、服の裾を掴まれた。
「待って」
お母さんは真剣な顔で私を制止した。何かに怯えているような瞳をしているのが気になった。
「どうしたの?」
「私がこうなったのは、理由があるの」
急に、そんなことを言い出した。
「いきなり、どうしたの?」
「お父さんには言うなって言われたんだけどね、私はもう我慢できないの」
おかあさんは涙を流し始めた。それくらい、ずっと溜まっていたものがあったということだ。私が知らない、お父さんとお母さんだけの秘密が。




