十四話
これはコイツの化けの皮を剥がす、最高の一撃になりうる。
仰向けで睨みつけてくるルイを見下ろしながら、俺は薄く笑って見せた。
「お前、父親みたいになりたかったんだろ」
ルイの顔色がみるみるうちに変わっていく。
腹を殴られ、その間にルイが俺の下から抜け出した。
「そこで父さんが出てくる理由がわからないね」
明らかに頭にきている顔だが、おそらくルイはそれに気がついていないんだろう。
「そうやってムキになってるところが理由でいいんじゃないか?」
「ムキなんかなってないよ」
「そう思ってるのはお前だけだ。お前の親父はすごい人だったんだろ? 細菌だのウイルスだの細胞だのっていろいろ研究してたみたいじゃないか」
「だからなんだっていうの?」
「お前もそっちの世界に進んだんじゃないか?」
「ボクがなにをしようと勝手だと思うけど」
「お前がどんな職業につこうか誰を目標にしようが俺には関係ない。だがそれで誰かに迷惑をかけるのは違うだろ」
「ボクが父さんを目標にしてたっていいたいんだよね」
「そうだろ」
「だったら、なに?」
「これは俺の想像だが、お前は父親みたいになろうとした。勉強もたくさんしたんだと思う。でも父親には到達できなかった。父親ができることが自分にはできない。例えば、世界を滅ぼしかねないウイルスを作るとかな」
「そんなバカな話をするのはキミくらいなもんだよ」
「でも実際お前の父親は世界を滅ぼしかけて、お前が牽引する形でデミウルゴスが息づいていた。でも実際お前はなにもしてないよな? 父親が全部やってくれたんだもんな。父親が残したものにかじりついてるだけじゃないか」
「キミに――」
ルイの顔面が赤くなった。
「キミになにがわかるっていうんだよ!」
ルイが全力で走り込んできた。
しかしすでにお互い疲れ果てている。息も上がって、今までのような殴り合いは続けられそうにない。
ブンブンと、拳が風を切っていた。つまりそれは、俺がルイの攻撃を避け続けたということになる。はっきり言って、今のルイの攻撃は怖くない。
これならとカウンターを合わせようかというとき、一発の拳が俺の顎を叩いた。
脳みそがぐらぐらと揺らされて後退る。先程の無鉄砲な攻撃とは違う、明らかに狙いすました一撃だった。
「ボクを甘くみてるからだ」
「この一発を狙ってたってのか。お前らしいな」
狡猾で、いやらしい。
「正直、お前がなにを考えてたのかなんてどうでもいい。お前が父親に憧れていても別にいい。それを知られてキレるのもいい。でも周りを巻き込むのは違うからな。俺はやっぱり、お前とお前の父親を許せない」
細く長く息を吐き出す。
「ここでデミウルゴスを終わらせるつもりだ」
拳を胸の前で構えた。
数メートル先のルイが笑っていた。
「やれるものならやってみたらいい」
そうして、二人同時に動き出した。
ジャブで牽制してストレート。避けられたらローキックで脚を潰す。
俺が蹴りを打てばルイの拳が俺の胸に打ち込まれる。もう一度距離が離れ、けれど停滞するようなことはなかった。
俺たちは、まるで命を振り絞るかのように殴り合いを続けた。倒れそうになっても、一瞬意識を飛ばされても、腕か脚のどちらかは必ず動かしていた。本当は魔法なんてなかったんじゃないか。それくらいには泥臭い、ただの殴り合いだった。
そのうちに疲労が溜まってきた。どんどんと動きが重くなってきて、おそらく一度でも止まれば二度と動きだせないんじゃないか。それくらいに疲弊していた。
が、動き続けるなんてことは不可能だった。突然、拳を振りかぶったところで動けなくなった。そうして、腕を下に下ろすしかなくなった。
「ぐっ……!」
拳を振り下ろすだけの力さえもなくなっていた。
それはルイも同じだったようで、いつの間にか地面に片膝をついていた。
限界は見えている。底が尽きかけてる。たぶん、次の一発で決着がつく。
俺も前に動き出せない。
息遣いだけが、その空間に漂っているような状態だった。
視線が交わる。大きく息を吸い込んで、体を屈める。膝のバネを利用して一気に前に出た。
ルイもそれを待っていたんだろう。だから体を休めていたんだろう。だからこそ行くしかなかった。これ以上休ませるわけにはいかないし、どっちにしろ俺はコイツを追いかけなきゃいけない立場だからだ。
そうして肉薄した。拳を後ろに引きはじめると、俺よりも早い段階でルイが拳を突き出してきた。
「ボクの勝ちだ」
このままいけばコイツの拳が俺に当たる。
「いいや」
拳を引いたまま俺は右足を上げた。
「俺の勝ちだ」
強く蹴り出したわけじゃない。おそらくルイが出てくることを予想していたから、前に膝を出しただけだ。右腕を引くのと同時くらいに膝を出せばカウンター気味に入ると思ったからだ。




