十三話
だから、この時だけはコイツを信じた。
俺を翻弄するように立ち回り、何度も何度も俺を殴った。吹っ飛ぶような強い力ではなく、軽くよろけるような攻撃もあった。
そうして俺の顔がやや下がった頃、ルイが素早く前に飛び出してきた。
「こうかな!」
アッパーが飛んできて無理矢理視界を上に向けられた。腹に胸にと攻撃が続く。
ルイが肘を後方に引いた。そして打ち出された拳は、レベルが低い俺の目にはほとんど見えなかった。
「でもな」
見えなくてもいい。攻撃がどこにどういうふうに飛んでくるのかわかれば避けることはなんとかできる。
半身反らして拳を回避。とは言っても風圧だけで目をつむりそうになる。それでもただ一点だけを見つめ、左手を伸ばして腹に触れた。
「なにを――」
「ホロー、ワールド」
腹部の一点だけにスキルを使用する。そこだけは魔法もスキルもレベルも関係ない、完全なる無防備になる。そこに向かって注射器の針を差し込む。
「そんなことでどうにかなるわけないだろう!」
「なんとかするのよ」
気がつけば、フレイアが近くまで寄ってきていた。
右腕を地面に叩きつけて飛び上がる。ルイの頭を掴んだかと思えば電流を流し始めた。ホローワールドのおかげで俺が電流を浴びることはなかった。
「こんな、ことで……!」
電流によってルイが動きを止めている間に俺は注射器の中身をすべて注入した。その頃にはフレイアの電流も弱くなっていた。少しずつ、少しずつ弱くなっていく電流がフレイアの命の灯火のようだった。
「こいつ!」
ルイがフレイアを引き剥がした。そして地面に落ちたフレイアを思い切り踏みつけていた。
「こいつ! こいつ!」
何度も、何度も踏みつけていた。
フレイアの瞳にはもう光はなかった。目蓋は開かれており口は半開き、けれどもうここに魂がないのは俺もよく理解している。
「やめろよ」
だからこそ我慢ならなかった。
「やめろって、ボクに言ってるのかい?」
「お前以外いないだろ」
「じゃあやめてあげるよ。これで最後だ!」
ルイはフレイアを思い切り蹴飛ばした。吹っ飛んだフレイアは、数メートル先で何度かバウンドしてその場に留まった。
胸に熱いものがこみ上げてくる。それをここで爆発させなくてどうする。
「俺はお前を許さない」
「そうかい? じゃあやってごらんよ」
「言われなくてもそうするさ」
左でジャブ、ルイは簡単そうにそれを避ける。もう一度ジャブでこれも避ける。だが倍くらいの速度で放った右ストレートは顔面にクリーンヒットした。
ルイは眉根を寄せて、頭の上に疑問符でも浮かべそうな顔をしていた。
「あの、注射は……」
「そうだよ、お前がやったことをやり返しただけだ」
一瞬で顔色が変わる。このままではいけないと思ったのか、すぐにバックステップで逃げようとした。
「誰がやらせんだよ!」
逃がすつもりは微塵もない。手加減をするようなこともない。このあとどうなろうと関係ない。俺は、コイツを、殺す。
顔面を何発か殴るとルイがガードを上げる。ヤツの視界が狭まったところで、力いっぱい斜め上から左の膝を踏みつけた。バキンと、なにかが砕ける音がした。
「ああああああああああああ!」
ルイの体が傾き沈む。ちょうどいい位置に顔がやってきて、思わず勢いで顔面を蹴り上げた。
「――!」
声にもならない声を上げ、涙が宙を舞っていた。
「痛いかそうか」
左手でルイの右肩を掴む。
「でもそれがどうした」
振りかぶってから顔面に右ストレート、そのまま裏拳をかまして振り抜き、アッパーで少しだけ浮かせる。それと同時に肩から手を離した。持てるすべての魔力を振り絞って右拳に集中させた。ルイの胸に向かって拳を伸ばし、当たった瞬間に力の方向を下へと向けた。
ルイは横に飛んでいくことはせず地面に叩きつけられた。地面が割れて、ルイの体がバウンドする。そして、完全に地面に落ちた。
呼吸が苦しい。体は痛むし、疲労のせいか眠気もやってきた。それでもまだ決着はついていない。
「どうしてこんなことしたんだ」
ルイの顔面は腫れぼったくなって、おまけに血まみれだった。さっきまでの綺麗な顔はどこにもない。そんなルイに問いかけると、ヤツは深いため息を吐いていた。
「キミにはわからないよ」
完全に理解することはできないかもしれないが、なんとなくだが俺なりに予想はついている。




