表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈expiry point 7〉Count down
230/252

五話

 最初からコイツはなにも見えていなかったのだ。齊間景が真実を知ることは難しい。そもそも未来と現実を行き来しているだとか、死んでも生き返るだとか、そんなこと信じられるわけがないのだ。思いつくはずもないだろう。


「キミはたしかに強いよ。人間離れしている。だがこれでイーブンなんだ。むしろ化け物のサンプルが多いこちらの方が有利と言える」


 景が全身に力を入れた。ピキピキとスーツが破け、気がつけば今までの三倍ほどの大きさになっていた。衣服をまとわぬ筋肉だるま。身長までは変わらないが、これでは適合したと言えるかどうか判断が難しいぞ。


「さあ、形勢逆転だ」


 身をかがめ、一気に突進してきた。


 齊間景は今、これまでとは比較にならないほどの速度を体感しているに違いない。本来人間が到達できない、肉体のみの速度を簡単に超えているのは間違いないからだ。一般人にとっては驚愕だし、齊間景本人は非常に気持ちがいいことだろう。


 しかし、それでも「変化した直後」であることもまた事実なんだ。


 両腕を広げて掴みかかるようにして突っ込んでくる。


「それが限界だよな」


 およそ一メートルの距離まで接近した。景は腕を縮めて俺を捕まえようとする。一般人相手ならそのまま抱きしめて押しつぶすこともできると思う。一般人が相手なら、の話だが。


「わかってないな」


 景の懐に滑り込む。


「龍顎砕」


 そのまま上に向かって拳を打ち出す。一瞬だけメキメキと音がして景の体は高く舞い上がった。そして天井に激突してから落ちてきた。


 コイツはなにが起きたのかわからないまま、気づいたら寝そべってるみたいな状況なんだろうな。


「な、なんで……」


 景は顔を傾けて恨めしそうに見上げてくる。体はしぼんでしまっているところからすると、意図的に筋肉を膨張させられるらしい。


「わからないか?」


 わかるわけがない、か。

「私はお前らと同じになった。こんな一方的にやられるはずがないというのに……!」


 悔しそうに歯を食いしばっているが、このウイルスについて未来にいかないとわからないことがあるのは間違いない。齊間景、もとい過去の人間が知り得るはずがない事実が俺と景を隔てているのだ。


 俺はしゃがみ込んだ。


「お前が俺を認識したその時から、俺はこの力を使って化け物を倒してきたんだよ」

「だからなんだと言うんだ」

「経験値が違うってことだよ」


 文字通りの「経験値」だ。非常にゲーム的であり、現実とは少し違う感性がないと捉えようがない「経験値」という言葉。このウイルスは経験値によって段階的に変化する特性がある。そのためウイルスに適合した直後である齊間景はレベル1、逆に俺はすでにレベル120を超えた完全なる人外の存在。どうやったって齊間景が俺に勝てるはずがないんだ。


「なんの話だ」

「お前はまだ赤ん坊ってことだよ」


 首を掴んでヤツの体を浮かせた。


「お前の方がより適合できたってことか……?」

「そうじゃない。だが、真実を教えてやるつもりもない。お前はこのまま眠って、起きたらその力は失ってるはずだ」

「ふざけるな……! お前になんの権限があるっていうんだ!」

「権限はない。でもその力は危険だし、お前が持つべきものじゃない。今仲間がワクチンを取りに行ってるからな、大して時間はかからない」

「この、クソ野郎……!」


 腹部に一発ぶち込むと齊間景はよだれを垂らしながら白目を剥いた。横に寝かせてから一応脈をとるとちゃんと生きてるようなので大丈夫だ。


 大きい試験管に繋がっているコードを何本か抜いて景の手足を縛った。


「さて、あとはウイルスの破壊か」


 この部屋には出入り口の他に二つのドアがあった。右側はパソコンばっかりのモニタールムームで、ここの機械系統は物理的に破壊しておいた。


 残ったもう一つの部屋に入る。もちろん物理的に破壊して。


「これか」


 手のひらに収まるくらいの薬瓶が大きめの部屋にみっちり詰まっている。学校の体育館くらいありそうな広さだ。これが全部ウイルスだとすればゾッとする。


 破壊する前に部屋の中を徘徊していくつか気づいたことがあった。出入り口の対面の壁にシャッターが設置されていることだ。薬瓶の棚も下から持ち上げられるようなっているし、このシャッターから外に出すつもりなのかもしれない。


 シャッターの周辺を確認すると若干ホコリが溜まっているから、おそらく長い間使われていなかったんだと予想できる。まだウイルスが完成していないとすれば運搬されていなくても納得できる。


 とにかくここにあるウイルスを全部破壊すれば俺の任務は完了だ。


「こんなものがあるから……!」


 俺も俺の友人も危ない目にあうことなんてなかった。俺がこんな状況に置かれているのだって、そもそもミカド製薬がおかしなウイルスを作ったからこうなってるんだ。ミカド製薬が普通の製薬会社だったら俺たちは平凡な日常を送っていたに違いない。俺たちだけじゃない。今まで俺やフレイアが殺してきたモンスターたちは元々人間だ。ミカド製薬はその人たちの人生も奪ってきた。正確にはミカド製薬という会社が奪ったわけではないが、ここまで大きな規模になってしまうと、会社が人々を殺したと言っても間違ってはいないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ