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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈actuality point 2〉 One loss
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四話

 すぐさま体勢を立て直して立ち上がる。時間はわからないがそろそろこの町全体が黒くなる時間か。


「ほらどうした。来いよ」


 言葉を吐くだけで精一杯だ。今なら非力な小学生なんかのパンチでもダウンしそう。


 それでも笑って立ってられるのは、こんな状況でも「少しだけ」未来を変えられたような気がしたからだ。


 もしもフーゴが魔法陣の展開を指揮していたのだとしたら、こうやって時間を稼ぐことで時間はズレていく。


 するとなぜか、ヤツは声を上げて笑い始めた。


「お前がなにを考えてるかは知らないが、今回に限って俺はディートリヒの補助役だ。アイツが失敗しそうになったりした時に手を貸してやるようにとここにいるだけだ。魔法陣の指揮は俺じゃない。外にいるヤツが仕切ってるよ」


 視界が暗くなっていく。大きな影が地面に落ちた。空を見上げると、黒いカーテンが下からせり上がってくるところだった。


「んな……バカな……」

「残念だったな。お前は救世主になれない」


 フーゴが卑しい笑顔を作った。歯を見せて高笑いをした。それは全部俺に向けられたものだ。


 なんでコイツは俺に執着するんだよ。なんで俺の前に立ちふさがるんだよ。異世界にきていろんなことができると思ったのに、現実世界よりもずっと辛くて苦しいじゃないか。


 そうだ、コイツは俺を連れ去ろうとしてるんじゃないか。前回もそうだった。


 前回、前回。そうだ、そうか。


 ハッとしてフレイアを見れば、さっきと変わらずに腕を極められて地面に伏せている。


「どうした、なにか言い返してみたらどうだ?」

「俺が暴れたのに、お前らはフレイアを人質として扱わなかったな。なんでだ?」

「人質じゃないからだ。人質にするまでもないからだ。レベル40ちょっとのヤツのどこが怖いって? 俺たちはみんなレベル百を超えてるんだ、そこの嬢ちゃんならまだしもお前を怖がることなんてありはしない」

「そうだよな、そりゃそうだ。俺なんか怖くねーよな。フレイアだってあんな感じだし、ここには高レベルの冒険者もいないんだよな」

「ああ、だから好き勝手できる」


 やっぱりか。そうだよ、コイツは知らないんだ。俺とフレイアが知っててコイツが知らないこと。確証はないけど、俺が戦う必要なんてどこにもなかったんだ。


 そう、最初からなかった。


 あの人が味方かどうかなんてわからないけど、この状況をなんとかするだけの要素を持っている。と信じたい。


「だよなぁ、時間もなにも関係なく好きにできる。でも捕まえなくていいのかよ。どうやったってお前らの時間は有限なんだぜ?」

「今から捕まえるさ。そうだな、言われた通りにあの女を人質に使ってやる。そこから動くなよ? 抵抗すればあの女を殺す」

「大丈夫だ、もう抵抗する気は一切ない」


 そう言いながら右腕を上げた。左腕はさすがに上げられないが「降参です」と言わんばかりに手のひらひらとさせた。なにもしてなくても腕がいたいのに、右手なんて上げたもんだから更に左肩が痛い。


「最初から大人しくしてりゃいいんだよ。おい、お前ら」


 三人のマントの兵士たちが俺の前に現れた。丁寧に左肩をはめてくれるもんだから、一瞬だけ意識が飛んでしまった。気がついたら地面に膝立ちしていた。


 呼吸が荒いし左肩は痛む。


 背中に回された右腕を締め上げられた。


「俺は、なんだけどね」

「は? お前なに言ってんだ?」


 刹那、一陣の風が周囲を包み込んだ。フーゴと俺の間に降り立った風。その正体は、大きな剣を持った中年男性だった。


 ソイツは一瞬で俺の目の前まで移動して、マントの兵士を薙ぎ払った。フレイアの方も別の誰かによって救出されている。


「なんだコイツ……!」


 周囲の兵士を蹴散らし、すぐさまフーゴへと駆けていく。フーゴは腰に携えた剣を抜いて応戦しているが、男の攻撃をさばくので手一杯という様子だ。


 あんな大きな剣を高速で振り回すなんて人間業じゃない。でもここは現実世界じゃなく異世界だ。レベルが上がったやつならそれくらいできるようになるのかもしれないな。


「お前……極光か!」

「だからなんだよデブ。さっさと連れて帰ればよかったのにな」


 極光と言われた男はとても口が悪いらしい。でも実力は本物だ。って、俺みたいな低レベルが言うのもなんだけど。


「おいフレイア! いつまでグズグズやってんだ! 周りのヤツらは避難させたぞ!」

「わかってるわよ!」


 フレイアと知り合いだったのか。


 彼女が槍を構えた。パリパリと、静電気のようなものが彼女の全身を覆う。そしてその静電気は次第に強くなっていく。パリパリ、ピキピキ、バリバリとその大きさを変えていく。


「極光の知り合いで強力な電撃……! あの女、雷霆か! 聞いていないぞ!」

「気づくのがおせーんだよデブ。さあ、尻尾巻いて逃げるか、俺たちに殺されるか選べよ」


 フーゴが顔をしかめた。そして、大声で指揮をとり始める。


「退け! 分が悪い!」


 懐からライセンスらしきものを取り出した。おそらく外と連絡を取り合っているんだろう。なるほど、この魔方陣はライセンスの電波は通すのか。


「おいボウズ! そこにいると巻き込まれるぞ!」

「ボウスって俺のことか? 巻き込まれるって、なにに?」

「うるせーな、とっとと離れるぞ」


 ここからは聞こえないが、どうやら舌打ちをしたようだ。そんな顔をしてる。


 極光と呼ばれた男は走ってきて俺の服を無理矢理掴む。そのままかなりの速度でその場を離脱した。


 オッサンはとにかくデカイという印象だった。体もデカイし筋肉隆々。顔もデカくて無精髭を生やしている。髪の毛は短いが、髪型がぐしゃぐしゃなので若干不潔そうなイメージだ。服装は軽装で、大きな剣とは少しギャップがある。こういう重戦士みたいな人は重い鎧を着込むものだと思ったが。


「おいオッサン! 一体なんだってんだよ!」

「オッサンじゃねーよ、ゲーニッツ=アンドーラだ。お前は?」

「俺は深山一葵……えっと、イツキ=ミヤマだ。でもなんで急いでにげなきゃいけないんだ? アンタならフーゴを倒せただろ?」

「いいや、無理だね。この町にはフーゴ以外にもデミウルゴスの幹部がいる。ソイツが来たら今度はこっちの分が悪くなる。そのためにフレイアを使う」

「使うって、どういうことだよ。つかデミウルゴスってなに?」

「デミウルゴスってのは反政府組織、いわばレジスタンスってやつが。デミウルゴスに関しての説明はあとでしてやる。でだ、さっきのデブが言ってたろ、フレイアは雷霆って呼ばれてんだ。レベルはまだ低いが、それでも二つ名で呼ばれるほどの力がある。だがフレイアが全力で戦うには条件が必要だ」

「今逃げてることと関係ある?」

「察しがいいな。フレイアは周囲に建物があったり人がいたりすると本当の力を発揮できない。周囲にある物全てを電気で焦がしちまう。焦がす、なんてレベルじゃねーけどな。アイツの魔法力は全て雷属性に振られている。他の魔法はほとんど使えないが、雷属性にかけては魔術師なんてレベルじゃない。ありゃ、災害みたいなもんだ」


 地面に無理矢理下ろされた。落とされた、っていう方が正しいかもしれない。左腕に響くからやめて欲しい。

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