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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈expiry point 7〉Count down
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四話

 煙のせいで部屋の中は見えないが、誰かがいたとしても問題ないだろう。そうやって部屋の中に入っていった。


 部屋はかなり広いようだった。人が入れる程度の大きな試験管のようなものが縦に置かれており、それが十本以上並べられている。煙のせいで上部しか見えないため、この大きな試験管になにが入っているのかはわからない。


 ゆっくりと部屋の中を進む。すると、数メートル先に人影が見えた。


「誰だ」


 俺がそう言うと人影が少しずつ近づいてくる。そうして煙の中から男が姿を現した。スーツ姿で薄ら笑いを浮かべたクソ野郎。


「まさか最下部にお前がいるとは思わなかった」


 そう、俺と双葉を実験材料にした正真正銘のクソ野郎だ。ミカド製薬取締役、齊間景という悪魔。


「キミならここに来るかもしれないと思ってね」

「上で部下たちがやられてるってのにお前はなにもしなかったわけだ」

「なにもできないだろう? キミのような化け物の前に立ったところで殺される。それは研究員だろうが警備員だろうが変わらない」

「人のこと化け物呼ばわりしてんじゃねーよ。お前だって十分化け物だろうがよ。人の命踏みにじってなんとも思わないんだからな」


 俺や双葉だけじゃない。ウイルスを摂取してモンスター化した研究者たちや、その研究者たちによって殺されたであろう一般人もそうだ。コイツは自分の野心を満たすためならばなにをやってもいいと思ってる。


「かもしれないね。ある意味では私も化け物なのかもしれない。だが安心してくれ。私もそのうちキミと同じようにこの体も化け物になるのだから」


 煙が晴れる。試験管の中が見えるようになって息を呑んだ。


 大きな試験管の中には人がいた。液体で満たされているのか、その液体の中に浮いているような感じだった。


 齊間景はポケットからなにかのボタンを取り出した。


「さあ、いきなさい」


 そう言ってからボタンを押す。すると試験管の中の水が抜けていく。水がすべて抜けると試験管が持ち上がり、中にいた人たちがべチャリと地面に落ちた。全身鱗まみれの人もいれば毛むくじゃらの人もいた。牛の頭、魚の頭、馬の頭、鳥の頭の人たち。もうどうやっても人間には戻れないだろう。


 おそらくウイルスを投与された研究員だろう。研究員たちがすぐさま立ち上がる。一人が大きな口を開けて奇声を放つと、他の研究員も呼応するように叫びだした。


「アレがお前らの敵だ。殺したら褒美をくれてやる」


 景が俺を指差すと、化け物たちの視線が俺に集まった。間髪入れずに十数体の化け物が俺に襲いかかってきた。高い魔力を有したモンスター。だがこの程度であれば、今の俺にとって強敵でもなんでもない。ゲームで言えば経験値稼ぎ程度の強さしか持たないモンスターだ。


 が、問題はそこではない。


「お前っ……!」


 齊間景が注射器を取り出して自分の首に打ち込んだのだ。


「ぐうっ……」


 まさか自分から化け物になるなんて選択肢、あいつが選ぶとは思わなかった。自分の手は汚さず、汚れ仕事は部下にだけやらせるようなやつだと思っていた。


 しかし苦しみだした景を見続けるわけにもいかない。モンスターが襲いかかってくるからだ。


「このっ、面倒くせえな!」


 レベルでも腕力でも魔力でもこいつらに負けることはありえない。


 炎を撒き散らしながら拳を振るう。ヤツらの攻撃を避けるまでもなく、ただ真正面からぶっ潰すだけだ。


「遅い!」


 腕をふっとばす。足をふっとばす。頭をふっとばす。そうやって一体一体殺していくうちに、俺の体は真っ赤に染まっていた。全部のモンスターを殺したあとで、真っ赤に染まった手のひらに視線を落とした。


 もう、戻れないんだと悟った。


 最後に齊間景が残った。四つん這いになり苦しんでいるが、呼吸が少しずつ浅くなっているように見える。身体的な変化は見られないところをみると、コイツもまたウイルスに適合したということだろう。


 齊間景が顔を上げた。どこか狂気を孕んだ笑みを浮かべている。


「どうだ、これでキミたちと一緒だ」


 確かに、一般人よりも高い魔力を持っているようだ。人間から数段階上にいる、進化種とも化け物ともとれる生物になったのは間違いない。


 だが、それだけだ。


 立ち上がってジャケットを脱いだ。ネクタイを強引に外して地面に落とす。


「お前はなにもわかってないんだな」

「わかってないって、なにがだ」


 ウイルスに適合すれば強くなれるとか、人間を超越できるだとか、きっとそんなことを考えていたに違いない。最初は俺だって「人とは違う自分」を誇りに思っていたし、なんだか他人よりもずっと上にいる気分だった。コイツもおそらく違う自分になったことで自尊心を大きくしたに違いない。


「そんなことをしてもお前がお前であることは変わらない」


 そう、今のままではなにも変わらない。


「化け物にならずに化け物の力を得たんだぞ。変わらないわけがない。キミだってそうやって強くなったんだろう? どこかでウイルスに接触して化け物になり、そして適合した」

 そうか。そういえばコイツは「俺が同じ日を繰り返している」ことも「未来と現在を行き来している」ことも知らないのだ。ただただウイルスに触れ、適合し今に至ると勘違いしている。

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