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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈actuality point 7〉True meaning
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最終話

 そんなことがありながらも俺たちはエルドートに到着した。


 メイドに案内されるままに城の中を歩き、俺たちはクラウダの元に案内された。クラウダの部屋は知っているが、一応俺もまだお客様扱いなんだろう。


 ベッドに横たわるクラウダは最後に会った時よりもやつれていた。子供かと思うほどに小さく見えて、一つの命が消えていくのを感じていた。


 メイドに上半身を起こしてもらったクラウダは、細く短く息を吐いたあとでゆっくりと喋り始めた。


「私は、そろそろ限界だ。長く時を生き、魔力を消費し、ここまで来られたのは奇跡と言って、いい」


 辛そうに何度か咳き込んだ。


「だが、未練はない」


 どうしてか、表情が柔らかくなった。


「やり遂げたからな。元々私がやりたかったことを、ちゃんとやり遂げた。その証拠に、世界を塗り替えるピースが、揃った」

「俺たちのことか」

「そういう、ことだ」

「お前が死んだら魔女派はどうなる」

「解体、されるさ。というよりも、必要なくなる」


 言っている意味はわかっているつもりだ。魔女派とデミウルゴスの諍いは、どちらかが勝ったから終わりというわけではない。というよりも勝敗の条件は「この未来が存続するか、過去が変わるか」の二択なのだ。デミウルゴスを滅ぼすために魔女派が戦闘力を温存しておく必要はない。


「俺が過去に戻って精算すれば終わりだからか」

「わかっているなら、それでいい。しかし、いくつか問題がある」

「俺がいない間になにかあったのか」

「というよりも、お前がいなくなったのと同時に、起きた。ここの地下が襲撃されてな、フレイアのクローン数名が盗まれた。いずれも時空移動を可能とするクローン体だ」

「ってことはルイが過去に行った可能性があんのかよ……」

「未来が書き換わっっていないところからすると、まだ時空移動には成功してはいない。クローンを飼いならすのに時間がかかっている、と考えていい。だが、時間はもうないんだ。意味がわかるな?」


 この老婆、老いていても眼光だけは妙に鋭いままだ。こんな身なりだってのに、いつ怒鳴られるかとヒヤヒヤするような目を向けてくる。


「過去に戻れって言いたいんだろ」

「だがただ戻るだけではダメだ。ケリを付けてこい。おそらく、次に未来に来ても、やることはないだろうしな。未来で、デミウルゴスとやりあっても、先はない。滅びしか、ないんだ」

「わかってるよ。自分の役目くらい」


 この世界は未来ではあるが、俺にとっては通過点でしかない。未来の問題を解消するのが目的ではなく、未来の問題を解消するために過去を変えなきゃいけないんだから。


 小さく深呼吸した。


「んじゃ、行ってくるか」


 クラウダが微笑んだ、ような気がした。


「達者でな」


 こうして、クラウダはメイドの手を借りてまた横になった。しばらくすると寝息が聞こえてくる。まだ生きているということがわかってホッとしてしまった。


「んじゃ、いっちょ死んできますか。って、もう死ななくてもいいんじゃないか?」

「ここで死ぬ必要はないけど、過去に戻った時には必ず死なないとダメ。私のスキルで過去に戻れるのはかなりブレ幅があるから、イツキのスキルでセーブポイントに引っ張ってもらわないといけない」

「本当にセーブ&ロードみたいな感覚なんだな、まあいいけど」


 でも自殺だけはごめんだ。他人に殺されるよりもずっと覚悟が必要で、他殺よりずっと恐ろしい。


「どうする? 自分でやる?」

「過去に戻ってからじゃダメ?」

「過去に戻ったあとで私の体が保たなくなるから、できればここで死ぬ直前までいってくれないと上手くいかないと思う」


 俺がこの世界で死ぬ間際に過去に飛ぶ、というのもそれなりの理由があったってことだ。それ以外では上手くいかない、だからそうした。


「んじゃ、俺の部屋に行くか。まだ残ってるよな?」

「あるよ。行こうか」


 フレイアが手を差し出してきた。俺は笑顔でその手を取る。フレイアもそうだが、他の連中もなぜか清々しいといった顔をしていた。破滅へのカウントダウンが始まっているとは感じさせない。そんな空気が流れていた。


 フレイアと共に自分音部屋に向かった。廊下も階段も二人だけだった。なんだか祝福されているような気がした。叶わぬ願いのための、ささやかな祝福に思えて、胸が強く締め付けられるようだった。部屋の前には双葉がいた。


「なんだかそろそろかなと思って」

「いい勘してるな」


 なんて言いながら三人で部屋に入った。


 イスに座って目を閉じた。フレイアの手によって死ぬのも何度目になるかわからない。


「じゃあ、向こうで」


 どんな殺され方をするかはわからないが、シャキンという刃物がなにかに擦れる音が聞こえた。


 そして、空気が切り裂かれた。首に鋭い痛み。頭が傾き地面に落ちる。次に熱さがやってきた。頭に魔法を打ち込まれたのだ、とわかった瞬間に意識が飛んだ。必ずやり遂げてみせる。俺のために、フレイアのために、世界のために。






【to the next [expiry point]】

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