四十話
そんな時、バタバタと大きな足音が聞こえてきた。その足音がドアの前で止まり、大きくドアが開け放たれた。入って来たのは一人の兵士だった。
「フレイアさん! ルイが、死亡しました……!」
突然の知らせだった。
「どういうことだよ!」
思わず兵士に掴みかかりそうになるが、フレイアがそれを食い止めてくれた。兵士が悪いわけじゃないことはわかっているが、どうしても我慢ができなかったのだ。
「自分にもさっぱりなんですが、急に血を吐いて倒れたんです。かと思えばそのまま意識を失って死んでしまいました」
腑に落ちない点はもちろんあるが、もしも最初からなにか毒を仕込んでいたとなればわからないでもない。が、それはつまり最初から俺に負けることを想定していたということにもなる。
「大丈夫だ。こっちには切り札があるからな」
そう、俺にはミリシャがいる。アイツならルイを治せるかもしれない。が、物理的な傷以外治せるかどうかはやってもらわないとわからない。
「すぐ連れてくる」
フレイアも俺が言いたいことをわかっているのだ。
「先に行ってて」
「わかった。それじゃあ案内してくれ」
兵士が一つ頷き、早足で部屋を出ていった。俺は兵士の後についていき、フレイアはミリシャの元へと向かった。
派出所の地下牢ではルイが仰向けで倒れていた。駆け寄って脈を確認する。冷たくなっていて脈もない。
しばらくしてフレイアとミリシャが到着する。が、ミリシャの顔色は優れない。
「コイツを治してもらいたい」
「死んでどれくらい?」
「十分とか二十分とかそれくらいじゃないか?」
「じゃあ、たぶん無理だ」
そう言ってミリシャが顔を背けた。
「無理って、どういうことだよ」
「私のAスキルは治癒能力じゃない。時間を五分ほど巻き戻す能力だ。だから十分経ってるならもう使えない」
「お前……なんで今まで黙ってたんだよ!」
ミリシャに近づくと、俺とミリシャの間にフレイアが割り込んだ。
「仕方がないでしょ。イツキとミリシャは敵同士だったんだから」
「お前は悔しくないのか? せっかく敵の中核を担うようなやつを捕まえたっていうのに」
「悔しいよ。でもこうなってしまった以上仕方がない。それに私たちの目的はデミウルゴスを駆逐することじゃない。わかってるでしょ」
目的は過去のパンデミックを防ぐこと、その一点に尽きる。だからこちらの世界のことは気にすることはない。現実世界で目的を達成するために未来で力をつける。それがすべてにおいての道筋だ。
ため息を付いて力を抜いた。
「わかった」
「それでいいんだよ」
フレイアが俺の肩を何度か叩いた。少しだけ気持ちが落ち着いてきた。同時に自分が今やるべきことを思い出す。
「クラウダのところに急ごう。ケリをつける」
フレイアが僅かに微笑んだ。
「ええ」
俺たちはルイの遺体をそのままにして派出所を後にした。遺体は他の人間が片付けてくれるだろう。
俺とフレイアとミリシャはその日のうちに町を出た。クラウダの病状が怪しいということになれば時間がない。クラウダが生きている間にでもミリシャを連れて行くことができれば延命くらいはできる。かなり無理矢理ではあるが、クラウダが死んでしまってはデミウルゴスの思うツボである。
馬車に乗っている最中に三回ほど地震があった。フレイアいわく「最近多くなった」とのことだ。俺は拷問されている最中のことはあまりよく覚えていない。それだけあの拷問が過酷だったということになる。
こうして俺、フレイア、ミリシャの三人というメンバーでエルドートへと向かうことになったのだが、基本的にミリシャは喋らなかった。元々デミウルゴスのメンバーであるから、魔女派のフレイアとはウマが合わないかもしれない。しかしミリシャは脅されてデミウルゴスに加わっていたのだ。であれば負い目もなにもない気はする。
馬車から船に乗り換えたときにミリシャに訊いてみた。
「お前、デミウルゴスを崇拝してたのか?」
ミリシャは鼻で笑った。
「なに言ってるんだ? そんなわけないだろ」
「まあ、そうだよな」
「なんだよ。言いたいことがあれば言えよ」
「なんというか、バツが悪そうだなと思って。あんまり喋らないし」
「私は性格的に無口だし周りのことに興味を持たないんだよ。ただそれだけの話だ。そんなことより、私を気遣う暇があればお姫様をエスコートしてやんなよ」
また鼻で笑ってどこかに行ってしまった。
結局船の中でもろくに会話もなく、エルドートへの馬車の中でもミリシャは黙ったままだった。




