三十六話
そんなことをしているうちに近くの警察署に到着した。
馬車から降りて顔を上げる。現実世界の警察署よりもずっと小さい。やはり日本よりも海外の建物の作りだ。正確にどこがとは言いづらいが雰囲気がそんな感じがした。
警察署に入って書類を書かされた。ライセンスをなくしたせいで身分を証明できないからだ。
それが終わると奥の部屋に通された。偉そうなおじさんが二人に双子が入ってきた。そして今まで俺がどこでなにをしていたのか。デミウルゴスとの関係性はなんなのかなど訊かれた。警察としてもデミウルゴスをどうにかしたいのかもしれない。
こうして拘束されたわけだが三時間後には開放された。近くの宿屋に案内されたが、一応重要参考人ということで見張りの兵士はいる。まあそれこそが双子だったわけだが。案内も二人がしてくれた。
「お前ら一日中ここにいるのか?」
「お風呂や仮眠は交代で取るのよ」
「食事は?」
「他の警察官が持ってきてくれる」
「なんていうか、警察官っていうのも大変な仕事なんだな」
「もうこっちのことはいいから中に入りなよ。食事はこっちで用意してあげるから」
「わかった、わかったから」
グイグイと背中を押されたので仕方なく部屋に入った。
が、踏みとどまって振り返る。
「ミリシャはどうしてる?」
「ミリシャ=アドールでしたら警察署で聴取中ですよ」
リアがアルの横からひょっこり顔を出す。
「アイツもいろいろあるんだ。手加減してやってくれ」
「と言っても、デミウルゴスで拷問を生業としていた女性です。上はなんとしてもデミウルゴスの情報を訊きたいでしょうし、こればっかりは私たちではどうすることもできません」
「ミリシャの両親の件はどうなった?」
「警察署に向かう前に情報を送っておきました。しばらくすれば情報も集まるでしょう」
「そうか、頼む」
そう言って部屋に戻る、と思いきやもう一度立ち止まる。アルが俺の背中に突っ込んできた。俺を無理矢理押し込もうとするからだ。
「俺のライセンスはどうなった?」
「あ、そういえば」
リアがポケットからライセンスを出した。
「俺のか?」
「そうです。ルイが持ってました」
ライセンスを受け取って電源を入れる。ちゃんと使えるみたいだ。それよりもメッセージが何百件と来ているのが衝撃的だった。怖すぎる。半分が双葉、半分がフレイア、ちょっとだけ他の連中だ。今日中に返信しておくか。
「ルイはこれからどうなるんだ?」
「事情聴取でしょうね。半分くらい拷問みたいになるかもしれませんけど」
「いいのか、それ」
「デミウルゴスはあまりにも過激ですからね。世界宿命論信者の集まりというだけでなく、それを遂行するためであれば人の尊厳や生死などどうでもいいとさえ考えている集団です。警察も喉から手が出るほど欲しかった人物。出来得る限り情報を搾り取ろうとするでしょう」
「まあ普通じゃない連中っていうのはよくわかってるよ。それで疑問なんだが世界宿命論ってなんだ?」
「この世は聖書によって滅亡するのがこの世界の宿命という終末論のようなものです」
「聖書ってのはあれか、ルイが言ってたおとぎ話のことか」
「おそらくはそうかと。デミウルゴスに古くから伝わるものです。デミウルゴスの連中は聖書と呼び、伝承やおとぎ話ような扱いをします。しかし一般的にはあまりいい話ではないという認識ですね」
「一般的にはおとぎ話じゃないってことか」
「結局デミウルゴスがそう言ってるだけですからね」
「アイツは俺のことを【破滅の子】って言ったんだ。俺が世界を終わらせるって」
「みたいですね。馬車の中でもそんなようなことを言ってたみたいです。でも気にすることはありません。デミウルゴスはそうやって今までも人を惑わしてきたんですから。それにアナタが悪事を働けるような人には見えませんし、その破滅の子というのも悪くはないかもしれませんよ」
リアが柔和に微笑んだ。
「だといいな」
つられて俺も笑う。
「だーっ! 和んでんじゃないわよ! アンタは部屋に入る! 私たちは仕事をする! じゃあね!」
部屋に蹴り込まれたかと思えば目の前でドアが強く閉められた。強引だなとは思うが、反面どこか可愛いとも思ってしまった。
それから食事が運ばれてきた。食事の後に風呂に入り、部屋に戻ると急激に眠気がやってきた。安心したせいで気が緩んだのを実感した。
もう大丈夫だ。眠っても、誰も俺を妨げない。そう思った瞬間、暗闇の中へ真っ逆さまに落ちていった。




