三十三話
正直なところミリシャを失うのは痛い。コイツほどの治癒能力者はいないからだ。ただし、コイツを治癒能力者として生かすのであればミリシャの両親を見つけ出さなくてはいけない。
それでも、やるしかない。
拳を握りしめてルイへと突進する。俺のレベルが上がろうがなにしようが、コイツの軽薄そうな笑みは変わらないみたいだ。
「ボクたち全員を倒すことなんてできないよ」
「んなことわかってんだよ」
ルイのレベルが低くても、取り巻き連中のレベルが高かったら意味がない。であればルイたちと真正面から戦うのは得策じゃない。
魔力を目一杯込めて拳を地面に叩きつけた。地面から爆炎が巻き起こり、広がっていく衝撃波が周囲の建物を揺らした。
住民への被害はない、と思いたい。派出所に来る前に一応確認したので大丈夫だと思う。
爆炎と衝撃波に紛れて町の中に逃げる。何度も何度も爆炎を巻き起こしながら走っていく。ミリシャを回収して、俺たちが来た方とは反対側の入り口に向かった。いつまでもこの町でやりあうわけにもいかない。
「ルイに勝てると本気で思ってる?」
こんな時によく冷静でいられるものだ。
「一対一ならなんとかなるかもしれんがな」
後ろから飛んでくる魔法弾を避けながらそう言った。前に気を配る必要はないが、逆に背後へ神経を向けていなければすぐにやられてしまう。
「つまり勝てないってことだな」
「だから逃げてる」
「逃げ切れるのか?」
「やり方次第だな」
なんて言ってる間に距離が縮まってくる。気配といい魔力といい、先程よりも近くに感じるのだ。殺気が針のように肌をチクチクと刺激するようだ。それくらい向こうがやる気ってことだ。
ドン、ドン、ドン。
町を出ても爆炎を巻き起こし続けた。
と、ルイの部下数名が正面に回り込んできた。広い場所に出たせいだ。ルイの部下たちの方が俺よりもレベルが高い、というのがなんとなくわかる構図だな。でなきゃ簡単に回り込まれたりしない。
脚を止めてため息を一つ。しかしミリシャは降ろさなかった。
「降ろしなさいよ」
「悪いが収まりがいいみたいでな」
「んな馬鹿な」
ミリシャもため息をついていた。
俺とミリシャのやりとりだけで終わればいいのだが、この状況でのほほんと終わるわけがない。
「ようやく降参した?」
目の前にルイが降り立つ。
「こんなことしても無駄ってば。派手に逃げながら仲間が来るのを待とうとしたんでしょ? そんなことお見通しだよ。このへんにはキミの仲間はいない。それはボクの仲間が確認してる」
「バレてたか」
「これだけ派手にやればね。ま、ここで話すのもなんだし一回帰ろうか」
ルイは舌なめずりを一つ。
「ボクたちの家にさ」
その仕草が滑稽で思わず笑ってしまった。
「なにが楽しいんだい?」
「いや、わかってないなと思って」
「わかってない?」
「俺が攫われた瞬間から仲間たちは俺を探してておかしくないんだよ」
「しかしこのへんにはいないよ。確認済みだ」
「でももしも〈蒼天の暁〉が別の方向から手を回してたらどうだろうな」
「たかが冒険者ギルドになにができるっていうんだ」
「警察の手伝いしてりゃ、コネもできるんじゃないかと思うけどな」
「警察なんかが来てもボクたちは止められない」
「でも騒ぎは大きくできるし警察同士で連絡を取り合うきっかけになるだろうさ」
「だとしても今帰れば関係ないね」
ルイが手を振った。「やれ」と部下に命令すると、男たちが一斉に飛びかかってきた。
後方には狙撃手、近接は剣士。二段構えのこの状況に、俺は目の前の剣士の攻撃を受け止める準備しかできなかった。腕を失っても時間を稼ぐ。そのためには立ち止まってはいられなかった。




