二十三話
毎日毎日、同じことの繰り返しだった。
強烈な体の熱さで目が覚めて、ルイと会話し、ミリシャに拷問され、またクスリで眠らされて。
基本的には栄養剤の投与だけだが、たまにドロっとしたものが胃に押し込まれることがある。そうやって胃が衰えないようにしているのか、そうしないと生かしておけないと思ってのことなのかは不明だった。
というよりも、それを考え続けるだけの余裕がないのだ。
頭は常に眠る直前のような状態。ぼーっとしていて、一応「俺」という存在があるんだという意識はちゃんと残っている。どうしてここにいるのかはわかっているしルイともなんとか会話できる。ミリシャに拷問されれば当然痛い。
それでも様々な状態を一度に内包しているような状態だ。体と頭が俺のいうことを利いてくれない。
睡眠不足、栄養不足、強烈な痛み、同じ会話の繰り返し。さすがにもうどうにでもなれと思ってしまう。
あれからどれだけの時間が経ったのか。それを考えるのもやめてしまった。二週間だと思っていたのに二日だったなんて、あんな経験はもうしたくない。
そうやって思考を鈍らせていった。考えることをやめればそれだけ楽になる。いくら痛かろうとも、眠気が限界までくれば痛いながらも眠りそうになる、というか拷問中でも眠ってしまう。こんな状況でなければ発見することはなかっただろうが、きっとこんなことを知っていてもあまり意味はない。意味はないが、楽にはなった。
眠ってしまえば、痛みもなくなる。
そうやって何日もやり過ごすことを覚えた。俺が覚えたというよりは俺の体が勝手に覚えただけだが。
『はい、今日の調子はどうかな』
と、ルイの声で目が覚めた。覚醒するようにと体に流されたクスリのせいで妙な目覚めだ。視界はクリアで意識もあるのにどこかスッキリとしない。自分の体が自分のものではないような、ぼーっとしている目覚めなのだ。
「調子も、クソもねーよ」
毎日体調不良だからだ。動くこともできないから運動不足だ。のどが渇いても水が飲めないので水分も不足してるんじゃないだろうか。
『いつもどおりで安心したよ。さて、今日で何日になるかわかるかな?』
「どうでもいい」
『もう、毎回そう言うね。気にならない? 外の様子とかさ。キミの大事な人達が今どういうことをしてるのかとかさ』
「気にしたところで教えてくれないだろ」
『わからないでしょ? もしかしたら教えるかもしれないんだし』
「じゃあ教えてくれよ。アイツらは、魔女派の連中は今なにしてるんだ? 今でも俺のことを探してるのか?」
ルイはスピーカーの向こう側で声を殺して笑っていた。
「おい、どうなんだよ」
『言うと、思うのかい?』
わかっていたが腹が立つ。向こう側で大声で笑っているのが余計に腹立たしく、今すぐにでもぶっ飛ばしてやりたいくらいだ。
いや、殺してやりたい。
『いい目をするね。血走っていて殺気に満ちてる。ただただ弱ってしおらしくしている姿っていうのは見てても面白くないのさ』
「俺はお前を満足させるための愛玩動物じゃねーんだよ」
『そんなことはわかってるさ。愛玩動物じゃない、捕虜だからね。だから切断した体も元に戻してあげてるじゃないか』
この「あげてる」というのがまたムカつく。まるで俺が勝手に手足を切ってるみたいな言い方をしやがるからだ。
「ふざけやがって……」
『いいね、いいよ。やっぱりキミは最高だ』
「人が拘束されてるのがそんなに好きか? 拷問されてわめいてる姿が楽しいのか? 狂ってるよ、お前」
『言ったでしょ? その殺気に満ちた目がいいんだよ』
「はっ、意味がわかんねーよ。お前みたいなサイコ野郎の思考なんて知りたくはねーけどな」
『キミが生きてるっていう証だからだ』
「なに言ってんだ、お前」
『生きてるから、生きようとしているからそんな目をするんだよ。そうじゃなきゃ人を殺そうとなんて思わないでしょ。それに心が死んでないっていう証拠でもある』
また、向こう側で声を殺して笑った。
『キミはまだ諦めてない』
ゴクリと、生唾を飲み込んだ。
急にドアが開いてミリシャが入ってきた。いつもはもっと間を開けてくるはずなのに今日はやけに早い。
『今日は用事があるからボクがおしゃべりできるのはここまでなんだ。ここからはミリシャがたっぷり可愛がってくれるっていうから』
「可愛がる、か」
机の上に拷問器具を並べるミリシャ。こうしていればただの女だが、拷問が始まると人とは思えないことも平気でやる女だ。
『それじゃああとは任せたよ』
「ああ、好きにやらせてもらう」
ルイはどこかに行ったのだろう。ミリシャが拷問器具を並べている間にはカチャカチャという金属だけが部屋に響いていた。
今日もまた拷問されるのか。少しずつ慣れてはきたが痛いものは痛い。痛覚を完全に遮断できない限り、痛みに慣れるということはまずないだろう。




