二十二話
「俺を餌に使うつもりか」
『そんな簡単なことはしないさ。だってこの場所がバレたら厄介だからね。もっと二重三重に策を講じるよ』
間違いない。魔女派の戦力を削ぐつもりだ。俺という材料を使って、フレイアやゲーニッツの殺す。それがコイツの目的だ。
どうする、どうしたらいい。
この間にも体調は回復傾向にある。腕にも脚にも力が入るようになった。あとは脱出できるチャンスさえ来ればなんとななるかもしれない。
問題はそのチャンスをどうやって作り出すかだ。それにこの壁は魔法でぶち破れるのか。ドアに鍵はかかっているのか。監視はどれくらいいるのかなど問題は山積みだ。
いろいろと考えてはみるが、こんな状態ではあまり頭は回らない。
『これからは眠らせては起こして、眠らせては起こしてを繰り返していくよ』
「なんでそんなことすんだよ……」
『キミのメンタルを破壊するためさ。脱走する気力さえ奪ってしまえば内部からなにかが起こることはなくなる。となれば外部からの攻撃さえ注意すればよくなる』
「こんな状況で俺がなにかできるとは思えないけどな」
そうだ。確かに今の俺の状況ではなにもできない。俺でさえそう思っているのにルイはそれでも「俺がなにかをする可能性」を捨てていない。それはつまり、今でも俺に対しての多大な危機感を抱いているということだ。
セキュリティは万全だ。俺が逃げ出すすべは存在しない。
『いい顔だ。そうやってどんどんと脱走する気力を失ってくれるとこちらは楽になるからね』
「いつまでもお前の思い通りになると思うなよ……」
『でもキミはボクの思い通りになってるよ? それにキミはどうすることもできないよね。しばらくしたらそんなセリフも吐くことはできなくなるだろうし、今のうちに好きなように言うといいさ』
コイツの言うことは事実だ。俺はなにもできないしコイツの手の平の上で踊ることしかできやしない。
だがこのままだと精神的に異常をきたすのも時間の問題だ。
なにかの本で洗脳の方法を読んだことがある。
1、衣食住を制限する。
2、体を衰弱させる。
3、罵声を浴びせ続ける。
確かこれが三要素のはずだ。
しかし罵声は浴びせられていない。すると、洗脳だけではなくマインドコントロールを併用している可能性がある。
1、同じような言葉をかけ続ける。
2、密室に閉じ込めて情報を遮断する。
3、多くの選択肢を与えるが、最終的には同じ結果になる質問をする。
4、恐怖を与えたあとで開放する。
5、その人間を完全に肯定する。
などがマインドコントロールの方法だったはずだ。洗脳は攻撃による強制的な精神の変化、マインドコントロールはあたかもそうだというように思い込む、みたいなのもうろ覚えだがあったような気がする。つまりマインドコントロールはより自然な形で新しい人格を与えるということだ。
となるとこれからなにが起きるのかはなんとなくわかる。というかこれ以上なにも起きない、というのが正しいのかもしれない。
おそらくこのまま俺の心が折れるまで今の状況を継続するという無変化、もしくは罵声を浴びせるようになったりといった変化が現れるだろう。どちらにせよ俺にとっては不利だ。
――不利なのは間違いない。
『それじゃあもうしばらく寝てもらおうかな』
「またクスリか……」
『眠るのは嫌い?』
「どうせ起こされるんだろ」
『心臓にはあまりよくないけど、そうしないとキミのメンタルを攻撃できないからだ』
「そういうことを口に出して言うんじゃ、ねえ、よ……」
いきなり眠気がやってきた。いつもよりもずっと強烈なやつだ。
ルイとの会話もそこそこにしてガクリと頭が落ちるような感覚。そのまま、俺の意識は途絶した。




