二十話
それからはルイとの雑談やメイドの拷問が続いた。食事は口を無理矢理開けさせられて流動食みたいなのを食べさせられる。よくわからないけど排泄は知らないうちに終わっている。自分でも不思議だが魔法かスキルかどっちかだろう。
間違いなく言えることは、ここの流動食は味がほとんどなくて美味くないということだ。
ルイは毎日来たが、メイドは三日に一度くらいのペースで現れる。正直一生現れないでいて欲しいが、俺が気を抜くと現れるあたりに悪意を感じてしまう。
いや、拷問する時点で悪意しかないな。
毎度毎度気絶させられるのだが、さすがにこの痛みになれることはなかった。
メイドはよく俺の指を切り落とした。
「なんで指なんだよ。太ももとか腕の方が太いから拷問にはいいんじゃないのか?」
「切るときに痛いからか?」
「そりゃ太いんだから時間かかるし、その方が相手をいためつけられるだろ」
「馬鹿だな。指の方が神経が五本通ってるんだし、一本一本切り落せば痛みは五倍だぞ」
そんな会話をして心臓が止まりそうにもなった。そういう会話をする時だけ、あのメイドは少しだけ嬉しそうな顔をするのだ。
ルイは俺の部屋に来て雑談をしていくことが多かった。たまに拷問まがいのことをしたが、メイドに比べればかなり優しい方だ。スキルで作り出した氷で腕や脚を貫いたり、耳や鼻を切り裂いたりとその程度だ。
これをその程度、と言えるようになったのは成長の証かもしれない。成長したいわけではないが「その程度」と思わなかければやっていかれない。
そんな気が狂いそうになる毎日が続き、おそらく二週間くらい経った頃だった。初めてのことだがルイとメイドが一緒に来た。
「やあ」
いつものように軽薄そうな笑みが張り付いた顔だ。
「お前、暇なのか?」
ルイはイスを引き寄せ、俺の前に座った。メイドはその後ろ、ドアの横で気をつけをしていた。
「別に暇ってわけじゃないよ。これが仕事だからさ」
「俺の拷問がか」
「そりゃね、キミは破滅の子だし、クラウダに近い場所にいた人物だしね」
「はっきり言うが、俺はクラウダのことはあまり知らないぞ。アイツとずっと一緒にいたわけじゃないしな」
「そんなことは知ってるけどね。それでも弱点でもないかなって思うんだよ」
「だから知らないって」
「そうなんだろうな、って最近よくよく思うよ。あれだけのことされててもまったく吐かないしね。このまま気でも狂ってしまうんじゃないかって思ったよ」
「そんな簡単に狂ってたまるか」
俺にはやることがある。
「そこまでしてこの世界を終わらせたいんだ?」
「別にそういうわけじゃない」
「キミがどう思おうが、キミとクラウダが組むってことはこの世界の終わりを意味してるんだよ」
「でもどっちにしろこの世界は終わるだろ。地球が崩壊するのは避けられない」
「それとこれとは話が違うのさ。このまま世界が崩壊するのは自然の摂理だ。でもキミがやろうとしているのは過去の改変だ。それはこの世界があるがままに終わっていくとは言えない」
「本来あるべき姿なら崩壊もやむなしってか」
「そういうこと」
そっと、ルイが立ち上がった。
思わず身構えてしまった。いつもの感じだと拷問が始まるからだ。
だが、ルイはニコリと微笑んだままイスを元の場所に戻した。
「でもね、ここにいる以上はキミは過去には戻れない。死ぬこともできないし助けもこない。魔女クラウダの情報が得られなくても、キミをここに監禁できればボクらの勝ちなんだ。キミはそれをわかっていない」
「わかってるさ、そんなこと」
こうやって拘束してるのだって俺が逃げられないようにするためじゃない。俺に自殺させないためのものだ。
「いいや、わかってないよ。ちなみに言っておくけど、ボクはミリシャを脅して無理矢理働かせてるわけではないし、ミリシャを強引に引き入れたわけではない」
ミリシャ、とはあのメイドのことだろうか。今この場ではそう判断するのが当然のように思える。
「それってどういう意味だよ」
「ボクとミリシャの間にわだかまりは一切ないってこと」
つまりミリシャをそそのかして逃してもらうっていう方法は使えないわけだ。
「キミのことだから、彼女がボクにマイナスの感情を持っているとなればそれを利用しよと考えるはずだ。と考えたからそういう情報を流したんだけど」
「ホント、嫌なヤツだなお前」
「でもそこまで絶望してなくてショックだな」
そう言ってドアの方へと向かった。




