十六話
それでもコイツが持っている情報のすべてが正しいわけではなく、それは俺にとってもありがたいことでもある。付け入る隙はまだあるとコイツ自身が証明してくれているのと一緒だからだ。
「楽しみ、ね」
「楽しみさ。キミはここから出られない。誰かと連絡を取ることもできない。キミの味方も場所がわからなければ助けに来ることもできない。詰み、なんじゃないかな」
「俺が時間を遡るっていう選択肢はないわけか」
「ボクが知っている情報をキミは知らない。だから言ってるんだろうけど、キミのスキルについてもちゃんと調べがついてるんだ」
調べるっていっても大したことはできないはずだ。時間を遡るなんてことは証明できないからだ。
「その顔、ボクがウソ吐いてるって思ってるんでしょ? 残念だなあ、ボクはキミにバカにされてるみたいだ」
カツカツカツっという音と共に太ももに強烈な痛みが走った。
視線を下げると太ももに透明な太く長い針が数本刺さっていた。箸と同程度の大きさだ。ルイの能力で針を作ったのだとすぐにわかった。
太ももを突き抜けているのだろうか、表面上じゃなく太もも全部が痛い。
ルイはその針を持ってグリっと左右に動かす。
「ぐぅ……!」
電気のような痛みが全身を駆け巡る。
「痛いよねえ。ボクをバカにした痛みだよ」
「別にバカにしたわけじゃ――」
また針を前後左右に動かすものだから言葉を続けられない。
「キミがどう思おうと関係ない。ボクがバカにされたと思ったらそれが結果なんだ」
ルイは微笑んだまま何度も針を動かした。そのたびに痛みが体中を駆け抜けて、俺は奥歯を噛み締めて耐えることしかできなかった。
「キミは好き勝手やりすぎたんだよ」
「どういう、意味だよ」
針の動きが止まり、なんとか返事ができるようになった。
「世の中にはライセンスの中身を見るスキルもあれば、そういったことができる機械だって存在する」
「俺のスキルを見たってのか」
「いやいや、さすがにそれは無理だったよ。これも魔女の加護ってやつだろうね、強大な魔力に阻害された」
「そりゃ、魔女さまさまだな」
「しかし見られないのはメッセージやスキルだけだ。基本的なステータスは閲覧できたんだよ」
「ああ、なるほどな」
ステータス画面を見たのは一回や二回じゃないんだろう。きっと顔を合わせる度に見ていたはずだ。いや、俺に接触する前から確認していた可能性がある。
「ずっと監視していたのに、夜が明けたらレベルが上がっているということが何度もあったね」
「そりゃ、過去に遡って敵と戦ってたわけだからな。だから俺が破滅の子だって気づいたのか?」
いや違うな。俺のステータス画面を見ていたということは、最初から俺に的を絞っていたに違いない。
「まあそうだね。何度も確認して、キミが破滅の子であると結論づけた」
「それだけじゃないんだろ?」
再び針がグリっと動いた。
痛い。しかし、さっきよりも慣れてきた。
「お前の言い方だと、ライセンスの中身を見なきゃ破滅の子だって確証を得られないってことだ。つまり俺のことを名指しできる人間がどこかにそんざいしていて、そいつの指示で俺のライセンスを覗き見たんじゃないのか?」
不服だと言わんばかりに真顔になった。針を動かす力も強くなっている。
「左手を止めろよ……」
慣れたとは言っても痛いものは痛い。
「ボクが誰かに指示されたって、本気でそう思ってるの?」
「違うのか?」
「デミウルゴスの中でボクに指図できる人間は限られてるんだよ。その人はそんなことを言わない」
どうやら「自分の立場を低く見られている」ことに憤っているのであって「誰かが裏にいることを指摘された」という部分はどうでもいいようだ。
しかしこれでなんとなく見えてきた。見えてきたが、少しずつ目蓋が重くなってきた。血液が少なくなってきてるのか。それもとなにかの薬が作用してきたのか。
「ま、いっか。今日はこのくらいにしておいてあげる。眠くなってきりゃったみたいだしね」
ルイは針を強引に抜き、その針を空中で霧散させた。
「わざわざ抜くんじゃねーよ……」
「こっちの方が楽しいからね」
類が背を向けてドアに向かっていった。
「それじゃ、おやすみ」
なんていいながらドアを開ける。
不思議なことに、ルイが出ていくのと同時に眠気が襲ってきた。これはさすがになにかの薬だ。
わかっていても抗うことはできなかった。その眠気を受け入れるしかない。ただただ、フレイアと双葉、そして優帆の顔が思い出された。




