十五話
目を開けると木製の扉が見えた。扉の横で蝋燭が揺れる。扉の周囲は、どうやらコンクリートのようはもので塗り固められているようだ。いや、コンクリートのようなものか。この世界にはなさそうだしな。
頭がぼーっとする。現実の世界で監禁された時と似たような感じだ。指先一つ動かすのも面倒になる体が気だるいこの感覚も、目の前に広がっている質素でつまらない景色も似ている。
わかっているのは気絶したということ。気絶する前にルイがいたこと。おそらく、俺はルイによって連れ去られたんだろう。
とは思うけどどこに連れ去られたのははわからない。それに気絶したということはセーブもされてしまった。前回のように誰かに助けてもらう以外の選択肢がない。なんかの薬を打たれた可能性が非常に高く、俺が自分でここを抜け出すのは困難だと考えられるからだ。
首を動かして周囲を見渡そうとした。が、固定されていて首が動かせない。入り口の蝋燭以外に明かりがないので自分の体が今どうなっているのかもよくわからない。
脱出方法はないかと考えては見るが体も動かない。思わずため息が漏れる。
その時、目の前の扉が開いた。ギギギっという、こんな状況でなければワクワクするであろう雰囲気溢れる音だった。
入ってきたのは案の定ルイだった。
「なんで、あそこにいたんだ」
ルイは扉を締めてニコリと微笑んだ。
「キミとフレイアと戦っててさ、勝ってるのに逃げる必要あると思う? あの時キミの前から逃げたのはさ、こうやってキミを捕まえるための準備が整ったからだよ。ボクらの目的は魔女を殺すことじゃないって、まだわかってなかったの?」
暗くて見えない、部屋の隅の方からイスを持ってきて俺の目の前に座った。背もたれを俺の方に向け、背もたれの上に腕を乗せていた。
「破滅の子、か」
「そういうこと。必要なのは魔女ではなくキミだ。キミから情報を引き出そうと思ってね」
さっきからニコニコとムカつくやつだ。
「情報もクソもない」
「そんなことはないはずだよ。デミウルゴスの文献にはキミの存在がちゃんと明記されてるんだ」
「デミウルゴスの文献ってなんだよ」
「ビブファブラっていう書物さ。過去の歴史の一部が綴られている」
「一部……?」
「第一次世界崩落よりも前の記録。復興期の記録。そして第二次世界崩落までの記録をボクたちがつけている」
「第一次世界崩落ってのは?」
「言わなくてもわかってるでしょ? 世界中に奇跡の雨が降った日さ。デミウルゴスがこの世界を塗り替えた日」
「じゃあ第二次世界崩落ってのはこれから起きる出来事のことか」
「正確にはどれくらい先になるのかはわかってないけどね」
ルイは一呼吸置いてから「でも」と付け加えた。
「第一次世界崩落だって生き抜いてきたんだ。第二次世界崩落だってなんとかなるさ。それがデミウルゴスの見解だ」
「見解って……前回とは崩落の意味合いが違うぞ。今回のは世界そのものが滅びるレベルだ」
「それでもボクらならなんとかなると思ってるよ」
「なんで盲目的にそんなことが言えるんだよ」
「前回がそうだったからさ。でも破滅の子がいると困るんだ。もし生き残れても、それはデミウルゴスの力じゃなく破滅の子の力ということになってしまうんだ」
「破滅の子ってのは、世界にとっての破滅じゃなくてデミウルゴスにとっての破滅って意味か」
「意味は一緒さ。デミウルゴスにとっての破滅は世界にとっての破滅だ。この世界はデミウルゴスによって作られた。であればデミウルゴスが世界の中心になってもおかしくないだろう?」
コイツは本気で言ってるのだろうか。だとしたら、どうやって生きてきたらこんな考え方になるのか不思議で仕方がない。
いや、ある意味正常なのかもしれない。
魔女の指示にしたがって俺を魔女のところにつれてきたヤツらがいい例だ。過去を書き換えることで世界が滅びるというのを知っていて俺を案内してきたわけだからな。
「まあそんなことはどうでもいいんだよ。ボクが訊きたいのは別のことだから」
「答えられるかどうかはわからないけどな」
「それはそれで構わないさ。でだ、キミは今までいろいろと過去を変えようとしてきたみたいだね」
「さあ、どうかな」
「いいけどね、しらばっくれても意味はないし。キミはミカドの邪魔を何度もしてきたという記述があった。いや、記述には破滅の子としか書かれていなかったけどね。何枚かの写真も載ってたからさ」
「なるほどな、それで接触してきたわけか」
「最初は「なぜキミが過去に存在しているのか」わからなかったんだ。でもいろいろと調べてさ、接触して、魔女派の人間からも情報を引き出して、ようやくキミの正体を突き止めた。時間跳躍の【破滅の子】だ」
この話を聞いて確信した。
ルイはまだ知らないのだ。時間跳躍の能力者と、時間をループする能力者が同じではないことを。
なんとかしてこの事実を使えないだろうか。
「俺を拘束して破滅の子としての役目を果たさせないようにするのが目的か」
「ま、そういうことになるね。これからが楽しみだよ」
ホント、コイツの笑顔はムカつくな。いろんな感情が含まれすぎてて底が見えない。




