最終話
目が覚めて、一番に感じたのは体の重みだった。まだ体の薬が完全に抜けていないのかもしれない。
双葉はまだ起きていないようだった。
寝室から出てリビングらしき場所に行くとフレイアがコーヒーを入れているところだった。
「おはよう、イツキ」
「ああ、おはよう」
俺の姿を見てすぐにカップを用意するフレイア。そして俺にもコーヒーを注いでくれた。砂糖は一つ、ミルクも入れてくれた。
「ありがとう」
椅子に座ってコーヒーを飲んだ。こんな廃墟みたいな場所でなければいい雰囲気だったのだがさすがに文句は言えない。
「これくらいなんてことない」
フレイアは俺の向かい側に座った。
テーブルの下から保存食を取り出してテーブルの上に出した。フレイアが食べ始めるのを見て俺も手にとった。
保存食は種類があって、プレーンにストロベリーにチョコだ。スーパーでもコンビニでも買えるような市販品であるため味は問題なかった。それはフレイアも同じようで、一つ、二つ、三つと食べていた。
「これどこで買ったんだ?」
「コンビニで」
「金は?」
「ん」
フレイアが顎で俺の後ろを差した。後ろのサイドボードの上には俺の財布が置いてあった。
「あー、なるほどな」
「勝手に使っちゃったけど仕方ないでしょ?」
「まあそのおかげで食べられるんだし気にしてない」
部屋の中には廃墟には不釣り合いの物がいくつかあった。きっとそれらも俺の財布から出たんだろうな。今いくら残ってるのか、怖くて財布の中が見られない。
モクモクと保存食を食べ、コーヒーを飲み、一息ついた。
「怒ってる?」
と、フレイアが言った。いきなりのことだったのでどう返すのが正しいのかわからない。でも、ここはきっと誠実に答えた方がいいんだと思う。
「頭を掻いて罵声を浴びせるほどじゃないけど、怒っていないと言えば嘘になる」
「そう、だよね」
フレイアは背もたれに体重をかけた。古い椅子のせいか、ギシッと音がなった。
「フレイアにも事情があるんだってわかってるからな。だからかな。怒ってるっていうか、少し悲しい」
「悲しい……?」
「真実を打ち明けるだけの度量が俺にないって思っちまうからな」
「別にそういうわけじゃない。ただ私は、いや私たちは魔女によって統括されている。だから、私が話すべきじゃないと思った」
「俺が話して欲しいって言ってもか」
「私じゃ正確な話をできないから。イツキに質問をされてちゃんと答えられるかどうかわからないから。それではイツキは納得しない。例えばクラウダからの説明に納得できなかったとしても、それはちゃんと説明を受けた上で納得できなかったに過ぎない。であれば、私もアナタも別の道を探すことができる」
「別の道?」
「そう、別の道。納得しよう、理解しようとする道。私が不完全な話をして納得できなかった場合、アナタの中にはただただしこりが残るだけ。でもクラウダからの完全な話で納得できないのであれば、どうすれば納得できるのか、どうすれば理解できるのかを探すことができるから」
「結構考えてるんだな」
「そりゃね。私だってただただこんなことやってるわけじゃないから」
こんなこと、という言い方に引っかかりを感じた。
しかし、これもまたクラウダから話を聞けば疑問を解消できるんだろうと思った。おそらく今の話はそういう話だからだ。
だが、俺は本当にフレイアを許せているのだろうか。こうやって彼女と面と向かって話しているからそういう風を装っているだけなのかもしてない。
俺はまだ彼女のことが好きなんだろう。真実を隠されて、にも関わらずこうやっていつもと同じように接する彼女。それを受け入れて、今でも一緒にコーヒーを飲んでいる。
一緒に、いたいんだと思う。
「クラウダが全部話してくれるってことは、俺はまた死ななきゃならないってことだよな?」
「そういうことになる」
「だったら早めにやって欲しいもんだ」
「死にたいってこと?」
「死にたいわけじゃないさ。ただ、早く真実が知りたいだけだ」
俺はコーヒーカップを置いた。
「行こう、死ぬなら双葉も一緒じゃないと」
じゃないと、連れて行かれない。
「わかった」
フレイアと共に寝室に戻った。
眠っている双葉の手を握り、フレイアに微笑みかけた。
「頼むよ」
「私は何度アナタを殺せばいいんだろうね」
「何度でも」
それを聞いて、フレイアは苦い顔をした。
「人殺しは趣味じゃない」
「でもキミに殺されたいよ」
「なにそれ、変な性癖に目覚めた?」
「キミじゃなきゃダメだから。さあ、やってくれ」
フレイアはため息をつき、俺に右手を向けた。その右手を俺の額に当てて長く息を吐いた。
「しくじらないでくれよ」
「だから直にやる。それじゃあ、またあっちで」
「ああ、じゃあな」
一呼吸置いて、フレイアから強烈な魔力が吹き出した。
一瞬のうちに目の前が白くなって、熱さと痛みがやってきて、通り過ぎていった。
何度目になるかわからない。それでも殺されるのならば彼女がいい。そう、これでいいんだ。
そうして俺の意識は消し飛んでいく。けれどなんだか嫌な気はしなかった。
そのまま真っ暗な穴へと落ちていくようだった。そして、プツリと記憶が飛んだ。
【to the next [actuality point]】




