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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈expiry point 1〉 Common Destiny
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八話

 朝起きると、目の前にメロンが二つ転がっていた。


 しかし俺は慌てない。いろいろと理解しているからだ。


 まず、昨日そのままベッドに入って寝ちゃったけど、本来ならベッドはフレイアが寝るべき場所だった。でも俺が寝ちゃったから、フレイアは仕方なく俺の隣で寝た。さしずめそんなところだろう。いやいや、お前、俺の代わりに床に寝るって選択肢は取らなかったのかよと。


 いやいや待て待て逆じゃないのか。俺と寝たくて仕方なかったと考える、もしくは床で寝るよりも俺と一緒に寝る方がいいという思考の元に成り立った事象なのでは。そう考えればこの二つのメロンもとい軟体生物(肌色)を自由にする権利が我にもあるのではないか。


「ないから」


 殴られてベッドから落ちてしまった。


「痛いです。っていうか俺口に出してた?」

「思いっきり出てるわ。なにが軟体生物か。これは私のものだぞ」

「えらいすんません」

「反省してるならよろしい。で、今日はどうする?」

「正直なにも進展してないからなあ。バケモノになった男のこともよくわからないし」

「じゃあさ、どこか出かけない? この世界のこと知りたいんだけど」

「う、うーん……ちょっと待ってて」


 彼女を一人残して部屋を出た。恐る恐る階下に降りていく。玄関に双葉の靴はない。


 これならなんとか出られるか。あまり近所じゃなければ友人にも見つからないだろう。というか買い物をしていて友人に遭遇したことなんてないから大丈夫だろう。


 また部屋に戻り、出かける準備でもするか。


「どこ行ってたの?」

「双葉がいるかと思って。もしも家にいたら部屋から出るのも難しいしな」

「じゃあいなかったんだ」

「そういうこと。とりあえずテキトーな服を着てくれ」

「おっけーい」


 目の前のメロンを揺らしながら着替えを始めるフレイア。本当に目に毒だ。


 着替えを済ませた俺たちは周囲を気にしながら家を出た。電車で三駅いったところにあるショッピングモールへと向かう。


 フレイアにはティーシャツとスキニージーンズを穿かせた。これも、なんとかしないといけないな。一応出る時に預金残高を見てきたけど、一年以上バイトした甲斐があって五十万くらいある。これなら服くらいは買ってやれるかな。


 見るもの全てが珍しいのか、歩いているだけで目を輝かせている。駅にいる大勢の人たちを見て首を傾げている。服装が気になるのだろうか。電子マネーでの精算にも感嘆の息を漏らし、電車が来れば驚いていた。電車から見える景色には特に興味を示していた。向こうの世界にはない「人工物と自然が融合した景色」だからだろう。確かに向こうの世界で産まれ生きてきたのなら、違和感だらけに見えてもおかしくない。


「おおー、すごいね。これが全部お店なんだ」


 駅を出てショッピングモールに到着。フレイアが足を止めてキョロキョロと辺りを見渡している。県内外もたくさんの人が来るほど有名だ。低価格で商品を提供するブティックから、一着数十万するスーツをオーダーメイドで作る紳士ブランドまで。食事や雑貨なんかも同じように価格帯に関係なく揃っている。ここに来る客層は様々だ。


「とりあえず服でも買うか」

「欲しい服でもあるの?」

「ちげーよ、お前のだよ」

「わた、しの?」

「そうだよ。俺は別に欲しいものなんてない。例えばそうだな、俺たちはいつあっちに戻るかわからない。死ねば戻れるのかもしれないけど、今このまま戻っていものかどうかもわからん。それならある程度生活するための道具とかあってもいいかなーと思ったわけだ」

「でも双葉ちゃんに見つかったらマズイんでしょ?」

「見つからないように努力するしかないだろ。幸い、アイツは俺の部屋を掃除してもタンスや押入れの奥までは整理しないからな。お前の私物があってもなんとかなるだろ」


 俺がそこまで言い終わると、フレイアはなぜかクスクスと笑っていた。


「んだよ、なにがおかしいんだよ」

「だって、私の私物が見つからなくてもさ、私自身が見つかっちゃうじゃん」

「それも、まあ、これから考える」

「はー、テキトー」


 今度は腹を抱えて笑ってやがる。なんかムカつくけど、ほんのちょっとだけこっちも楽しくなってくるようだ。


「ほら置いてくぞ。迷子になっても助けてやんねーからな」

「ごめん。ごめんってー」


 歩き出した俺の後ろから、フレイアが小走りでついてくる。双葉以外の女の子とこんなやり取りをする日が来るなんて思っていなかった。しかもこんなに可愛い女の子と。


 異世界に行ったことも夢だと思えるし、可愛い子と買い物に来るのだって夢みたいだ。いや、双葉が可愛くないって言ってるわけじゃない。双葉は可愛い。とても可愛い。しかし別腹だ。


 はしゃぐフレイアと一緒にショッピングモールの中を練り歩いた。途中で本屋に寄って、バッグや見て、雑貨屋に入って彼女専用のマグカップを買った。


 そして服屋へ。フレイアの外見は日本人らしくないしどこか気品がある。スタイルもいいし、そこそこでもいいから様になるような服を着てもらおうと思ったら、そこそこいい値段がするような店を選ばなきゃいけなかった。


「じゃあこの中から好きなの選んで。とりあえず上下一着な、一着」

「広いねー、こんなお店入ったことないよ。都市部に行けばあるのかもしれないけど私は行ったことないし」

「値段の見方もわからないと思うから一々になっちゃうけど俺に訊いて欲しい」

「うんわかった」


 フレイアが店の中に飛び込んでいった。俺は彼女の後ろからついて歩き、近くにある服の値札を見た。


「うげー、マジかよー……」


 そりゃ安くないことくらい知ってて来たけど、双葉と来たときはこんなに高くなかったぞ。


「セール品のブラウス一枚三千円……通常の値段七千円……」


 これが高い方の商品ならばいいのだが。


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