七話
その後、テレビを見ながらなんやかんやと雑談してから自分の部屋に戻った。
ベッドに入って今日の出来事を思い出す。俺は今、間違いなくフレイアを疑っている。フレイアだけじゃない、あの異世界の住人すべてを疑っていると言ってもいいくらい疑心暗鬼に陥っているのだ。そうでなければ俺はフレイアを一人で行かせたりなんてしないはずだ。どんな言い訳をしてでも一緒に行って、一緒に謎を解決するはずだ。それをしなかったのは、彼女と一緒にいることが正しいかわからないからだ。
「どうしてこんなことになったかな……」
すべては異世界転生が原因、と言ってしまえばそれまでだ。でも異世界転生がなければフレイアと出会うこともなかった。なにごとも考え方次第なんだが、それが俺の頭を悩ませていた。
ドアからノックの音が聞こえた。返事を返すとフレイアが入ってきた。
「どうしたんだ?」
「窓から出てくって言ったでしょ」
と言いながらもなぜか布団に潜り込んでくる。
「なんなんだよ……」
「行く前の仮眠に決まってるでしょ。はいはい壁の方に寄ってね」
なんというか、この状況に少し慣れてしまった自分が怖い。
俺が壁に背を向けているところにフレイアがベッドに入ってきた。彼女は俺に背を向けているため、彼女の頭が目の前にある形になった。俺の両手は自由だし、彼女を抱きしめることもできる。
しかし、今はそれができない。恥ずかしいとか、彼女の気持ちだとかそういうんじゃない。気持ちが揺らいでいるのだ。
「またなんか悩んでるの?」
静かな空間にフレイアの声が広がっていく。
「別になにもない」
「そう、それならいいけど」
今日はなぜか大人しい。こういう時のフレイアはもっとこう、食いついてくる印象があったのに。
「でもなんでそう思う?」
「自分では気づかないのかもしれないけど、ちょっとしたときに張り詰めたような顔してたからさ」
「ちょっと腹が痛かっただけだ」
「そ、ならいいんだけどさ」
また部屋の中が静かになった。
「イツキってさ、意外と紳士だよね」
「いきなりどうした」
「この状況、普通なら抱きついてきてもおかしくないでしょ」
「まあ、普通なら」
「じゃあ今は普通じゃないってこと?」
「この状況が普通ってことはないと思うが……」
「それは確かに。でも自分からこの状況に飛び込んだんだから、ちょっとくらいは気持ちを察してくれてもいいと思うんだけどね」
「それって、つまり」
抱きしめてもいいってことか。いや、そうでなきゃこんなこと言わないはずだ。
俺は布団の中で手を動かした。そして、その手を元の位置に戻した。
結局俺はなにもしなかった。できなかった。自分の気持ちがわからなくなってしまったのだ。
そのうちに睡魔がやってきた。
意識が落ちる直前に、大きな安堵感と僅かな罪悪感、それと小さな後悔があった。その後悔がなにに対しての後悔かは、眠る直前になってもわからないままだった。




