四話
起きてカレンダーを見ると少しだけ心が軽くなった。金曜日というのはワクワクする。
今日は双葉と一緒に登校することにした。家を出る前にフレイアにメッセージを送ったが返事はなかった。
家を出て少し行ったところで、後ろから優帆が追いかけてきたので三人になった。こういう時は双葉と優帆でずっと話をしているので俺は後ろからついていくことになる。テキトーにスマフォを見ながら時間を潰す。現実世界や異世界を行き来しているので、ネットニュースでも見て頭の中を整理しないとやっていかれない。
ネットニュースでもモンスターが出現したことが取り上げられていた。何度かやり直してはいるが、人がモンスター化したこと自体を防いだわけではない。それを誰かに見られていれば、こうなることも仕方がない。
モンスターの記事を追っていて思うのは、やはり目撃証言はミカド製薬本社がある場所の周辺で起こっているということだ。人をモンスターにするウイルスは本社でしか作られていない、と考えてもいいだろう。憶測でしかないのでなんとも言えないが、俺が持っている情報で考えられることにも限度があるのだ。
今日もまた、勉強をして、昼食を食べて、午後の授業を受けた。五時間目は数学でイヤイヤだったが、六時間目が水泳なので気が楽だ。
この学校は男女関係なく水泳の授業を一緒に行う。高校男子としてはありがたくもあり恥ずかしくもある。
だが、中には当然嫌がる男子もいるし女子もいる。男子の典型としては泳げない、というのが理由らしい。
最初に準備運動、25メートルを自由に四回ほど泳いだら自由時間になる。かなり自由な授業内容なのだが、授業としてはどうかと思う。
少しだけ泳いだあとでプールサイドの端っこの木陰で休むことにした。なんというか、遊んだりする気にはなれなかったのだ。
「なに遊んるの」
影が出来て顔を上げた。
「なんだ、優帆か」
「なんだとは失礼ね」
そしてなぜ横に座る。
「お前の友達は楽しそうに遊んでるぞ」
優帆の友人たちがこっちに向かって手を振ってきた。優帆と違って胸元の主張が激しいのでぴょんぴょん跳ねているとドキドキが止まらない。
「胸ばっか見てんじゃねーぞ」
「痛い痛い痛い。耳を引っ張るんじゃない」
「アンタがいやらしい目で見てるからでしょ」
「どうしてそう言える。俺はただ見てただけだぞ」
「いーや、鼻の下が伸びてたね」
「そうかいそうかい。それならもうそれでいいです。つかなんで来たんだよ」
「別に用事はない」
「なんなのお前……」
昔からよくわからないところはあったが、最近は特によくわからない。わかりやすいところは誰が見てもわかるのに、たまに理解不能な行動を起こすのだ。
「まだなんか心配してんのか」
「そういうわけじゃない。そもそもなんで私が過度な心配をしなきゃいけないわけ? ただのお隣さんのアンタの心配なんか」
「急に刺々しくなったな。なんかあったのか?」
「なにもないわよ。別に、なにも」
優帆はずっとプールの方を見ていた。けれどその視線は楽しそうに遊んでいる友人に向いているのとは少し違う。なにか別のなにかを見ているような視線だった。
「俺はさ、お前のことただのお隣さんだなんて思ったこと一度もないぞ」
優帆の顔を見ていて、そんな言葉が出てきた。
「な、なによ急に」
「お前が俺のことどう思っててもいいけどさ、俺はそうは思ってないってこと。ただそれだけ」
「よいしょっ」と立ち上がってプールへと歩き出しだ。
「それだけって、なんなのよ」
優帆のことは好きだと思う。でもそれは恋愛感情なんかじゃないはずだ。優帆は双葉と同じように妹みたいな家族としての愛情が大きい。大変な目に遭えば助けるし、困っているなら手を貸したいと思っている。だからただの隣人なんていい方されるのはイヤなのだ。
サダやたっつんと遊んでいると六時間目が終了した。放課後を迎えて、けれど俺は一人で帰ることになった。双葉は用事があるとかでまだ学校に残るらしい。
寄り道などせず直帰した。家の中は静まり返っていて、なんだか少し寂しくなった。今までが騒がしすぎたと言ってしまえばそこまでだ。
部屋着に着替えてベッドに横になった。もう一度フレイアにメッセージを送る。すると「そんなに心配しなくても大丈夫だ。新しい情報も入ったから今日は帰る」と返ってきた。
「よかった」
そこで手が滑ってライセンスが落ちた。拾い上げた時にいろんな場所に触れてしまったのが、画面はステータス画面になっていた。
「ハローワールド、か」
こんな力がなきゃ、余計なことを考えずに済んだんだ。逆にこんな力があったからこそ異世界に飛ばされてフレイアにも出会えた。それに死なないためのルートを模索することもできるんだ。




