表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈actuality point 6〉 Feelings falling
164/252

八話

 角を曲がると、兵士たちに取り囲まれたメリルの姿があった。


「メリル!」


 駆け寄って兵士たちをかき分けていく。


「どいてくれ! 俺はそいつにようがあるんだ!」


 兵士たちは俺を止めようとはしなかった。俺とメリルが対峙するのに数秒もかからなかった。


「その子は元々、時限爆弾として作られたんだよ」


 向こう側の長い階段からクラウダが声をかけてきた。


「時限、爆弾……?」

「モンスターへと変貌して人々を食い荒らす、そういう時限爆弾だ」


 メリルを見た。彼女は自分自身を抑えているのか、ブルブルと震えながら涙を流し続けていた。


「お前は、知ってたのか?」

「知ラナイ。デモ、コウナル気ハ、シテタ」

「だから昨日、あんなことをしたのか?」

「ワカラナイ……ワカラナイ!」


 メリルの周囲に火の玉が出現し、それが無作為に飛んでいく。壁に、廊下に、兵士に当たって爆発を引き起こす。あっという間に兵士たちが吹き飛んで、俺とメリルだけになった。


「なあクラウダ。コイツを元に戻す方法はないのか」

「こうなってしまった以上、どうすることもできない」

「殺すしかないのか」

「そうだ。殺すしかない。今すぐに」


 メリルが俺に向かって歩いてくる。一歩、二歩、三歩。その瞳に敵意はまったく感じられない。


「イツキ、サン」


 彼女が右手を伸ばしてきた。


「私ヲ、殺シテ」

「なんで俺に言うんだよ。もっと苦しまずに殺してくれる人はいっぱいいるだろ?」

「アナタガ、イイノ。アナタジャナキャ、ダメナノ」

「なんで俺なんだ? 俺はお前より弱い。優柔不断で、一人じゃなにも決められない」

「ジャア、今決メテ」


 彼女は両腕を伸ばした。やってくれ、という意味だとすぐにわかった。


 俺がメリルを殺すのか。


 ここで殺さなかったらどうなる。


 決まってる、誰かが手を下すに違いない。


「できねーよ、そんなこと」

「最期ノオ願イ。聞イテ、くださいませんか?」


 少しだけ、モンスターとしてではなく人としてのメリルが帰ってきたような気がした。


「アナタじゃなきゃ、イヤなんです」


 ぽたりぽたりと、涙が床に落ちていく。


 どうしてこうも無力なのか。俺のことを好きだと言ってくれた女の子さえも守れないのか。守らせて、もらえないのか。


「大丈夫。アナタに殺されるのなら、本望ですから」


 彼女がそっと目を閉じた。俺の気持ちとは裏腹に、彼女は覚悟を決めてしまった。


「殺してあげなさい。それが彼女の最期の望みであるなら、それを叶えてあげるべきだと思う」

「んなこと、アンタに言われなくてもわかってるよ!」


 彼女の笑顔を思い出すと、一歩前に進むこともできなくなってしまう。顔がメリルでなかったら、もしかしたらなんとかできたのかもしれないのに。


 その時、メリルの体が大きく震えた。そして顔に赤いヒビが入った。


「おいメリ――」


 次の瞬間にはメリルの顔は砕けていた。その先にあったのは、例えることが難しい別の顔があった。


 魔力が大きく膨れていくのがわかった。まだ両腕を広げてはいるが、無抵抗な状況がいつまでも続くとは思えない。このモンスターが暴走したらたくさんの兵士が死ぬ。調子が悪いであろう魔女でさえ、もしかしたら危険な目に遭うかもしれない。


 じゃあ、どうしたらいいんだ。


 答えなんて一つしかないんじゃないのか。


「あああああああああああああああああ!」


 モンスターに向かって飛び込んでいった。そして、俺もまた両腕を広げた。


 俺よりもずっと大きくなってしまったメリルを、俺は力いっぱい抱きしめた。


「気付いてやれなくて、見つけてやれなくて、本当にごめんな」


 もっと早く、彼女の気持ちに気付いていたら、また別の未来があったのかもしれない。それでも俺には好きな人がいるから。


「俺はお前の気持ちには応えられないんだ」


 だからこそ、ちゃんと見つけ出したんだって伝えたかったんだ。いなくなったら暗くなるまで探すんだぞって、伝えたかったんだ。


「ワカッテ、ル」

「クソがあああああああああああああああ!」


 目一杯の魔法力を注ぎ込んで目の前のモンスターを燃やした。抱きついているおかげが火の回りが非常に速かった。


「ごめんなさい。ありがとう」


 彼女は最期にそう言った。間違いなくそう言ったのだ。


「待て、待ってくれ! お前まさか!」


 メリルはわざと完全なモンスターになったのだ。俺が殺すのを躊躇わないように。殺しても罪悪感を抱かないように。


 兵士たちによってモンスターから剥がされた。兵士たちの腕力は強く抵抗することもできなかった。ただ、燃えているメリルを見つめていることしかできなかった。


 なんでだろう。異形の彼女が、わずかに笑ったような気がしたんだ。

 フレイアと双葉に連れられて部屋に戻ってきた。酷く汗をかいていたが風呂に入るきにはなれなかった。


 もしも俺が死んだら、もう一度やり直せるんだろうか。そもそもメリルがああなったのはいつだ。俺が眠る前だったら、助け出すことはできなくなる。


 それよりも一つだけ、確かめなければならないことがあった。きっとあの人ならば知っているはずだ。知らないはずがないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ