六話
朝になり食堂に行くと、双葉とフレイアが仲良さそうに朝食をとっていた。正直昨日はほとんで眠れなかったので朝食どころではない。しかし少量でもいいからなにか食べなければいざというときに行動が起こせない。そのいざという時というのが、この城で必要かどうかは別の話だが。
「お兄ちゃんおはよう」
「おはようイツキ」
「二人共おはよう。えっと、メリルは一緒じゃないのか」
名前を口にすると昨日の出来事が思い出される。いい匂いと柔らかな感触が、今でも鮮明に蘇ってくるようだ。
「メリルさん、部屋にいなかったんだよ。朝早くどこかに行ったみたいで」
「でも見た人もいなかったんだよね。どこ行っちゃったんだろ」
昨日のアレで恥ずかしくなって逃げた、なんてことはないだろう。昨日もだいぶ堂々としていたし、諦めないとも言っていた。
「そうか。そのうち腹減って顔出すだろ」
双葉とフレイアの向かい側に座って朝食を食べ始めた。どうしてもフレイアの唇に視線がいってしまうのは間違いなくメリルのせいだ。
朝食が終わって自室に戻った。が、特になにをしろと言われたわけではない。訓練とか勉強とか、これからやらなければいけないことは多いんだとは思うが、それがいつから始めるのかという話を一切聞いていないのだ。その話があるまでどうしたらいいのかわからない。
だが、なかなか時間は過ぎてくれない。現実世界と違ってテレビもゲームもスマートフォンもない。マンガも小説もないし、この世界の人たちはなにをして暇を潰してるんだ。
そのとき、ノックが聞こえた。
「はい」
返事をすると一人の女性が入ってきた。昨日会ったアニスやノーラとはまた違う女性だ。アニスやノーラもそうだったが、彼女もどこかで出会ったことがあるような感じがする。この既視感のようなものは一体なんなんだ。
「こんにちは、私はライネっていうの。今日はお話があってここに来たの」
ライネはニコニコしながらそう言った。アニスは礼儀正しくおとなしい、ノーラはカッコよくクール、でライネは明るくて飄々としている。そんなところか。
「キミが俺に話があるってこと?」
「残念ながらそういうわけじゃないんだな」
ライネは「ちっちっちっ」と人差し指を左右に振った。昨今こんなわかりやすいジェスチャーする人がいるんだな。
「一応クラウダ様からの話だと思って聞いてほしいな。つまりそこそこ大事な話ってこと」
「そこそこって……」
「まあまあそういいなさんなって」
彼女はドアを閉めて部屋の中に入ってきた。
「で、話って?」
「メリルさんの話」
ドキッとした。自分でもわかるくらい、一瞬で脈拍が上昇していく。
「メリルさん、昨日からいなくなっちゃんだよね。それでキミにはメリルさんの捜索をお願いしたいというわけ」
「なんで俺に? もっと適任がいるだろ。それに俺はこの城のこともよくわかってないんだぞ」
「それでもねえ、クラウダ様の意向だからねえ。城のことはわからなくてもメリルさんのことは知ってるでしょ? メリルさんが同行するようになったのはキミの説得があったからで、キミがいたからメリルさんはデミウルゴスを抜けた」
「そういうのもちゃんと報告されてるんだな」
「そりゃそうでしょ。あのね、ここはちゃんとした組織なんだよ。素性もわからない人間を組織に入れるとかどうかしてると思わない? 敵だった人間がピンチに駆けつけてっていうシチュエーションはありえるよ。でもその敵だった人間が組織に属するかどうかは別の話なのさ」
なんだろう、この違和感。ライネという女性に対しての違和感というよりは、なんというかもっと別な部分で妙な「ズレ」が生じているような感覚だ。
「まあメリルを探すことはいいんだけどさ、勝手に城の中動き回っていいのか? 見られちゃ困るとことかあるだろ」
「イツキくんわかってるねー。たしかにここには他人に見られて困る場所はいっぱいあるよ。そりゃね、ここまで大きな組織だからね。でもそういうところには入れないようになってるんだなこれが。入れない場所も多いと思うよ。だから好き勝手やってもらって大丈夫。この城も、キミ程度の魔力じゃ傷一つつけられないほど頑丈にできてるんだよ」
「他人、か」
「ちょっとショック受けてるみたいだけどハッキリ言うね。キミはまだ組織の一員じゃないからさ、こういう措置も仕方ないわけよ。見習いも見習い。他のメンバーの好意でここにいることを忘れちゃダメだよ?」
始終ニコニコしているが、言葉の端々に刺々しさを感じる。彼女はなにかを伝えようとしているのはなんとなくわかった。しかし具体的になにを伝えたいのかまではわからなかった。
「それじゃあ私は行くからね。ちゃーんとメリルじゃんを見つけるんだよ? んで見つけたらちゃーんと抱きしめてあげること」
「なんで抱きしめなきゃならないんだ」
もしかして昨日のやつ見られてたのか。
「メリルちゃんがついてきたのはイツキくんのせいだし、イツキくんがいたからここまて来たんだよ。私も一応性別的には女の子だからね、女の子の気持ちはわかるってもんだよ」
ライネは「それじゃーねー」とそそくさと部屋を出ていってしまった。嵐のような女だな。




