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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈actuality point 6〉 Feelings falling
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五話

「ここにいたんですか」


 そんな声がして振り返った。


「メリルか。どうしたんだ」

「夜風に当たろうかなと思いまして」


 今度はメリルが俺の横に並んだ。


 一陣の風が吹く。メリルは髪を指ですくい上げて耳にかけた。その姿が妙に艶かしくてドキッとしてしまった。


「イツキさんはなにをしてたんですか?」

「双葉と一緒に城内探検だ。双葉は魔女に呼ばれて行っちまったけどな」

「探検って子供みたいですね」


 クスクスと彼女が笑った。


 身長は低く顔は幼い。けれど、彼女には色っぽさがあった。同世代の女の子なんだというのを改めて思い知らされる。


「初めて来た場所っていうのは探検したいもんなんだよ。それが男心ってやつだ」

「子供心の間違いじゃないんですか?」

「バカだな。男はいくつになっても子供なんだよ」

「いくつになってもって、イツキさんはまだ十代じゃないですか」

「それを言われると返す言葉がないな」

「でもイツキさんらしくていいと思いますよ。ずっと、そのままでいてくださいね」

「俺はずっとこのままだ。たぶん変わらない」

「そうですね。そうだと思います」


 なんだかいつもと雰囲気が違うと、今初めて気がついた。いつもより色っぽく感じるのもそのせいかもしれない。


「なんかあったか?」


 俺がそう言うと、メリルは僅かに顔を曇らせ、再度笑顔に戻った。


「どうしてそう思うんですか?」

「なんかいつもと違うなと思って」

「なにが違うと思いますか?」

「雰囲気、かな」

「雰囲気なんてどうにでもなりますよ。女ですから」

「女ってそういうものなの?」

「女はいくつも別の顔を持ってるんです。知らないんですか?」

「男だし知らなくても仕方ないだろ」

「さては女の子と交際したこともありませんね?」

「ばばばばばか言うなよ。そそそそそれくらいあるわ」

「ないんですね……」

「憐れむような目をするな。そういう生き方もある。そういうメリルはどうなんだよ」

「私だってありませんよ。だから男の人の考えることとかわかりません」

「お前だって一緒なんじゃないか」

「んー、そうですね。それでもわかることはいくつかありますよ」

「ほう、じゃあなにがわかるのか言ってみてくれよ」


 男心がわかっているというのであれば聞いてやろう。しかしそれが間違った解釈だったらとことんまでお説教してやる。


 まあ俺も男心というものを完全に把握しているわけではないが。


「じゃあ耳、貸してください」


 メリルが自分の口元に手を持っていくので、俺も彼女に向かって身体を傾けた。


 次の瞬間、メリルの手が俺の頬に当てられ、気がつけば彼女の顔が目の前にあった。


 目を閉じたメリル。こんなにもまつ毛が長かったのか。唇には柔らかな感触。温かく、心地がよかった。


 そうじゃない。


 メリルの肩を掴んで身体を離す。


「おま、どういうつもりだよ」

「どういうつもりもなにも、こういうつもりですよ」

「こういうつもりって、えっと、そういうこと?」


 彼女が柔和に微笑んだ。月明かりに照らされて、彼女のすべてが輝いて見えるようだ。


 心臓の鼓動がうるさい。なにも考えられない。俺は今なにを考えてるんだ。なにを考えたいんだ。


「今ドキドキしてませんか?」

「そりゃしてるよ」

「男心ってそういうものだと思いますよ」

「そういうもの?」

「ストレートに愛情を表現されると気持ちが昂りませんか?」

「そんなの男も女も関係ないだろ」

「かもしれません。でもイツキさんはきっと私のこと、意識してくれたんじゃないですか?」

「意識するなっていう方が難しいだろ。こんなこと、気軽にしていいもんじゃない」

「気軽じゃないですよ」


 もう一度彼女の顔が近づき、俺は一歩も動けないまま強引に唇を押し付けられた。


「私はイツキさんに助けられたときからずっと、アナタのことが好きなんです。だから気軽じゃありません。アナタにしか、しませんから」


 向けられた好意に偽りはない。そんなこと俺にだってわかってる。ドキドキしてるし、メリルのことを意識している。違うな、意識させられたんだ。


 でも脳裏には別の女性の顔が浮かんでいる。メリルを意識すれば意識するほどにその顔が鮮明になっていく。


「わかってるんです。フレイアさんには勝てないこと。それでもなにもしないで見てるのだけはイヤなんです。もしかしたら振り向いてくれるかもしれませんし。だから、私はまだ諦めたりしませんよ」

「でも俺は――」

「言いっこなしです」


 人差し指が俺の口を塞いだ。


「今はまだ、言わないでください」


 メリルは目を細め、恥ずかしそうに微笑んだ。


「それじゃあ私は戻りますね。ちゃんと私のことを考えながら眠ってください。そうじゃないとイヤですよ?」


 軽快な足取りで、メリルも双葉と同じようにバルコニーを出ていってしまった。


 あっけに取られてしまい、別れ際の挨拶もできなかった。メリルがあそこまで大胆なことをする少女だとは思わなかったからだ。


「なんなんだよ」


 考えることがまた増えた。


「どうすりゃいいんだ……」


 頭を抱えてしゃがみこんだ。


 メリルが少なからず俺に好意をもっていることはわかっていた。しかしそれが異性に対しての好意だとは思わなかった。思わなかったんじゃない、思いたくなかったんだ。気づかない振りをしてやり過ごそうとしてたんだ。


 しかし、もうそれができなくなった。俺は選ばなければいけないのだ。メリルを受け入れるか、拒絶するか。それをしたくなかったから目を瞑って見ないようにしていたのに。


 一人になった俺は、足取り重く自室に戻った。ベッドに寝転んでも、布団を被ってもメリルの顔が忘れられない。唇の感触が今もまだ残っていて、けれど指で触ってもなにも変わらなかった。


 結局、俺は日が昇るまで眠ることができなかった。


 ようやくまどろみがやってきて、瞼の裏には一人の少女の顔があった。けれどそれが誰の顔か。そこまではわからないまま、俺は眠りに落ちていった。

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