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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈actuality point 6〉 Feelings falling
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四話

 大きな風呂、豪勢な食事、清潔な服にふかふかなベッド。ここにいればずっとこんな暮らしができるのか。そんなことを思いながら俺は部屋を出た。



 基本的には自由に城を見ていいと言われたので散策しようと思ったのだ。


 と、そこでちょうど双葉が部屋から出てきた。


「双葉も散歩か?」

「そんなところ。見てみたいところいっぱいあるし」

「じゃあ一緒に行くか。現実の世界じゃあこんなところに来る機会ないしな」

「そうだね、なんだがワクワクしちゃう」


 双葉が嬉しそうに微笑んだ。それを見ると俺の頬も緩んでしまう。


 ステンドグラスから差し込む月明かりは幻想そのものだった。ここがファンタジーの世界だとしても、ここまで幻想的な景色は今までなかった。


 廊下を歩き城の中を散策していく。と言っても、実際は特に見るような場所はない。観光地なわけでもなければ、なにか見どころがあるわけでもないのだ。ここは魔女や兵士が暮らす家なのだからそこは仕方がないだろう。


 廊下の中腹には大きなバルコニーがあった。外に出ると森が一望できる。空を見上げれば満点の星空が広がっていた。


「たまにはこういうのも悪くないな」

「大変なこと、いろいろあったもんね」

「たぶんこれからも大変なことだらけなんじゃねーかとは思うけどな」


 現実世界でもそうだが、この異世界でも問題だらけだ。数時間前に会ったルイのこともそうだ。「今は、の話だけどね」なんていうヤツの言葉が意味深すぎて不安になる。きっとなにか良からぬことを考えているんだろうが、なにをしてくるかまでは想像できない。


「お兄ちゃんはこれからどうするの?」

「どうするってどういう意味でだ?」

「現実世界に戻りたいって思ってる?」

「そりゃ思ってるさ。優帆のことだって助けなきゃならないしな」

「でもここにいればゆうちゃんが死ぬ運命は一生訪れないんだよ? ここにいる間は向こうの時間は止まってるのと一緒なんだから」

「まあ確かに。でも俺は優帆を救うために自分で死ぬことを選んだんだ。だったら、向こうに戻ってアイツを助けてやりたいって思う」

「じゃあこっちの世界はどうするの?」

「それを言われると困るけど……」


 非日常の世界というのは日常の世界があるからこそ憧れるものだ。非日常が輝いて見えるのは、日常があるからこそだということ。隣の芝は青く見える、ということだ。このまま異世界に移住したら、きっと現実世界に戻りたくなるに違いない。


「今はまだ考えなくてもいいんじゃねーかなって思ってる」

「それはどうして?」

「考えても始まらないからな。二兎追う者は一兎も得ず。でもどっちの兎を追うかはまだ決まってないんだ。もう少しだけ吟味したい」

「吟味って……」

「ま、そういうことだ。お前も無駄に考えることはないぞ」

「でも現実世界と異世界を行き来するにはお兄ちゃんが死ななきゃいけないんだよ?」

「死ぬことに慣れたってわけじゃない。俺だって死ぬのは嫌だ。でも正確には「痛いのが嫌」なだけなんだ」

「死ぬことは痛いことじゃないってこと?」

「死ぬという結果自体は痛くないだろ? 死ぬという結果にいくつくまでの過程が痛いだけだ。それに死んだあとでどうなるかがわかってるんだから、死ぬこと自体は怖くない。死ぬことでやり直せるなんていうとんでもない能力があるんだからさ」

「死ぬことは怖くない、か」

「人が死を恐れるのは、死んだあとでどうなるかわからないから怖いんだ。そうだな、ゴムなしバンジージャンプがあったとしよう」

「それはバンジージャンプって言わないんじゃない……?」

「いいから。で、地上もまったく見えない状況だったとする。でも地面には超ふかふかなマットがあって絶対死ぬことはない。つまり結果がわかってる状態なわけだ。それなら飛び込めると思わないか?」

「まあ、確かに。高所恐怖症とか絶叫マシンが嫌いっていうわけじゃなければ」

「高所恐怖症の人でも死ぬ、死なないがわかってるだけ違うだろ? それに高いところが怖いのと、落ちて死ぬのが怖いことはまったく違う。今の俺はそういう状況なの。痛いのは嫌だよ、怖いよ。でも死なない……正確にはまた繰り返せるってわかってるから、そのへんは受け入れてるってこと」

「うん、なんとなくわかった」


 双葉は俺より頭がいい。今の説明で理論的な部分はわかってもらえたはずだ。それに死んだあとに復活するという現象は双葉も経験している。


「でも無理はしないでね。心配でどうにかなりそう」

「それはすまないと思ってるって。努力するよ」

「お兄ちゃんがそう言うなら信用するけど……」


 納得していないという顔だが、今は引き下がってもらうしかない。


「あ、そうだ。私クラウダさんに呼ばれてたんだった」

「魔女に? なんで?」

「話が訊きたいって言われたの。たぶんそのうちお兄ちゃんも呼ばれるんじゃないかな」

「なに訊かれるんだろうな。ちょっと怖いぞ」

「私たちを受け入れてくれたんだよ? 大丈夫、心配ないよ」


 双葉は「じゃあね」と、笑顔で手を振ってバルコニーから姿を消した。


 少しずつ、少しずつだが双葉が大人になっていく。考えたくはないがいつかは俺の元から離れてどこかの男と一緒になるんだろう。成長は嬉しく思うし、俺の元から去るのもある意味喜ばしいことなんだ。それでもまだ、双葉は俺の妹という立場でいて欲しいんだ。


 いや、妹っていう立場は一生変わらないか。


 なんて思いながら頭を掻いた。

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