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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈expiry point 1〉 Common Destiny
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六話

 襟を掴まれ投げ飛ばされた。フェンスにぶつかったが目蓋だけは閉じなかった。


 俺が攻撃されている隙にフレイアがバケモノを拳で攻撃。武器もないのに一撃で撃沈とは、やはり俺とは格が違うな。


 ズルリと、男の身体が落ちていく。大きな音を立てて地面に落ち、起き上がる気配は微塵も感じられなかった。身体から白い煙を上げているが、煙というよりも蒸気という感じだった。


 最後に立っていたのはフレイアだけ。短時間ではあったが、勝ててよかったというのが本音だ。


「お前、倒すの早すぎでしょ……」


 背中が若干痛むけど立てないほどじゃない。尻の埃を叩いてからフレイアに歩み寄る。


「レベル60ならこんなものよ。最初はちょっと気を抜いてただけだし」

「そもそもお前が気を抜くことってあるんだな」

「私も人間なんだけど?」


 そう言いながら頬を膨らませた。こんな顔もできるんだな。子供っぽくてなんだか可愛げがある。


「気を悪くさせたなら悪かった……」

「わかってるならよろしい」


 表情は元に戻っていた。むしろ若干笑ってる。彼女が根に持たないタイプでよかったと心底思う。


「な、なあ、つっきー」

「おうたっつん。大丈夫だったか?」


 塔屋から顔を出すたっつん。無事でなによりだ。


「大丈夫だったけど、一体なにが起きてんだ……」


 そりゃそうだ。数回の攻撃でも屋上は滅茶苦茶だ。それくらいアイツの攻撃範囲が広かったということ。それ以上に攻撃力が高かった。


 一応、これで終わったってことだ。


「こっちの整理がついたら事情は話す。だからそれまで待っててくれないか」

「えっと、その……」


 そう言いながらもたっつんは視線を逸らさなかった。そして、不器用に笑った。


「わかった、お前がそう言うなら」


 小学校からの付き合いだ。お前ならそう言ってくれるって信じてたよ。


「今日は帰れ。俺はこの美人と話があるから。ここで残ってると、さっきみたいな怖い目に遭うかもしんねーだろ?」

「そりゃ怖え。じゃあ、一足先に帰らせてもらうわ」

「遊ぶことがあれば土日に。そうじゃなきゃ月曜な」

「ああ、またな」


 たっつんは素直に帰ってくれた。階段を下る足音もしたし間違いない。


「なんかわかったか?」


 モンスターの死体を調べているフレイアに声をかけた。だが、その死体はほとんど消えてなくなってしまっていた。もしかして、身体が煙になってしまったってことなんじゃないだろうか。


「ほとんど消えちゃったけど少しくらいなら。これは人の身体じゃない。あの一瞬で骨格も変わった。筋力も何十倍にも増強された。あんなの、注射一つでできることだとは思えない」

「なあ、あっちの世界にこういうモンスターっていたか?」

「いた。これより小型だけどライカンスロープというモンスターにそっくり。簡単に言うと狼男なんだけど、動きが早くて力が強い。特殊な魔法とかが使えるわけじゃないけど、近接戦闘において、同レベル帯の冒険者はかなり苦労するわ」

「誰が作ったんだ、こんなあぶねーもん」


 むしろ人に作れるもんなのか。たぶんウイルス的ななにかだとは思うけど、注射打った瞬間から骨格が変わるようなウイルスなんてあるのかどうか……。


 この世界にあんなバケモノが自然発生していれば世間的にも問題になってるはずだ。つまり人為的にバケモノにするものでなくては理屈が合わない。今見てしまったから言えることだし信じたくはないけど、人間を一瞬で作り変えてしまうようなものがあるってことだ。それが可能になるとした場合、俺たちにはまだ知識が足りない。自分が本来暮らしている世界の情報さえも足りていないのだ。


 あとは俺のような存在が他にいたらどうだろう、という仮説だ。俺が向こうの世界からガントレットなどを持ち帰ったように、ライカンスロープの血液をこちらに持ち帰って分析とかもできるんじゃないか。


「俺たちがなにをすべきか、ちょっとだけわかったような気がする」

「なにをするつもり?」

「こういうバケモノを作りだろうとしてる連中をぶっ叩くことだよ」

「誰がやってるかもわからないのに?」

「それをこれから探すんだよ。もしもライカンスロープの血液なりなんなりを持ち帰って、それを研究して、即効性のウイルスに仕立てあげたんであれば、お前を向こうの世界に帰す手段だって見つかるだろ」


 本当はわかっている。俺はコイツをいますぐにでも帰せると思う。考え方が合っているのなら、コイツに触れたまま死ねばいいんだ。生物とか関係なく、たぶん俺が死ぬ瞬間に触れていたものが一緒に死に戻りするんだ。最初に向こう側に行った時もそう、俺は制服を着ていたしスマフォも持っていた。


 でも、俺には自殺をする覚悟なんてない。だから――。


「ごめんな、フレイア」

「うん? 急にどうしたの?」

「いや、なんでもないよ。帰ろうか」

「ええ」


 こうして、七月二日の死を乗り越えた。


 家に帰ってフレイアをベッドへ。布団をかぶせて階下に降りた。


「お兄ちゃん、どこ行ってたの」


 リビングでめっちゃ怒られた。


 でも、こうやって怒られるのも幸せだと思える。生きててよかったって感じられる。不安要素はたくさんあるけど、妹の顔を見て、妹と同じ家で、妹の飯が食えるのはすごくすごいことなんだ。


 双葉が眠りについたあとでフレイアを風呂に入れた。慣れない環境だったせいか、その後すぐに眠りについてしまったが。


 高鳴る胸を抑えて俺も眠りにつく。本当はフレイアと一緒にベッドで寝たかったけど床で我慢してやろう。


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