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それでも俺は異世界転生を繰り返す  作者: 絢野悠
〈actuality point 5-2〉 truth obligation
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最終話

 双葉の顔の泥が拭き終わり、再度走ることになった。


 その五分後、また後ろで誰かが倒れる音がした。双葉だった。


「おいおい、大丈夫か?」


 そう言って近づくが様子がおかしい。


「すごい熱です。顔も真っ赤だし」

「さっきまでなんともなかったのに急にか?」

「わかりません。もしかしたらずっと我慢してたのかもしれません。フタバさん、喋れますか?」


 双葉は大きく胸を上下させて呼吸をしていた。しゃべるどころか動くのも難しいかもしれない。


「風邪、かな」

「違うな。これ、魔力欠乏の症状だよ」


 フレイアが双葉の頬に触って言った。


「魔力、欠乏?」

「人間の体内には多大な魔力を内包してる。人間の身体に秘められた魔力っていうのは、全部を開放すれば町一つを滅ぼせるほどとさえ言われているの。と言ってもエネルギーとしての魔力だから理論的な話にはなっちゃうけど」

「その魔力がなくなってきてるってことか。でもそんなにすぐなくなるもんなのか?」

「そんなわけないでしょ。急速に魔力が失われるなんて……」


 と、フレイアが頭上を見上げた。


「雨だ」

「雨がどうかしたか?」

「この雨が魔力を奪ってるんだよ。さっきからちょっとおかしいとは思ってたんだ。やけに魔力消費が激しいなって」

「さっき転んだ時に泥まみれになったからってことか?」

「そういうこと。それだけじゃなくて、雨を吸い込んだ服を身に着けてたからっていうのも原因だと思う。少し濡れるくらいなら問題ないし、拭けば多少の違和感程度で済んだと思う。でもずっと肌に触れてたとなれば話は別。早く服を脱がせて処置をしないと」

「処置ってどうするんだ。ここじゃなにもできないぞ」

「まず服を脱がせてからイツキがフタバちゃんをおんぶする。後ろからメリルがフタバちゃんに向かって魔力を供給する。方法はこれしかない」

「迷ってる時間はないってか」

「とにかく、イツキはしゃがんで待ってて。絶対にこっち見ないで」

「わかった。早くしてくれよ、しゃがんだ態勢ってきついんだ」

「いいから早く」


 仕方なくしゃがみ込み、いつおぶさってもいいような態勢をとった。後ろの方ではがさがさごそごとと聞こえる。だが一分程度で身体に重みがかかった。


「よし、行くか」


 落とさないようにと立ち上がる。身体強化のおかげもあって特に重いとは感じなかった。


 メリルが双葉に毛布をかけ、俺の前でそれを縛った。


「魔力の放出が収まっても風邪をひいたら意味がありませんからね。それじゃあ、行きましょう」


 背中を押されるように、先程より少しゆっくりの速度で走り始めた。


「いったいなんなんだよこの雨。自然現象じゃないだろ」

「作為的なものだとは思うけど、誰がどうやって引き起こしてるのかまではわからない。一刻も早くエルドートに到着しなきゃいけないことだけは確かだけど」


 作為的、と彼女は言った。つまり誰かが「俺たちがここにいること」を知っていてやったことになる。ただの盗賊がやるにしては大掛かりだ。こんなことができるやつは知らないが、こんなことをやりそうな組織にだけは心当たりがあった。


「デミウルゴスの仕業、ってことはないか?」

「あり得る。なんでかわからないけどイツキのこと狙ってるみたいだったし」

「もしかして俺の能力に気付いてるのか?」

「さあどうだろ。でも知ってたら狙われても不思議じゃないと思う。無限に同じ日を繰り返せるんだから、精神操作なんかでもされればイツキはデミウルゴスの傀儡になる。そうすればデミウルゴスの都合がいい未来が作られる」

「それだけは勘弁して欲しいな……」

「犯人がデミウルゴスじゃないことを祈るしか――」


 続けられるはずの言葉が聞こえることはなかった。


 前にいたはずのフレイアが、一瞬にして消えてしまった。いや、どこにいったのかはわかっている。左側から来た「なにか」によって、右側へと消えていったのだ。


 当然、雨を防いでいた透明な傘は消えた。俺たちの身体を雨が濡らしていく。一気にけだるさがやってきて息が荒くなる。


 苦しい。身体が重い。


「クソっ……! なんなんだよ……!」


 前のめりに倒れそうになるが、なんとか踏ん張ってこらえることができた。これを長時間続けろ、と言われても難しい。


「フレイア……」


 右の方に視線を向けると、フレイアが木の下に立っていた。


 急いで駆け寄ると、立っているわけじゃないということに気がついた。


 大きな槍で胸を貫かれ、木に貼り付けにされているのだ。


「おい、突然すぎるだろ……」


 次の瞬間、俺の右腕が吹き飛んだ。叫びそうなほどの激痛。それでも俺はフレイアしか見ていなかった。


 矢継ぎ早に飛んでくる何本もの槍。右腕を抑えながら、フレイアに向けられて飛んでくる槍を払い落としていった。


「イ、ツキ」

「まだ息があるのか。誰かフレイアを――」


 誰かって誰だ。誰がここにいるというんだ。振り向けばメリルも倒れてしまっている。双葉もダウンしたまんまだ。


「俺しか、いないのかよ」


 雨を降らせたやつも、槍を投げたやつもわからない。こんな状況で、いったいどうしろっていうんだ。


 その時、フレイアが微笑んだ。


「だい、じょうぶ」

「大丈夫ってなんだよ。大丈夫なもんかよ」

「アナタなら、だいじょうぶ」


 ぎゅっと胸が締め付けられる。


 間違いない。俺はフレイアのことが好きなんだ。何度も死線をくぐってきた。何度も助けられてきた。たとえ俺が生き返ろうとも、好きな人が死ぬ姿は見たくないんだ。


 そのとき、俺の胸をなにかが貫いた。下を見るとぽっかりと穴が空いていた。


 大丈夫、俺は何度でも生き返る。駄目なのは死ぬ前にデミウルゴスに捕まること。


「どうして、こうなっちまうんだろうな……」

「運命、なのかもね」


 フレイア胸に刺さった槍を強引に引き抜いた。胸が痛い、熱い、今すぐにでも意識が飛びそうだ。


 落ちてくる彼女を支えて、もう一度口にする。死ぬ間際だからなのか、感情が一気に溢れ出してくる。


「生きてて、欲しいよ」

「そっか」


 フレイアは小さく息を吸い、目を見つめてからまた微笑む。


「じゃあ、私をもっと愛してあげて」

「意味が、わからない」


 フレイアが俺に手を伸ばす。次の瞬間、俺の視界はブラックアウトした。先程まであった痛みはどこかに吹き飛んで、妙な暖かさが身体を包み込んだ。まるで誰かに抱かれているようなそんな暖かさの中、俺は、意識を失っていった。








【to the next [expiry point]】

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