十三話
「風邪引くなよー!」
なんてアルの激励に手を上げて挨拶をした。
どんどんと二人の姿が小さくなっていく。その姿が見えなくなるまで、俺は馬車から手を振り続けた。
「名残り惜しそうにしちゃって、ホントは残りたかったんじゃないの?」
なんてフレイアが言ってきた。
「んなわけあるか。なんのためにここまで来たと思ってるんだ」
「なんのために来たの?」
視線が交わり、思わず顔を背けてしまった。
「〈蒼天の暁〉に入るために魔女に会う。それで――」
それで、この世界で生きるための地盤を作る。
「それで、なに?」
「いや、なんでもないよ。早く魔女に会ってみたいな。どんな人なんだろ」
誤魔化すように馬車の外を見た。
俺はまだ迷っている。これからどうするべきなのか、これからどうした方がいいのか。フレイアにはそれを悟られたくない。彼女にだけはこの不安を知られたくなかった。どうしてそう思ったのかまではよくわからない。
居眠りをしたり、おしゃべりをしたり、ゲームをしたり、そうしているうちに馬車が止まった。
もう着いたのかと馬車を下りると、目の前には崖があった。向こう側は遠くないが、細い橋が一本架かっているのみで、馬車で渡れそうにないことは誰でもわかる。
「これは馬車じゃ渡れないわな」
「他の道もあることはあるけど、ここからだと遠いからね。だからここからは歩き。この森さえ抜ければエルドートは眼の前だからさ。ほら、頑張って行くよ」
フレイアに励まされ、ため息をつきながらも歩き始めた。
細い橋を渡り森の中に入った。木々が低いため道は歩きやすい。
「なんかこう、魔女派の総本山への道なのにどうして森を通らなきゃいけないんだっていう疑問を持ったんだけど大丈夫?」
「ちなみに言っておくけど、エルドートは森に囲まれてるけど、この森は不審者の足を遅くするためのものだからね」
「そんなの魔法とかでなんとかなるんじゃないのか?」
「魔法も万能じゃないってこと。結界はあるけど、エルドートの周囲に張られてる程度だから。広範囲に展開すればそれだけ魔力を消費しちゃうからさ」
「魔女ってすごい魔力を持ってるんじゃないのか?」
「それはそうなんだけど、まあいろいろと事情があるのよ」
苦笑いで頬を掻くフレイア。深く聞けるような雰囲気でもないし、ここは仕方なく流すことにした。
どれくらい歩けばいいのか。そんなことを考えた時、地面に小さな無数の染みができた。その直後、大粒の雨が物凄い勢いで降り注ぐ。あまりに突然すぎて頭が真っ白になってしまった。この森の木々は低く細めなため、雨宿りできそうな場所も見当たらない。
「こっち!」
ぐいっと手を引かれた。フレイアだった。
俺たちは大雨の中を走り抜けた。どこに行くのかと思ったが、少しずつ小屋が見えてきた。雨が強いため性格な大きさまではわからないが、この人数ならば問題なく入れる大きさだ。
小屋に飛び込み座り込んだ。これだけの大雨だ、気温が高いというわけでもないので体温が低下して体力が奪われたのだ。
と、こんなことをしている場合ではない。早く服を脱がなければ。
周りを見るとフレイアと双葉、それにメリルしかいなかった。
「他の三人はどうした……?」
「たぶん他の小屋にいると思う。この辺はさ、こういうこと少なくないんだ。だから休憩小屋が点々と建てられてるんだよ」
「なるほど、そういう……」
フレイアは慣れた手付きで、小屋の中央で火をおこしていた。中央部は火をつけることを想定してるみたいに砂場になっていた。
改めて視線を上げると、三人の女の子が目に入った。服は身体にピッタリっと張り付き、明るい色の下着が透けて見えてしまっている。
「はい、男の子はあっち向いて着替えてね。濡れた服はこっちに投げて」
くるっと身体を反転させられてしまった。手際が良すぎて脳裏に焼き付ける暇もなかった。光源が焚き火のみのため、実は鮮明には見えていなかった。
残念は気持ちはあるが、焚き火を背にして服を脱いだ。それを後ろ手に焚き火の方に投げた。
「紳士でよろしい」
両肩に手が添えられた。
「そのまま後ろに進んで」
言われるがまま、に後退し、フレイアに任せて座った。背中だけだが非常に温かい。
「はい、イツキさん」
ふわっと毛布がかけられた。今のはメリルだろう。
「ああ、ありがとうな」
「いいえ、これくらい問題ありませんよ」
メリルもフレイアも少し距離を取って座ったのか、いきなり二つの気配がなくなった。妙な寂しさを感じてしまうのは身体が弱っている証拠だと思いたい。
「この辺は異常気象ばっかりなのか?」
「まあね、晴れがずっと続いたかと思えば、こういう豪雨になることもある。だから木々が育ちづらいんだよ」
「どれくらいで止むんだ?」
「長くても一日だから、今日はここで夜を明かすことになるかもね。携帯食はたくさんあるしなんとかなるでしょ」
「モンスターとか大丈夫なのか?」
「この辺のモンスターは弱いから、そこそこのレベルの三人がいれば問題ないでしょう。特に魔女がいる町の周辺だから、人のレベルには敏感なモンスターばっかりだしね」
「しばらく、このままか」
何が悪いというわけではないが気は休まらなそうだ。女子三人が下着姿、ないし全裸だと考えれば当たり前だ。振り向きたいような、振り向きたくないような。そんな気持ちでいっぱいだった。




